2019年4月に再エネ海域利用法が施行されたことで、洋上風力発電(以下、洋上風力)普及への期待が急速に高まっている。同法により、国が自然条件などの各種要件を満たす海域を「促進区域」として指定し、同区域内において公募によって選定された事業者が、洋上風力発電設備の設置・運営ができるようになった。

英国Teessideの沖合1.5kmに並ぶ洋上風力発電(KENTARO KAZAMA)

 先行して洋上風力の導入が進む海外で問題視されているのが、設置にともなう海洋生物、とりわけ洋上に広く分布する海鳥への影響である。欧州においては、建設地選定においてこうした影響が慎重に考慮されている。一方、日本では、促進区域の選定に際し、環境大臣との協議を経て選定することにはなっているものの、海鳥などの生態系への影響に関する具体的な要件や判断基準は示されていない。

洋上風力は海鳥にとって脅威となる

 沿岸から沖合まで広く分布する海鳥は世界に330種あまり存在する。海鳥は繁殖期になると陸棲の捕食者が少ない離島などに多数の個体が集まり営巣する。海鳥の繁殖期は数カ月間におよび、この間、海鳥は繁殖地と餌場とを何度も往復する。近年、海鳥の行動範囲は動物装着型の小型GPSロガーなどで詳細に調べられるようになった。海鳥の行動範囲は広く、数十〜100km以上離れた餌場まで1日に何度も出かけることがある(Kazama et al. 2018)。飛翔の得意な種では巣から1000km以上離れた餌場まで数日かけて出かけることもある。繁殖地周辺や餌場までの移動経路で、海鳥は洋上風力の影響を受けやすい。

北海道利尻島のウミネコ集団繁殖地。営巣数は最大5万羽ほど、世界最大規模を誇る(KENTARO KAZAMA)

 海鳥が被る洋上風力の影響は大きく3つある。風車との衝突、いわゆるバードストライクや風車を回避することの影響、そして餌場の喪失である。陸上風力では、バードストライクが頻繁に生じることはよく知られている(Drewitt & Langston 2006)。洋上においては、継続的な観察が困難なことに加え、衝突死亡個体の9割以上が水没すると考えられているため、バードストライクの実態は十分に把握できていない。それでもドイツで実施された大規模な死体回収調査では4年間でのべ数百羽以上の死体が発見されており(Hüpop et al. 2016)、洋上風力でもそれなりの頻度でバードストライクが発生することがうかがえる。

 第2は、海鳥が風車を回避する影響である。海鳥はバードストライクを避けるために風車を回避して飛翔する。回避により衝突死は免れるものの、海鳥は餌場までの最短ルートをたどれないことで余計な飛翔エネルギーが必要になる。このエネルギー量を実測することは困難であるため、海外においては海鳥の様々な生態情報をもとに理論的に推測されている(Masden et al. 2010)。推測によれば、毎日繰り返し餌とりに出かける繁殖期の海鳥は、洋上風力の設置によって餌場までの距離がたとえば10km伸びると1日あたり最大25%も余計にエネルギーが必要になる。

 第3の影響は、餌場の喪失である。洋上風力付近に好適な餌場があった場合、建設により海鳥はこれが利用できなくなったり、餌場そのものが失われたりする。英国のScroby sands洋上風力では、設置前の地盤強度の測定調査によって海砂が生じたことで、それまで豊富であったニシンが数年間に渡り減少し、当地で繁殖するアジサシの餌量が減少し、最終的には繁殖地が消滅したことが報告されている(Perrow et al. 2011)。