マニアすら言葉を失う自動車メーカーの狂気! 敬意を込めて呼ぶ「おバカー」の世界

この記事をまとめると

■自動車メーカーがとち狂って開発したクルマ「おバカー」を探した

■ワンオフモデルが多いが市販化された物もある

■本稿では「”偉大なる”おバカー」ということで称賛したいと思う

自動車メーカーもたまには狂う時がある

「おバカー」について書けとのことである。

 おバカーとはもちろん造語で、WEB CARTOP編集部いわく「自動車メーカーがこんなの作っちゃっていいの? と感じさせるほどぶっ飛んだクルマ」のことであるらしい。

 例を挙げるなら、トヨタ iQに430馬力のエンジンをブチ込んだ「アストンマーティン V8シグネット」や、熟練職人がわざわざ手組みしたエンジンを、なぜかマーチ ボレロに載せた「日産 マーチ ボレロ A30」などが、編集部が言う“おバカー”に該当するとのこと。

 なるほど確かに、それらはかなりぶっ飛んだ市販車ではある。だがそれを「おバカ」呼ばわりすることには、個人的には若干の抵抗がある。

 いや、たかが原稿小作農の分際で編集部様のご命令に楯突くのもどうかと思うが、意味不明なまでにぶっ飛んだ車というのは「立派な大手メーカー様(およびその関連会社)」にしか、作ることができないものなのだ。

 零細チューナーがぶっ飛ぼうとしたところで、さほどの跳躍距離はマークできない。一例としてのアストンマーティン V8シグネットは、大アストンマーティン様だからこそ作ることができた、かなりの距離をぶっ飛ぶことができた、「偉大なる馬鹿グルマ」なのだ。

 ゆえに私は、それらを「おバカー」とナメた感じで呼ぶのではなく「IOC(Idai-na Obaka Car)」と、本稿のなかでは呼び表すことにしたい。国際オリンピック委員会(International Olympic Committee)のことが知りたくて検索し、この記事にたどり着いてしまった人には大変申し訳ないのだが。

スモールカーに4.7リッターV8をぶち込んだ怪物

 さてIOCである。代表的なIOCといえば、本稿の冒頭でもちらりと触れた「アストンマーティン V8シグネット」だろうか。

 V8ではないほうのアストンマーティン シグネットは、トヨタ iQをベースとする英国アストンマーティンの小さな高級車。トヨタから供給されたiQの完成車を一度バラし、1台あたり約150時間かけて、完全手作業によって組み立てられたモデルだ。

 ……その時点ですでに若干のIOC臭がただようシグネットではあるが、V8シグネットはそこにヴァンテージS用の4.7リッターV8エンジン(最高出力430馬力!)を移植したワンオフモデル。

 0-96km/h加速は4.2秒で、最高速度は274km/hとのこと。アストンマーティンいわく「ヴァンテージSよりも速い究極のシティカー」と言っているそうだが、究極のシティカーではなく「究極の偉大な馬鹿グルマ」の間違いではないかと、筆者などは思うのである。

 またこれも冒頭で触れた「日産 マーチ ボレロA30」も、相当なIOCだ。

 日産グループの特装車メーカーであるオーテックジャパンの創立30周年を記念して2016年に企画/製作/販売されたマーチ ボレロA30は、トレッドを約90mm拡大したうえで、超絶張り出した前後オーバーフェンダーを採用。

 そしてノートNISMOにも使われたHR16DE型エンジンに専用パーツを組み込み、現代の名工たちが手組みした最高出力150馬力の1.6リッター直4エンジンを搭載するなどした、30台限定生産のコンプリートカーだった。

 エンジン内部には軽量・高剛性化を図った専用のムービングパーツが使われ、手作業によるポート研磨も行われたマーチ ボレロA30は「現代の名工の無駄使い」と思えなくもないわけだが、30台はあっという間に完売したのだから、これで良かったのだろう。

室内にV10エンジンが突き出したミニバン!

 日産系のIOCといえば、「ジュークR」にも触れねばなるまい。

 2011年に日産欧州法人のワンオフプロジェクトとして発表されたジュークRは、小型SUVであるジュークにR35型日産 GT-Rの中身をブチ込んだIOCだった。

 プロトタイプに積まれたVR38DETT型3.8リッターV6ツインターボは最高出力480馬力だったそうだが、市販バージョンでは545馬力になったとのこと。GT-Rと同じトランスアクスルで、6速DCTのギヤボックスはトランクフロアの下にある。2015年6月にエボリューション型として登場した「ジュークR 2.0」は599馬力というさらにトンパチな最高出力をマークしたそうだ。

 ……先ほどから私は「だそうだ」とか「とのこと」など、伝聞調でのみ書いているが、当たり前である。わずか数台しか製造されなかった超絶IOCに、筆者のごとき無認可モグリ業者が試乗する機会など、あるはずがないではないか。

 とはいえジュークおよびジュークNISMOと、R35 GT-Rには当然ながら試乗したことはあるので、「あれがアレに移植されたのか……」とイメージし、その結果として目まいを起こす程度のことはできる。

 フランス共和国においてもIOCは発見可能だ。

 フランスのルノーが販売していた「アヴァンタイム」は、どこからどう見てもミニバンなのに、じつは2ドアのセンターピラーレスハードトップであるというトンパチな車だったが、ジュークRやマーチ ボレロA30のトンパチさと比べてしまえば「大したことはない」と見ることもできる。

 ルノーにおける最強IOCは「エスパス F1」だろう。

 アヴァンタイムのベースでもあった欧州車初のミニバン「エスパス」の生誕10周年を記念し、1992年のF1チャンピオンに輝いたウィリアムズ・ルノー FW14BのRS4型3.5リッターV10エンジンを、エスパスのミッドにマウントしてしまったというIOCだ。

 となれば、「さすがにエスパスの2列目と3列目シートは撤去され、2シーターになってるのかな?」と思うわけだが、エスパスF1には2列目シートがしっかり用意されている(さすがに3列目は撤去された)。だが2列目に置かれた2つのバケットシートの間には、ウィリアムズ・ルノー FW14BのV10エンジンが顔をのぞかせているという超絶(?)レイアウトだったのだ。

 F1用の3.5リッターV10エンジンは最高出力800馬力だったそうで、0-100km/h加速は2.8秒、最高速度は300km/hオーバーとのこと。しかし2台しか製造されず、市販もされなかったため、当然ながら筆者はエスパスF1の運転などしたことがない(それどころか、見たこともない)。

 しかし今、アラン・プロストさんがサーキットでエスパスF1を激走させている動画を見ることはできる。

 その素晴らしすぎる走りっぷりを見て、そしてその超絶快音を聴くにつけ、「やはりこの手のクルマは、“おバカー“ではなく“IOC(Idai-na Obaka Car)”と敬意をもって呼ぶのが正解だ……」と、あらためて思うのだった。