5月8日、EUとインドはテレビ形式で首脳会談を開催、長く中断していた包括貿易交渉の再開に合意した。EUとインドは共同声明で、「我々は当面の挑戦に応える、バランスが取れ、野心的、包括的で相互に利する貿易協定の交渉の再開に合意した。我々は、交渉に必要な積極的な力をつくるためには、長期にわたる市場アクセス問題の解決を見出すことが必要であることに合意した」と述べている。

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 EUとインドが長く中断していた包括的貿易交渉の再開に合意した背景に中国があることは間違いない。中国による、アジア、欧州、アフリカ大陸にまたがる巨大経済圏構想「一帯一路」では、すでにインドのライバルであるパキスタンにおいて「中国・パキスタン経済回廊」計画が実施されている。

 インドは中国に対抗するため西側に接近している。3月12日には日米豪印のいわゆる「クアッド」の初めての首脳会談が開かれ、インドの西側との協力ぶりが浮き彫りにされた。インドが常に中国の力と影響力の拡大を懸念していることは当然であるが、EUも懸念するに至っている。

 中国はEUの最大の貿易相手国である。EU統計局の2月の発表によれば、2020年のEUの中国との貿易額は5860億ユーロ(約75兆円)で、中国は米国を抜いてEUの最大の貿易国となった。また、気候変動問題では世界最大の温暖化ガス排出国の中国と協力する必要がある。

 今回の首脳会談では、EUとインドは、アジア、アフリカ、インド太平洋地域でのインフラ開発を進めるパートナーシップ文書も締結した。この計画は「連結性パートナーシップ」と呼ばれるもので、エネルギー、デジタル、輸送などの分野で共同インフラ事業を推進するとしている。これも中国の一帯一路を念頭に置いたものである。一帯一路で中国が提供するものより、良い法的保護と債務条件が含まれるという。詳細については、今後、議論がなされていくことになる。

 EUは中国と2020年12月に投資協定を結ぶことで大筋合意した。このような緊密な関係がある一方で、EUは中国の人権問題、南シナ海での行動に懸念を持っており、これまでの中国重視のアジア戦略を見直し、4月19日に行われたEUの閣僚理事会は「インド太平洋での協力に向けた戦略」についての方針を採択した。EUは同文書で「民主主義や法の支配、人権、国際法を推進し、インド太平洋地域での存在感を強める」と説明した。このような背景のもとに5月8日EUとインドの首脳のオンラインによる会談が行われ、貿易交渉の再開が合意されたのである。

 ただ、交渉は容易でないと考えられている。EUとインドは2007年から2013年まで貿易協定の交渉をしたが、サービスや自動車部品の問題などをめぐって意見が折り合わず、交渉が中断された経緯がある。交渉は一筋縄では進まないだろうが、EU、インドの双方に交渉の再開についての強い政治的意思があり、そのうえ以前の交渉中断の苦い経験もあって、粘り強く交渉するものと思われる。

 EUとインドの貿易交渉の再開は日本としても歓迎すべきものである。EUもインドも日本にとって重要な経済パートナーであるのみならず、EUがインド太平洋地域の重要性を認識し、インド太平洋に関与しようとしていることも重要である。

  
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