今年5月7日に行われたフランス大統領選決選投票で、中道・独立系のエマニュエル・マクロン氏(39)が当選し、第5共和制第8代の大統領に就任した。マクロン氏は就任後、「経済、社会、政治的分断を克服するべき」と主張し、これまでの伝統的政治体制を押し切る独立系ならではの意欲をうかがわせた。欧州連合(EU)離脱を掲げる極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン氏(48)勝利の「惨事」は免れたが、フランス社会の実態は、想像以上に複雑だ。

 ヴェルサイユ大学のクリスチャン・ドラポルト政治史教授は、5月30日付のロイター通信に対し、当選したマクロン氏について、こう語る。

 「モダンと伝統を併せた複雑な人柄を持つが、そのモダンさは伝統から成り立っている。(中略)我々は、第5共和制の原点に戻ったようである」

 他方、極論主義のルペン氏は、高齢者を中心とする市民層の支持が厚い。決選投票に駒を進められたのも、その影響が大きい。

 マルセイユ近郊に住むジャック・コワントローさん(仮名=78)は、アルジェリア戦争を経験した元フランス兵。彼が常々、口にする言葉があった。

 「昔のイスラム移民は、フランスの経済成長に貢献した。しかし、今は荒くれ者の集まりで、国を破壊している。口にしないが、そう思っている人々は実に多い」

 こうした反イスラム感情をむき出しにするフランス市民は、彼ばかりではない。ルペン氏を支持する最大の理由は、今日のイスラム国(IS)問題以外にも、05年の移民暴動事件以来続く、国内の治安悪化に不満があるからだ。

 パリ市内にある大モスクの指導者で、イスラム評議会会長のダリル・ブバクール氏(76)さえ、当初、「イスラム移民の2世、3世は、自らの存続意義を失い、コンプレックスとともに社会の混乱を招いている」と漏らした。

 〝敬虔(けいけん)〟な極右支持者があふれる国で、歴代最年少の大統領を選出したのは、いかにも時代を先取りするフランスらしい。だが、いつ極右の火種がぶり返しても不思議ではなく、また、二者択一でマクロン氏に一票を投じる他なかった若者たちは、新政権への不安を募らせている。

 西部・シャラント県に住む保険会社研修生のアレクシ・グラビエさん(25)は、社会党の支持者だった。

 「共和党と社会党の2大政党の敗退は驚きだった。決選投票では、マクロンに投票したが、彼は若く、経験が浅いところが不安。とにかく、EU離脱が消えて安堵した」

 若年層にとって、フランスの孤立は想定外。国外で就職活動中のナタン・ビルヌーブさん(22)も、同じ考えだった。

 「イスラム過激派に対する恐怖などの影響で、ルペンが決選投票に進んだのは理解できる。だが、フラグジット(フランスのEU離脱)には将来がないと思う」

 ドイツのメルケル首相は、5月31日、「欧州が完全に他国を頼れる時代は幾分過ぎた」と消極的な発言をした。若い世代の期待とは裏腹に、着実にEU懐疑主義は進展している。

 世代の違いによる政治への期待と不安が露呈した今回の選挙戦で、結果は、EU離脱を拒む「スタトゥス・クオ(現状維持)」が勝利した。

 しかし、立て続けに起こるテロ事件、不安定な経済─。歴代最年少大統領のマクロン氏が、今後、国内外の諸問題を乗り切れるのか。そのプレッシャーと課題は大きい。

  
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◆Wedge2017年7月号より