2月15日、世界貿易機関(WTO)は、ナイジェリア出身のヌゴジ・オコンジョ=イウェアラを事務局長に選出した。対立候補だった韓国産業通商資源省の兪明希(ユ・ミョンヒ)通商交渉本部長は2月5日に立候補を辞退し、オコンジョ=イウェアラ一人が候補として残っていた。

bakhtiar_zein / iStock / Getty Images Plus

 オコンジョ=イウェアラは、ハーバード大で経済学士号、マサチューセッツ工科大で経済博士号を取得し、2007年から2011年まで世界銀行で専務理事を務めるなど、学識と実践の豊かな人物で、ダボスなどのハイレベル国際会議の常連であり、国際エリート社会に幅広い人脈を有している。また、ナイジェリアでは、財務大臣として180億ドルの外国債務の評価減を実現した他、経済調整大臣として原油輸出を巡る既得権益と果敢に戦った。

 フィナンシャル・タイムズ紙の2月13日付けの解説記事‘Nigerian powerhouse set to lead the WTO’は、「オコンジョ=イウェアラの喫緊の課題はWTOの事務局長職そのものだ。権限が明確に定義されないため、事務局長職の役割は事務局長の個人的資質に左右されてきた」と指摘する。上記のような経験、実績を考えると、オコンジョ=イウェアラは通商に関する専門家ではないが、漂流するWTOにビジョンを示し方向性を示す意味で適任と思われる。

 トランプ政権は加盟国の大半の意向に反して、オコンジョ=イウェアラの選出に反対していた(そのため対立候補の兪明希を支持)。バイデンが、トランプ政権の方針を覆し、初の黒人女性、初のアフリカ出身の事務局長を支援したのは、オコンジョ=イウェアラの経歴と実力を考慮すれば、政治的に容易な判断であった。トランプ政権のライトハイザー米通商代表は4年間にわたりWTOを無視し弱体化させ、退任直前の1月には、「WTOは潰さない方が良いが、全体的に失敗だった」と総括した。バイデンのオコンジョ=イウェアラへの支持表明は、米国がWTOに本格的に復帰し、オコンジョ=イウェアラと協調して真摯に改革に取り組む姿勢を、象徴的に示したものと言えよう。なお、オコンジョ=イウェアラは2019年に米国籍を取得している。

 オコンジョ=イウェアラは、事務局長に就任した当日のCNNとのインタビューで、WTOの大改革に取り組むと決意を述べた上で、新型コロナウイルスのワクチン配布に関する地域や性別に絡んだ不平等を指摘して、医療と経済の両面から感染の世界的な解決により重要な役割を果たすことを、優先課題の一つとして明示した。WTOは、自由経済と国家資本主義、中国の経済慣行、紛争解決手続きの他、世界の通商と経済に関する根本的な課題に直面している。オコンジョ=イウェアラが専門の開発経済、性・人種・民族・地域の平等、アフリカという視点を活かしながら、多様な利益が混在する加盟国をまとめて、WTOの活性化を進められるか、手腕が問われている。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。