2010年8月、私は共同通信社大阪支社から大津支局長として転勤し、妻の容子を東京から呼び寄せ夫婦で暮らす日々を取り戻した。「伯母さんを、もっと良い施設に移してあげよう」と言いだしたのは容子である。私はむしろ「気持ちは分かるが、これ以上負担を増やしたら、私の心身がもたない」と消極的だった。「私が探すから」と容子。

 大津市の比叡山のふもと、琵琶湖を望む高台にある有料老人ホーム「ハーネスト唐崎」を、妻は11年5月、友人を頼りに見つけてくれた。ハーネストを運営する医療法人社団「あかつき会」理事長の武田克彦医師夫妻が、老人保健施設を訪れ、受け入れるか否かの面接に臨むと、ユニホームであるピンクのジャージー姿の由利子は、武田夫人の直美理事を見て「きれいな服着れてええなあ」と羨ましがったそうだ。事はうまく進み神戸家裁の認可も得て、11年6月3日には、私たち夫婦ともども介護タクシーで有馬の奥から、ハーネストへと移動した。伯母にとっては心地よいドライブだったようだ。

 新居のハーネストは緑の田園に囲まれ、1階広間は日だまりとなり、横を走る京阪電車を見下ろす。スタッフの人数も多く、笑みをたたえ、面倒見が良い。由利子は、個室を供され衣服も自由だ。表情も明るくなった。季節ごとに、屋外会食やピクニックなどを催し、私たち夫婦が外出の機会を設ける必要もなくなった。

 ただ、老人保健施設では、賃貸住宅での敷金に当たる入所料は不要で、月額利用料は最高でも14万円余だったが、ハーネストは入所料380万円で、月々20数万円から30万円台を要した。「金は正直」。我が身の老後を想うと金を貯めておかねば、と痛感したが、もう遅いか。

転倒、骨折し入院

 由利子を琵琶湖畔に移して、もうすぐ3カ月の8月26日、妻容子の携帯電話が鳴った。ハーネストからだ。由利子が朝、介護士が来るのを待たずに自力でトイレに行こうとしてベッドから落ち、骨折の疑いが生じ、看護師が随行し救急車で大津赤十字病院に搬送されたという。病院での診察の結果、右大腿骨折が確認され、この日夕、折れた骨を金属でつなぐ手術が施された。妻が病院に泊まり込んでくれた。