1990年代初、中国共産党は社会主義と市場経済は矛盾しないと公式に定義した。その後、「発展こそ堅い道理」とする開発主義と、共産党による一党支配がそのための安定した国内外の環境を保障するという改革開放路線を示してきた。つまり、中国外交の目的とは、改革開放に貢献する、中国に有利な国際秩序を構築することである。

2015年の党中央委員会第5回全体会議で第13次5カ年計画が承認された (XINHUA NEWS AGENCY/AFLO)

 しかし、直近の中国の対外行動は、そうした外交の目的から逸脱しているように見える。米中対立の深化と中国の強硬な行動は、これまでの各国の対中戦略を見直す契機となっている。なぜ、中国指導部は国際社会との衝突をわずに強硬な行動を選択するのか。

 歴代の指導部は、自らを既存の国際秩序に遅れて参入したアクターと認識してきたため、発展に有利な国際秩序をどのように構築するかという課題は、既存の国際秩序にどのように適応するかというものであった。指導部は、自らを不利な立場にあるアクターだと理解し、注意深く、警戒心をもち、中国語でいう「不安全感」を抱きながら国際秩序を観察してきた。

 この不安全感について、中国の対外政策決定サークルに近いと目されている中国の元外交部副部長は、ある寄稿記事のなかで次のように説明している。パクス・アメリカーナといわれる既存の国際秩序は、米国あるいは西側の価値観、米国を中心とした軍事同盟、国連とその国際組織という三つの要素が形作っているという。その上で、これらのなかで前者二つは中国と相いれず、中国が受け入れることができるのは国連とその国際組織だというのである。ちなみに、この元外交官は既存の国際秩序を中国語で「世界秩序」と表現し、中国も包摂するものを「国際秩序」という。

 現指導部は、いま、国際秩序の行方に対する「不安全感」を一層に強めている。習近平国家主席は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが世界のパワー・バランスの変化を促す可能性があるとの認識を示していた。加えて習は、それが中国の安全と発展にとって深刻な影響をあたえていること、そうであるがゆえに「最悪の事態を想定」して備えるだけでなく「さまざまな複雑な状況に迅速かつ有効に対処する」必要性を確認した。

 指導部は、パンデミックの前から国際秩序の流動を注視していた。それが「100年に一度の局面の大きな変化」という言葉である。世界のパワー・バランス(「世界格局」)が流動し、国際社会のアクター間のゲームのルール(「国際秩序」)が変化するという局面にさしかかっている、というのである。

 「100年に一度の局面の大きな変化」という言葉は、2017年12月に中国の駐外大使や総領事が一堂に会した会議で習が行った演説が初出である。それ以来、習はさまざまな党内会議でこの言葉を提起し、「最悪の事態を想定」しておくことを指示していた。

 19年10月に開催された共産党の会議では、この言葉を国際秩序に対する共産党の公式の認識として確認し、そして「最悪の事態」に備えるための政策文書を採択した。このなかに香港国家安全維持法の立法にむけた方針が含まれていたことは、香港情勢を理解するための鍵である。

 指導部が不安全感を抱くような国際秩序の変化について、中国国内には、パクス・アメリカーナの衰退とみる議論があり、指導部はそこにリスクが含まれているとみている。そうした意識が「最悪の事態を想定」という習の指示につながっている。