「欧州はMT大国」は過去の話! 貴重になりつつあるヨーロッパ産MT車とは

この記事をまとめると

■MTの3ペダルは「クルマを操縦してる」という感覚をたっぷりと味わわせてくれる

■現在でもMTで乗ることができる輸入車が少数ながら存在する

■BEVの時代が到来するとMTは絶滅するからこそ、いまMTに乗っておきたい

イタフラ系には比較的2ペダルが残っている

 いまとなってはハッキリと少数派だし、昨今の出来映えのいいオートマチック(以下、AT)やデュアル・クラッチ(以下、DCT)の2ペダル式トランスミッションにパフォーマンス面でも分が悪い3ペダル式のマニュアル・トランスミッション(以下、MT)。いまや日本における新車販売のおよそ99%が2ペダルというのも、ある意味では仕方のないことなのかも知れない。

 けれど、左足でクラッチ・ペダルを踏み、自分の腕でシフト・レバーを操作してギヤを切り換えるという一連の動作が、ドライバーに”自分は今、クルマを操縦してる”という感覚をたっぷりと味わわせてくれるのは、これはもう紛れもない事実。そこに楽しさを見出してるドライバーだって少なくない。

 かくいう僕も、シフト・パドルがついている2ペダルなら楽しいと思えるものの、それでもやっぱり自分の手足を駆使して積極的に変速していくMTのほうが較べものにならないくらい楽しいと感じている。自分のクルマも1台はATだけどもう1台は4速MTで、そちらの方にばかり乗ってるし、次に来ることになるクルマは5速MTだ。何だか自分の生きるスピードを自分で決めてる感覚がどこかにあって、そこがまた好きだったりする。

 ちなみにそれらはすべてイタリア車。クルマ好きの間では、ヨーロッパは圧倒的にMT優勢であると知られてきた。が、近頃ではだいぶ2ペダル率が高くなってきていて、3ペダルのMTがラインアップにないモデルもかなり増えている。ATの出来映えがよくなったりDCTが採用されたりで、”AT(2ペダル)はモッサリしてる=AT(2ペダル)は元気よく走れない=AT(2ペダル)はダサい”という感覚が薄れてきてることも、大きな要因のひとつかも知れない。

 日本に導入されてる欧州勢を見ても、もちろん日本がAT大国だから本国にはあるのにあえて外してるというモデルもあるのだろうけど、MTがラインアップされてない車種の方が圧倒的に多い。たとえばスポーティなイメージの強いBMWやアウディ、それにアルファロメオにも、もはやMTは1台もないのだ。それぞれに優れた2ペダルのトランスミッションがあるから不満というわけでもないのだけど、ちょっと淋しいな、と感じるところもある。

 ならば、逆にMTのモデルがラインアップされてるのは?

 思い起こしてみると、やはりイタフラ系には残されてることが多い。まずイタリアのもっともベーシックなブランド、フィアットでは、限定車ながら比較的頻繁に導入されるイタリア版ジムニーのような小型クロカン系SUV、パンダ・クロス4×4。これは6速MTのみの設定だ。

 フィアット500をベースに徹底的にメーカー謹製チューンナップを加えたスポーツ・モデル、アバルト595には、もっともベーシックなグレードともっとも高性能なグレードに、5速MTが用意されている。

 フランスはどうかといえば、残念ながらプジョーやシトロエンにはMTの設定がなく、ルノーだけが頑張ってる感じだ。ニュルブルクリンクの最速ラップ合戦で知られるメガーヌR.S.トロフィーに、変速スピードで圧倒的に勝るDCTと並んで6速MTが用意されてるのは当然といえば当然。

 面白いのは、小型MPVであるカングー・ゼンにも6速MTがラインアップされてることだ。若い頃に走りに熱中してたパパからの支持が、圧倒的に高かったりする。

この時代にMTしかラインアップしていないモデルもあった!

 ドイツは、ポルシェだけといっていいだろう。718ケイマンと718ボクスターのすべてのグレードに、抜群に優秀なDCTといえるPDKと並んで、6速MTが設定されている。

 また、911についても、もっとも上級グレードであり高性能グレードでもあるカレラGTSには7速MTが用意され、そのさらに上の走りを徹底的に磨き抜いたGT3にも同じく6速MTの設定がある。

 その辺りはさすがポルシェ、と思えるところだ。なにせスーパースポーツカーの分野には、もはや3ペダルのMTなど存在しないのだからして。

 イギリスはどうか。プリミティブであることが魅力的なスポーツカーとして知られるケータハム・セブンについては、660cc85馬力で車重440kgの170Sから2000cc240馬力で車重525kgの480Sまで、ラインアップのすべてが5速MTという潔さだ。

 1930年代からスタイリングをほとんど変えておらず、クラシカルなイメージの強いモーガンは、2019年デビューのプラスシックスが8速ATのみになったのが衝撃的だったが、その翌年に登場したプラスフォーには8速ATのほかに6速MTも用意されて、ファンたちをホッとさせた。

 ちなみに搭載するエンジンは258馬力のBMW製で、Z4やトヨタ・スープラのものと同じ。だが、Z4にもスープラにもこのエンジンとMTの組み合わせはなく、モーガンのみ。頑張ってくれたな、と嬉しく思う。

 ロータスについてはエリーゼ、エキシージ、エヴォーラのすべてが6速MT、もしくは6速MTの設定あり、だ。けれどその3車はすでに新車のオーダーは受け付けておらず、ディーラー在庫のみ、という状態。

 代わりに登場したエミーラのV6ファーストエディションの受注が日本でもスタートしているが、これにも6速MTがしっかり用意されてるところがロータスらしい。

 ……と駆け足で紹介してきたわけだが、ぶっちゃけ、もはやこれだけ、である。クルマの電動化がこれからさらに進んで、新車はBEVのみなんていう時代が本当に訪れちゃったら、そこではトランスミッションなんて概念はほとんど無意味。もちろんMTなんて絶滅しちゃうことだろう。乗れるうちに乗っておくべし、だ。

 誰にも問われてないけど僕の個人的なオススメをふたつ挙げておくと、ひとつはアバルト595。コンパクトな車体に弾けるような1.4リッター・ターボ、それに5速MTという3者のマッチングは抜群。

 いかなる場所、いかなるときでも気分がグッと盛りあがるような走りが楽しめるからだ。ナリからすれば驚くほど馬鹿っ速なコンペティツィオーネもいいのだが、個人的にはベース・モデルがいいと思う。吹き上がっていくときのフィールが抜群に気持ちいいし、145馬力をMTでキッチリ使いこなして走るのが面白いし、スピードだって充分にあるし、それらとラインアップのなかでもっともしなやかなシャシーとのバランスが抜群にいいからだ。

 もうひとつは、718ケイマン。これもベーシックなモデルがいいと思う。何が何でも速くなきゃ! というスピード志向の強い人ならともかく、そもそも300馬力もあれば十分に速いし、何よりケイマンの最大の美点である運動性能の高さをあらゆる場面で味わえるのが素晴らしい。

 ケイマンもエンジンのパワーが高いモデルになればなるほどシャシーも締め上げられていくわけで、コーナーでの限界は高くなる反面、飛ばしてこそ楽しいクルマになっていく。が、”素”のケイマンはシャシーがもっともしなやかで荷重もよく動いてくれるから、例えば交差点ひとつ曲がるのでも楽しく気持ちいい。やたらと飛ばせる時代じゃないから、普段使いで味わい深さに触れられるクルマのほうがいいと思うのだ。

 そういう意味ではケータハム・セブンの170Sも……と、話がどんどん長くなっていっちゃいそうなのだが、キリがないのでこの辺で……。