長らくこの仕事を続けていると、取材して好印象を抱いたプロ野球選手が問題や不祥事を起こして、あ然とさせられることがある。駆け出しのころは驚いたり、落胆したりしたが、そんな経験が何度か続くうち、こちらも一種の悟りの境地に達した。有名選手といえども、酒、金、女がからんだら豹変することもある。それが男という動物なのだ、と。

 しかし、しょせんそんなものだとわかってはいても、やはりがっかりさせられたのが、巨人・山口俊の暴行、傷害トラブルである。

 山口が事件を起こしたのは、30歳の誕生日だった11日未明のこと。都内で友人たちと飲食中に誤って右手の甲をガラスで切り、治療のために訪れた目黒区の病院だった。酒に酔って暴れ、玄関のドアを壊し、止めようとした男性警備員を負傷させたという。病院側が警察に通報している間、山口は現場から姿を消し、1週間も球団には何も報告せず、練習や友人との酒席に参加していた。事件の次元の低さに加え、それを素知らぬ顔で隠し通そうとしていた態度に同情の余地はない。

 しかし、繰り返しになるが、そうだとわかってはいても、あの涙は何だったのだろう、という思いが脳裏をよぎる。6月14日、本拠地・東京ドームでのヤクルト戦、FA移籍後初のマウンドに上がった山口は、6回まで無安打無失点と、野球人生でもベストに近いピッチングを披露。巨人での初登板で見事初勝利を挙げ、ヒーローインタビューのお立ち台で感涙にむせんだ。

 今年はキャンプイン直前に右肩の不調で出遅れ、2月にはインフルエンザでチームから離脱し、開幕してから二軍で3度も調整登板を重ねた末の初勝利だった。「迷惑をかけてますし、この1勝で終わらず、頑張っていきたい」という言葉にウソはなかったはずだ。

 あのとき、ノーヒットノーランの可能性もあったのに、山口は6回終了後にあっさりとマウンドを譲っている。お立ち台では「もういっぱいいっぱいでしたから」と話していたが、続投したくはなかったのか。

 実は、山口は6回の直後、首脳陣に続投の意思を示していた。尾花投手コーチに「次(7回)もいけるか」と聞かれ、「いけます」と答えているのだ。そこで尾花コーチが高橋由伸監督、村田真一ヘッドコーチといったん協議した上、「きょうはもういいよ。お疲れさん」と山口に告げたのである。

 独特なプレッシャーのかかる故障上がりの初登板で102球を投げ、4四死球と制球もいまひとつ。首脳陣に交代を命じられたのも仕方なかったが、それでも一度は「いけます」と続投を訴えたのが愚直な山口らしい。