6月15日、28機に上る人民解放軍の空軍機が台湾の防衛識別ライン(ADIZ)を越えて、台湾の南西部、東部、南東部に侵入した。この28機という数は、近年、人民解放軍の動向を台湾国防部が公表しはじめてから、一日の数としては最大の数に当たるという。

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 10機のJ-16多目的戦闘爆撃機、6機のJ-11戦闘機、2機のKJ-500早期警戒管制機が、中国東岸の基地から飛び立ち、台湾が実効支配するプラタス諸島(東沙群島)に一旦接近した後に引き返した。その後、重爆撃機、さらに多数のJ-16、電子戦および対潜水艦機を含む、航空機の一団からなる編隊を整え、台湾の南端をかすめバシー海峡に入り、台湾東岸(花蓮県)や南東海岸(台東県)に接近飛行した。28機は、台湾東部、南東部に侵攻する形で「軍事演習」を行った模様である。

 人民解放軍機の台湾のADIZへの侵入は、ほぼ毎日のように繰り返されているが、これまでは台湾の南西部にかぎられていた。しかし、今回は、過去最大の数であったこととともに、初めて東部や南東部のADIZに侵入したことが注目に値する。人民解放軍が台湾の東部、南東部の海岸を調査する意図を明確にしたものといえよう。6月18日付けのTaipei Times社説‘New PLA air tactics a concern’は、中国軍のグレーゾーン戦術の重大なエスカレーションであり、台湾軍に新たな問題を提起している、と強く警鐘を鳴らし、台湾軍の即応体制の向上を求めている。

 台湾の東岸・南東海岸には、花蓮県の佳山空軍基地、台東県の志航空軍基地がある。佳山空軍基地は、200機以上の航空機を安全に収容できる大規模な地下施設を備えており、志航空軍基地にも少し規模は小さいが同様の施設がある。上記の台北タイムズ社説によれば、台湾南東に位置する両空軍基地は、中国東岸のミサイルサイロや移動式発射装置から発射される長距離地上発射弾道ミサイルや誘導ミサイルの攻撃に耐えるように設計されているが、台湾東岸から航空機で攻撃された場合はどうなのか定かではないという。上記社説は、このような中国軍機の台湾東部および南東部への侵攻は「長距離かつ多数の航空機による訓練ミッションの新常態」である、という台湾国防軍元空軍司令官の言葉を紹介している。これは決して誇張ではない。

 人民解放軍の今回のエスカレーションには様々な説明がある。すなわち、G7の中国批判への反発、先週ワクチンを運んだ米上院議員3名の台湾訪問への反応、中国製ワクチンの受け入れを拒否する蔡英文政権に対する嫌がらせ、米国のロナルド・レーガン空母打撃群の台湾進出に対する対応などである。いずれにせよ、上記Taipei Times社説も指摘する通り、台湾側としては、いくつかの個々の事象に目を奪われることなく、中国の台湾への攻勢の形がますます強まりつつあることに対し、全体として長期的視野に立った認識と対応が必要である。

  
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