クーデタを起こした軍に対するミャンマー国民の不服従運動による抵抗は、予想を大きく上回る広範で執拗なものとなっている。軍にとっても想定外のことだったのではなかと思われる。治安部隊による発砲などで既に250人以上が殺害されたという。治安部隊といえども、一昔前とは異なり、自由の空気を知り、彼ら自身あるいは家族がスー・チーのNLDに票を入れた者はいるはずであり、彼らが国民に銃を向けることをためらう可能性はあるのではないかという観測もあった。しかし、これまでのところ、国の安定のための軍の特別の役割を教え込まれた彼らの規律と忠誠は、強固で揺るぎないように見える。

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 他方、NLDの側はCRPH(連邦議会代表委員会)なる委員会を組織したが、統治能力のある組織が生まれた訳ではない。CRPHとしては、国際的な承認が得られる暫定政府を組織したい希望のようであるが、とても現実的な希望のようには思われない。

 3月3日付けのフィナンシャル・タイムズ社説‘A tougher response is needed to the Myanmar coup’は、弾圧がエスカレートする状況に対し、諸外国により強い対応を求めているが、あまり感心しない。特に、CRPHを恰も正統な政府の如く扱うように主張しているが、それは彼らを鼓舞すること以上の意味は持ち得ないであろう。そのことによって諸外国がミャンマーの分断を試みていると軍が解釈し、今まで以上に苛烈な弾圧に乗り出す危険すらあるであろう。

 同社説は軍と軍系統の企業に標的を絞った制裁を主張するが、これは、治安部隊の暴力を止めさせる上で一定の効果を持つかも知れない。しかし、事態を正常化するためには、いずれ何等かの政治的妥協が求められる。その妥協はスー・チーを排除したものでなければ恐らく成立しないであろう。彼女の民衆の間における人気は圧倒的に高いが、選挙で大敗したからといって、何故に軍は彼女をそれほどまでに危険視する必要があるのかは良く分からない。しかし、過去5年やってみて、彼女と軍では巧く行かないことが明らかになったと思われる。軍が彼女を解放することはあり得ても、政治的復権は認めないであろう。

 その種の妥協の形成に手を貸す諸外国は、本来はASEANであるべきであろう。3月2日のビデオ方式によるASEAN外相会議(ミャンマーからは軍事政権が任命した外相が出席)の議長声明のミャンマー情勢に関する記述はおざなりであるが、それはコンセンサスの形成が困難な事情を反映している。しかし、この会議中および会議の後、シンガポール、マレーシア、フィリピン、インドネシア(ASEANの中では民主主義的な4ヶ国)の首相ないし外相は、ミャンマーの民主主義の挫折を憂い、暴力の停止とスー・チーの解放を求め、あるいはクーデタ以前の状態への復帰を要求するなど、その立場を鮮明にしている。ASEANとはいわずとも、有志のASEAN諸国が何がしかの建設的な役割を演ずる可能性は未だ排除しないでも良いかも知れない。

  
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