地域創生のキーワードに「関連学」を掲げる研究者がいる。金沢工業大学建築学部の宮下智裕准教授だ。同氏は、石川県白山市と金沢工業大学が連携する「KIT Innovation Hub(地方創生研究所イノベーションハブ)」(https://wirelesswire.jp/2018/08/66326/)の所員であり、「里山ボーディングスクール」(https://wirelesswire.jp/2019/03/69690/)プロジェクトのもと、白山市の白峰地域をフィールドに学生とともに課外実習も行なっている。

「関連学」という言葉に耳馴染みがないのも当然、これは宮下氏が提唱する造語だからだ。地域創生のヒントとなる実験的な思考方法であるが、この発想を元に地域を見ていくことで「誰もが良き当事者になる地域創生」の実現が可能になるかもしれないという。「関連学」とは一体なんなのか? 宮下氏に話を伺った。

一つ一つの要素の関係性を読み取り調整する −「関連学」とは何か

宮下氏曰く、「関連学」とは同氏が専門とする「建築的思考」をベースにしているという。まず建築的思考とはどういう考え方なのか。

建築学は、それぞれの工学分野で求められる要素技術をどう加工して昇華するか、と考えることが基本だ。いくつもの要素を総合的に、俯瞰的に見て調整し、設計することが求められるという。

例えば新幹線を設計するなら、速さや振動を抑制するといった工学的要求だけでなく、快適さや癒しといった要素も組み込む必要があるだろう。食事のための空間について考える時には "食事の本質的要素" を考えることから始める。食事の本質は、栄養を取ることだけでなく、家族のコミュニケーション機会とも言えるかもしれないし、あるいは特別な思い出を作る演出の場とも考えられるからだ。

「本質的な要素を異なる視点から捉えることで、創出される価値が大きく変わってくるのです。時に相反する条件を同時に求められることもありますが、様々な要素を可能な限り細かく調整し、イコライジングする。このように暮らし全体をデザインすることを、私は建築的思考と呼んでいます」

工学的な要素技術やクライアントの要求、時間経過などの関係性も考慮しながら、コンサートの舞台音響が行うように「調整(イコライジング)」して暮らしをデザインする。この、建築を考える際に用いる思考法を宮下氏は「建築的思考」と呼ぶ。

では、「関連学」とは何か。関連学は、この建築的な思考形態を「地域」というフィールドに当てはめたものだ。地域の中の一つ一つの要素の本質を捉え、その関係性を読み取りながら、「調整」していくためのフレームワークを「関連学」と名付けた。

宮下氏が提唱する「関連学」というフレームワークの一端をお分かりいただけただろうか。それでは少しずつ「関連学」の世界を掘り下げていこう。

トレードオフはもう古い? みんながハッピーになれる「関連学」的な社会でのトレードと、その「調整」のあり方

建築的思考を地域に当てはめた時、考えるべき「要素」は建築以上に複雑になってくる。地域の人材やその能力、それぞれのやりたいこと、さらに地域の歴史、文化、環境、政治など何百というファクターが要素となるからだ。

では、「関連学」的にはこれらの要素をどのように調整するのだろうか。宮下氏は、「そもそも関連学という発想に至ったのは、社会のあらゆる場面で発生するトレードオフへの疑念があった」とその発想の根源を語る。

「トレードオフは、一方が何かをするために他方が何かを犠牲にする交換です。このトレードオフから一歩進み、建築的思考で諸要素を調整できないか、と。誰もが何も犠牲にせず、心理的負荷も抱えない方がいい。みんながみんな勝手なことをやった結果、面白くなる社会が一番ハッピーですよね。そういう社会を作れたらいいと考えました」

Aさんが何かをした代償にBさんが別の何かをする、というようなトレードではなく、AさんもBさんもCさんも自由に得意なことや好きなことして、当人がトレードをしているという明確な意識もないまま、結果的に全体が恩恵を受けながら回るような仕組みだ。これを成り立たせるのは簡単なことではないように思えるが、宮下氏は、

「少数の単純な人間関係の中ではこれを成立させることは難しいですが、逆に極めて複雑で調整要素が多ければ多いほど、そのような関係性を生み出すチャンスがある」

と語る。

まずは集落の総体を俯瞰的に念頭に置く。そして、一つ一つのトレードを逐一処理していくことを考えるのではなく、総体の中で、結果的に全てのトレードが回るように考える。トガったものをできるだけ活かす形で、全体として組み上げて調整するイメージだ。

関連学の発想の中での「調整」とは、「地域社会のために何かをする」「何かしてもらった代償に別の何かをする」というように、 1 対 1 の交換を繰り返して社会を成立させるものではない。総体(地域全体)を俯瞰して、総体の中のトレードが巡り巡って、最終的に成立する状態をつくることを目指す。そのために、限られた人材の可能性を十分に活かして、関係性を見ながら再配置する(調整する)という発想だ。

話を単純化するために、関連学を "3人だけの社会" で考えてみよう。米作りが得意な農家のAさんはたくさんお米を作り、大工のBさんに米をあげる。Bさんは、仕事の合間に子供用の木製のベンチを作り、これをAさんではなく子だくさんのWebコーダー Cさんにあげる。CさんはAさんに農産物を直売するためのWebページを作ってあげる。このように、それぞれが得意なことをして価値を提供する、という行為をぐるぐると回していけるように調整できれば、社会は成立する。

地域社会が崩壊したのは、「葬式に参列しないといけない」「茅葺き屋根の葺き替えを互いに手伝い合わないといけない」というような、コミュニティを維持するために代償を払う(トレードをする)必要がなくなったから、と宮下氏。

「仕事形態や社会形態が変わったのだから、旧態依然とした地域社会が崩壊するのは当然です。その中で、改めて地域社会を成立させるためには、トレードによるコミュニティの維持から概念的に一歩ジャンプする必要がある。その方途として『関連学』的な発想が役立つのではないか、と考えています」

「関連学」的な社会を目指す地域で、「調整」の役割は誰が担うか

ここで重要となるのが、地域で「人材を調整する役割」を誰が担うのかという点だ。宮下氏はこの役目を「コーディネーター」と呼ぶ。コーディネーターの役割は、様々な個性を持つ人材や資源を調整し、新しい価値を産んでいくこと。それぞれの関係性を知っていないとできないため、地域の歴史や文化、政治にも習熟した人が良いという。

「理想としては、地域の住民が担えるといいですね。それぞれの人の利害が常に一致するわけでもないですから、コーディネーターは、固定概念にとらわれず多様な角度から物事が観れる必要があります。十枚舌くらい使い分けられるような処世術を持った人でないとできないでしょう。そういうことができる地域のキーパーソンがいれば最高ですが、いなければ育てていく必要があります」

「関連学」というフレームワークを理解するのが難しければ、パズルをイメージすると考えを整理する助けになるだろう。トレードオフ的な社会では、トレードが発生する際に、互いにパズルのピースの凹凸を削ったり埋めたりしながら(犠牲を払いながら)調整し、擦り合わせて、社会という全体のパズルを成立させていく。

一方で宮下氏が構想する「関連学」的な社会では、パズルのピースの凹凸(人材、またはその特長)をそのまま生かして組み合わせることを目指す。時には、その間にうまくハマる新しいピースを探してくることで社会全体のトレードを成立させるイメージだ。そのパズルを組む役割がコーディネーター。全体が組み上がらない限り、地域全体のトレードは成立しないから、コーディネーターの役割には柔軟な対応力が求められる。

「コーディネーターの役割は、非常に難しいものです。ただ、この調整は実は特殊な能力ではなく、私たちが日々の人間関係の中で、秒単位でやっていることなのかもしれない」

あとの課題は、地域の要素をいかに客観的に、相対化して見ることができるか、これまで考えられていなかった変数を取り込んで、多角的に考えられるか、という点だ。しかし、これについては、宮下氏は、小さな社会だからこそのチャンスがあるという。

「大都市では総体が見えにくく、地域全体にとって最適なトレードが成立するよう調整するのはとても難しいでしょう。しかし白峰のような小さな集落の中でならそのような関係性が生み出せるかもしれない。小さな集落だからこそ、そこに住むもの、外からやって来るものを含めて実験できると言えます」

外部者の役割は地域の持っている価値を顕在化する」こと

では、地域を成立させる「要素」となり得る外部者の役割とはどんなものなのか。外部者の重要な役割として、宮下氏は「価値の顕在化」を挙げる。

「地元の人は『地元の良さが分からない』とよく言われます。実際、その地域の相対的な価値は他の知識や経験を持つ者でないと分からないことがあります」

例えば、ある日本人はオランダの風車を見て、「水は位置エネルギーを持つからこそ役に立つ」と気がついた。日本のような山がちな土地では、当然のように水は高いところから低いところへ流れて、エネルギーを生み出したり、ものを運んだり、土地を豊かにしたりする。しかしオランダでは、水は風車を使って地下から汲み上げ続けなければならない。ある人にとっては当たり前と思えることも、異なる環境ではその「当たり前」は、喉から手が出るほど欲しい価値となりうるのだ。

外部者の感覚だからこそ気がつく相対的価値をいくつも探し出して突き詰めていくことで、その場所ならではの絶対的価値や本質を見出せるようになるのでは、というのが宮下氏の考えだ。

「様々な文脈から本質を読み取り、新たな価値とする行為と言えるかもしれません。このように価値を顕在化させることは、まだAIも不得手としているところで、しばらくは人間だからこそできることだと思います」

学生だからこそ担える、地域の人々との潤滑油としての役割

次に、便宜的に外部者を「学生」とそのほかの「ヨソ者」に分けて考えよう。まず学生の役割だが、学生は地域の人々と関係性を作っていくための潤滑油としての役割を担えるという。

「関連学的に社会を回していくには、第一に、地域のあらゆる情報を引き出して、多角的にその本質を見る必要がありますが、閉鎖的な部分が残る中山間地域などでは、これがなかなか難しい。大人が先に地域に入ると、猜疑心が先に立って建て前的な情報しか聞けなかったり『情報の見返り』を求められてしまい、トレードオフの関係になってしまうこともあります」

しかし、意識が高くやる気のある学生が入っていくと、このハードルがかなり下がるという。学生に対しては、地域の人も孫や子に話すように色々な本音や情報を話してくれるのだ。

「学生というプレイヤーは地域住民との関係を円滑にしてくれるのです。学生が地域に残る祭りなどに参加するのもいい。」

と宮下氏。

重要なのは、学生が単に祭りを観に行くのではなく、当事者として参加すること。学生にとっては、外から見る観光では味わえない経験になる。一方で、若者不足で祭りの維持自体に苦しんでいる地域にとっては、その祭り自体を救えるかもしれない。学生が楽しめて、地域の祭りは盛り上がる、という関係が成立すると、大抵、地域住民との関係は劇的に濃くなるし、地域住民側がさらなるやる気を出すきっかけにもなるという。この点は、大学が学生とともに地域と連携することの価値の1つと言っていいだろうだろう。

関係人口を増やす呼び水は、ヨソ者が「汗をかく」コンテンツ

一方、「ヨソ者」が担う役割については「地域の人材を育てること」「地域のキーマンとなる人材が力を発揮できるよう、助力してあげること」だというのが宮下氏の考えだ。

「同じような環境にある地方の人が横のつながりを持つのもいい。ヨソ者が入ってきて、地域の人が色々な考えやアイデアに触れられることは、人材を育てるために必要です。情報交換や勉強会という形でそれができればいいですね」

とはいえ、ヨソ者を地方に呼び込むためには、ヨソ者にとっても「来るための動機」が必要だ。そのキーワードとして宮下氏が挙げるのが「汗をかく」こと。地域を維持していけるような関係人口を増やすためには、ヨソ者が「汗をかく」コンテンツを作ってあげるといい、と言う。

例えば、地方には空き家がたくさんある。これを "直して売る" ことは無理があるかもしれない。しかし「別荘を修繕する」というコンテンツとして見るならどうだろう。所有目的ではなく、"別荘を使えるようになるまでの過程を楽しむコンテンツ" ととらえれば、改修が進むだけでなく、参加者はその地域に通うモチベーションができる。必然的に、継続的な関係人口を生み出せる、というわけだ。

その間、ヨソ者に地域の施設を使ってもらうことができれば、お金も落としてもらうことができる。地域資源の価値も上がり、同時に参加者にも地域経済にもいいものになる。会社のチームビルディング研修などに使ってもらうことができればなおいいだろう。地域の人も、ヨソ者が「汗をかいている」ところを見ていれば、次第にあいさつから始まる交流が生まれていく。地域住民の中にも「自分でも何かできないか」というモチベーションが湧いてくる。

「こうしたコンテンツなら、単発の大きなイベントを行うよりも、ずっと原因療法的で価値があると思います。農業体験、森林体験も各地でたくさん行われていますが、参加者に当事者としての意識が芽生える仕掛けが加わるとさらにいいですね」

第1の前提条件は、地域住民の中に、核となりうる人がいること

それでは、これら地域創生のアイデアを持続可能なものにするために必要な前提条件はなんだろうか。一つは「機運を作る核」で、もう一つは「ビジョンの共有」だ。

まず地域住民の中に「自分の愛する地域の豊かさを維持していきたい」という明快な意識を持った「核となりうる人」がいることが第1条件だという。核となる人に、他の住民やヨソ者の思いや活動が重なって、初めて地域の機運が高まっていく。「核となりうる人」とは、別稿(https://wirelesswire.jp/2019/08/72099)でも紹介した北出立也さんのような人だろうか。全国を見渡せば、ヨソ者側だけが盛り上げようとして、地域にお金や人を投資して、無駄にするケースが数多くある。

「それに、いきなり何十万人も呼び込むような飛躍的な発展を目指す必要もないんです。少しだけ暮らしを良くする、という程度の目標からで十分です」

と宮下氏。

過疎地域では1日1000円の売り上げで生計を成り立たせている商店がいくつもある。そこに売り上げが1日500円プラスされるだけでも大きな変化となる。著しい発展を目指すよりも、その地域の持つ価値に共感する人を増やしていくことの方が、結果的に、地域の住民が抱く「地域を維持したいという思い」や「郷里を愛する気持ち」を掬い取っていくことができる。そして少数でも、しっかりとモチベーションを持ち、継続的に地域に通うヨソ者を呼び込むコンテンツ作りこそが地域創生のキーということだ。そのように地域住民とも交流するヨソ者であれば、地域に新たな情報をもたらしたり、地域の価値を生み出す役割も担うことができるだろう。

「社会実装特区」として地域を企業が活用する

一歩先の話だが、白山市と金沢工業大学が連携する「KIT Innovation Hub(地方創生研究所イノベーションハブ)」には、白山麓を「社会実装特区」とする構想がある。ヨソ者としての都会の企業が、あえて地方に参入する際のメリットにも通じるので言及しておきたい。

「地方は、企業側が都心の経済圏に持ち帰る価値のあるものを作らないといけない。そこで白山麓を、アイデアをゼロから起ち上げられる『社会実装特区』のような実験都市にできないか、と考えています」

と宮下氏。例えば白山麓で、高齢者でも使える新技術を応用したソリューションを作ったとする。それはいずれは、全国津々浦々の高齢世代の人が使えるものになるかもしれない。しかし社会実装する前段階で、小さな社会だからこそトライ&エラーがしやすく、実証実験することができる。もしそのような形で企業が地方に関わることになれば、地域にとっても飛躍的な発展につながるかもしれない。

企業開発だけでなく、教育の場としても地方は有用だという。

「地域を、企業の幹部候補生を預かる国内留学の場として考えてもいいと思う。少子高齢化が進む地方は、社会問題が凝縮する、問題の最先端の場でもあります。ここで生活することで、新たなアイデアや気づきを得られることもあるはず。企業の人材を育てる場としての利用価値もあるのではないでしょうか」

これらも地方創生へとつながる貴重なアイデアだろう。いずれもまだ構想段階だが、このように未来のビジョンを描く作業も「関連学」なのだと宮下氏は続ける。

「建築は、絶対的な答えがない分野です。ただ、答えがないからといって諦めるのではなく、可能な限り最後まで調整し続ける作業を繰り返している。その経験の中で、青写真や概念を深く共有できればその分だけ、より良いものを作れると理解しています。関連学も同じです。まず関連学というキーワードやマインドをシェアすること。そして、こうありたいという社会のイメージをシェアできていれば、調整し続けることでその社会に近づけていけると思います。関連学的な発想が地域創生の一助になれば、と期待しています」

今あるものをうまく繋げて掘り起こすだけで日本の田舎は十分に素晴らしい、と宮下氏。関連学的発想で地域の価値を掘り起こし、関係性をうまく紡ぐことができれば、これまでにない地方創生ができるかもしれない。この感覚を「シェア」できる人が一人でも多くなることを願う。

(取材・執筆 杉田 研人)