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 3月3日にバイデン政権が発表した「国家安全保障戦略暫定指針」は、民主主義を国家安全保障戦略の最重要の柱に据えている。同指針の序文は、「我々は、世界の将来につき歴史的、基本的な議論の真っただ中にいる」、「我々は、民主主義が今なお人々に成果を与えることが出来ることを明確に示さなければならない」、「我々のモデルは歴史の遺物などではないことを証明しなければならない」などとしている。バイデンの民主主義に対する本気度が明確になったと言える。また、今回の指針と一体となっているのは、指針発表に先立ち同日ブリンケン国務長官が国務省で行った外交演説である。今後正式な国家安全保障戦略が策定されるが、暫定指針はバイデン・ドクトリンとも言うべきものである。

 民主主義を外交安保戦略の主導概念にすることは、国際政治においてなかなか難しいことである。また、民主主義の概念だけで全ての外交安保を主導することは望ましいことでもない。しかし、暫定指針は、ここ数年大きく変遷した世界秩序や米国政治を勘案すれば、単なるレトリックに留まらず、民主主義をオペレーション上の外交安保指針の中心に据えることに成功しているのではないか。今の状況で民主主義には恐らく誰も表立って反対することはできない。民主主義は、第1に、国内ではトランプやトランピズムを抑止する大きなツールとなり得る。国内対策に民主主義を掲げることは国内政治上極めて巧妙である。第2に、国際政治においても中国やロシア等に対して潜在的に大きな圧力手段になり得る。第3に、中東など友好国に対しても具体的外交行動発動の基準として適用できる。

 暫定指針は、決して低姿勢だけではない。強い現実主義に裏打ちされている。指針は、第1に、中国を「国際秩序に挑戦する唯一の競争相手」と規定している。ブリンケンは演説で「中国は21世紀最大の地政学的試練」だと述べた。第2に、米国のリーダーとしての立場を取り戻すことを宣言している。第3に、強い立場を維持するために軍事力の強化をすることを提唱している。ブリンケンは必要な時には「武力の行使を躊躇しない」と言っている。

 ブリンケンの中国に対する発言は、トランプ政権以上に厳しいものとして注目を集めた。2月下旬には、イラク国内のアメリカや連合軍施設への攻撃への報復として。イランが支援する「カタイブ・ヒズボラ」と「カタイブ・サイード・アル・シュハダ」のシリアにおける拠点を爆撃した。中国やイラン等は、バイデンは侮れないとの感触を持ったかもしれない。北朝鮮もバイデン政権の出方に注目しているだろう。なお、暫定指針は北朝鮮にも言及するが、「非核化」という言葉は使用せず「脅威の削減」と言っていることが注目される。

 日本はとしては、バイデン政権の民主主義外交を支援していくことが重要である。本格的にバランスの取れた民主主義外交をする良い機会にもなる。バイデンが提唱する「民主主義国サミット」も気になるところだ。しかし、暫定指針やブリンケン演説にはそれへの言及は見当たらない。米国では同構想への賛成論、懐疑論が交錯しているようである。

  
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