英領北アイルランドのベルファスト南郊で3日、英国と欧州連合(EU)の間で結ばれた「北アイルランド議定書」に不満を示す、英国統治維持を望む北アイルランドの連合派団体が抗議デモを行い、警察官15人が負傷した。

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 ブランドン・ルイス北アイルランド担当相は「まったく受け入れがたい」と憤慨。ツイッター上で「暴力は解決にならない。社会にそれは不必要だ」と警鐘を鳴らした。

 そもそもなぜ、このような事件が起きたのか。背景には、昨年12月31日にブレグジットの移行期間が終了し、税関検査を行うEU市場との境界線が曖昧になったことが最大の原因だ。

 北アイルランドは、イングランド、スコットランド、ウェールズを含む連合王国の構成要素のひとつ。この4つの国で構成される英国は、すでにEU市場から撤退している。しかし、北アイルランドだけは、南にあるEU加盟国のアイルランド同様、EU単一市場のルールに従わせる特別措置が取られてきた。

 同じアイルランド島にある北アイルランドは、南側のアイルランドと歴史的に密接なつながりを持つ。北アイルランド紛争では、約3500人の犠牲者を出し、20年かけて和平合意に達した。そのため、英国とEUは、ブレグジットの交渉段階で、この北アイルランド問題を重要課題とし「北アイルランド議定書」を盛り込んだのだ。

 その結果、今年2月、北アイルランドに向かうアイリッシュ海で税関検査が開始され、EU市場との境界線となった。連合派の労働者らは検査を拒否し、英本土から北アイルランドに渡る生鮮食品や乳製品などに遅延が生じた。

 つまり、アイリッシュ海が事実上の分離点となり、北アイルランドだけが英国から除外され、連合派はEU側に回されたような危機感を抱いたことになる。

 北アイルランドの保守・民主統一党(DUP)のフォスター党首は3月7日、「議定書は甚大な被害を与える」と訴え、「EUとアイルランドは北アイルランド連合派の声に耳を傾けなかった」と苦言した。

 一方で、英国のジョンソン首相は「議定書で一番大事なことは、平和のプロセスと和平合意である」と訴え、英国やアイルランドの協調を促した。

 しかし、今回の連合派の抗議デモは、「北アイルランド議定書」の放棄を想起させるほか、アイルランドとの関係悪化や、北アイルランド紛争の再来も懸念事項になりうる。

 1998年の和平合意が破綻するような事態に陥れば、国民が決めたブレグジットは、英国にとって前代未聞の失策だったと言われるようになるかもしれない。

  
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