今回のテーマは「トランプのリセットボタン」です。ドナルド・トランプ米大統領は、就任後6カ月を経過した段階で報道官、大統領首席補佐官及び広報部長といったホワイトハウスの主要ポストを入れ替えて、リセットボタンを押しました。中でも注目点は、議会対策で結果を出せなかった共和党主流派ラインス・プリーバス氏に見切りをつけ、まったく異なったタイプのジョン・ケリー国土安全保障長官を大統領首席補佐官に起用したことです。ケリー氏は元海兵隊将軍です。

 本稿では、「なぜプリーバス氏は大統領首席補佐官として成功を収めることができなかったのか」「ケリー氏はホワイトハウスに規律の回復をもたらすことができるのか」「トランプ大統領はトランプ陣営とロシア政府の共謀疑惑に対してもリセットボタンを押すのか」について考えてみます。

ゲートキーパー(門番)の役割

 一般に大統領首席補佐官の役割は、ゲートキーパーだと言われます。ゲートキーパーは、主として「大統領と誰を面会させるのか」並びに「どのアジェンダを優先的に大統領に上げるのか」等の意思決定を行います。一言で言えば、「人と情報のフィルター役」です。「人と情報の流れの管理者」とも言えます。大統領職における責務を果たすには、効果的な大統領首席補佐官が不可欠です。

 ではプリーバス氏は、なぜ大統領首席補佐官として効果的ではなかったのでしょうか。率直に言ってしまえば、同氏はゲートキーパーとしての役割をまったく果たせませんでした。その主たる原因は、プリーバス氏ではなくトランプ大統領のマネジメントスタイルにあります。同大統領は大統領首席補佐官のプリーバス氏に権限委譲をして、権限を集中させなかったのです。スティーブン・バノン首席戦略官兼大統領上級顧問と娘婿のジャレット・クシュナー上級顧問にも同等の権限を与え、権限を分散化してしまったのです。

 その結果、バノン氏、クシュナー氏、長女のイバンカ氏に加えて他の信頼の厚いスタッフまでもが、プリーバス氏を通さずに自由にトランプ大統領に接触ができたのです。ケリー氏を効果的な大統領首席補佐官にする鍵は、同氏に権限委譲をしてゲートキーパーとしての役割を明確にすることです。

規律と秩序を回復できるのか

 トランプ大統領はホワイトハウスに規律の回復を求めているのですが、これまでの言動をみますと、大統領自身が秩序の破壊者であると言わざるを得ません。以下で例を挙げてみましょう。

 トランプ大統領は、2016年米大統領選挙におけるロシア政府とトランプ陣営との共謀疑惑「ロシアゲート」の捜査対象に自分がなっているのか、ジェームズ・コミー米連邦捜査局(FBI)長官(当時)に直接尋ねました。

 本来ならば、まず大統領ではなくホワイトハウスの顧問弁護士が司法省に質問をします。次に、司法省がFBIに問いかけます。FBIは司法省に回答し、同省は得たその情報をホワイトハウスに伝えます。これが正式なコミュニケーションチャネルであり、ワシントンにおけるコミュニケーション上のプロトコール(儀礼)なのです(図表)。ところがトランプ大統領はそれに従わないのです。

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 トランプ大統領の規律に反する例をもう1つ紹介しましょう。下院情報委員会はホワイトハウスに書簡を送り、同大統領とコミー前FBI長官の会話の録音テープの有無について、6月23日までに回答をするように求めました。それに対して同大統領は、評論家やメディアにテープの存在の可能性と影響について散々議論をさせておいて、回答期限ギリギリまで沈黙を保ったのです。期限直前になってやっとツイッターに「私は録音していないし、テープも持っていない」と投稿し、録音テープの存在を否定しました。ホワイトハウスは文書で下院情報委員会に回答したのかもしれませんが、同大統領はツイッターの書き込みを「正式」な回答としているのです。

 米クイニピアック大学(東部コネチカット州)が8月2日に発表した世論調査をみますと、「トランプ大統領は私的アカウントを使ってツイッターで投稿を継続すべきだと思うか」という質問に対して、全体の69%が反対しています。ただ、共和党支持者になると40%が賛成しているのです。トランプ支持者は、ワシントンの規律及び秩序を破壊する同大統領の言動を強く支持しています。従って、同大統領の言動が変わらない限り、ホワイトハウスにおける規律や秩序の完全な回復は困難であるかもしれません。