2020年3月、新型コロナウイルスの影響でリモートワークを導入する企業が増えた。同時に、「どこでも仕事ができる」フリーランスという働き方にも注目が集まっている。では、フリーランスとは具体的には何だろうか。内閣府が発表した定義では、就業形態が自営業主(雇人なし/実店舗なし)・内職・1人社長であることとされている。フリーランスは2019年時点で341万人いるとされ、このうち本業として活動している人口は228万人、副業として活動している人口は112万人という。同統計で就業者数は6724万人なので、働く人の約5%がフリーランスとして活動していることになる。

さて、今回紹介する株式会社Ponnufは、地方においてフリーランスという働き方を広める事業「田舎フリーランス養成講座」を展開している。一言でいえば、合宿・通学形式のキャリアスクールだ。この事業の驚くべき点は、地方在住者にフリーランスという働き方を広めているばかりでなく、「受講生が地方に移住して、フリーランスとして働く」ようになっていることだ。しかも、行政からのサポートを受けずにである。昨年(2019年)は、合宿終了後に受講地に留まったヨソモノ(移住者)の数は200人近くになったという。元は「学生と企業を繋げたい」という想いから始めた事業だというが、結果として、地方創生での「移住者を増やす」という重要課題の解決にも一役買っているわけだ。では、なぜ、受講生たちは見知らぬ土地への移住を受け入れるのか。そのヒントをPonnuf代表取締役・山口拓也氏に聞いた。

地域滞在型のWEBスクール「田舎フリーランス養成講座」とは

株式会社Ponnuf(http://ponnuf.com/)は、2014年1月、東京湾に面する千葉県富津市金谷に移住した山口氏の自宅で立ち上げられた。オウンドメディアがブームの時代。WEB制作を中心として順風満帆に活動していた1人社長の山口氏は着実に収益を上げていた。1年後には金谷で一軒家の空き家を改築し、インターン生を呼び込み3人でオフィス活動を開始。この金谷の一軒家が数カ月後には、さまざまな個性を持った多様なフリーランス40名が集う、コミュニティスペース「まるも(https://marumo.net/)」へと進化する。

▲「田舎フリーランス養成講座」の講座風景

「簡単に言うと『まるも』はコワーキングスペースです。当時は、借りた一軒家の二階はシェアハウスとして利用していました。利用者の中には移住者もいて、コミュニティが創られ始めたものの、彼らが撤退(退去)してしまう時期が訪れました。場所が余ってしまい、コミュニティがなくなってしまう寂しさを感じました。一方で、自分が業務委託でWEB制作の仕事を受けていたので、仕事を依頼できるフリーランスが身近に必要だった。インターン生を含んだ3人の小さな会社ですから、自分のオフィスにしつつ、人に貸して損をしない程度にやろうとフリーランスにも貸し出すことにして、本当にゆるく立て直したんです」

当初山口氏は、「まるも」を開発合宿や経営合宿の会場として貸し出そうと考案し、IT企業から複数のオファーがあったという。だが、金谷に住むフリーランスからコワーキングスペースとして利用したいという声もあり、「楽しそうだから」という理由で場所を開放することを決めたそうだ。

▲コワーキングスペース「まるも」

このコワーキングスペース「まるも」で、2016年2月、1カ月間の地域滞在型WEBスクール「田舎フリーランス養成講座」を開講することになる。

このサービスは、「まずは月10万円を1カ月間で稼ぐ」「自分がやりたいことを仕事にしてみる」の二つをゴールにしたWEBスクールだ。受講内容は、サイト・ブログ制作、ライティング、WEBデザイン、アフィリエイト、動画編集など幅広い。ワードプレスのサイト制作であればこのスクールでひとり立ちできるほどのスキルが身に付くという。合宿中は、生徒10〜14人に対しスキルの異なる講師が4、5人付き、合宿期間中は質問し放題だ。受講者は合宿期間中、Ponnufが運営するシェアハウスに滞在する。受講料は16万円。

「1カ月の合宿の間で、実戦形式として企業案件に応募したり営業もします。いきなり企業相手にイーブンな立場で仕事を取るのは難しいですから、クラウドソーシングのプロフィールの書き方などを教えるところから始めて。受講生のやりたいことに合わせて仕事を獲り、各々がライティングをするなり、サイト制作をするなり、納品までしていきます」

「田舎フリーランス養成講座」では、受講者ほぼ全員がゴールを達成できるという。この仕組みを紐解く前に、まずは山口氏の来歴を振り返ろう。

拠点を作ると「そこに居る意味」が生まれる

山口氏は、埼玉県の大宮で生まれた。早稲田大学卒業後すぐに金谷に移り住み、そこからPonnufを立ち上げたため、実は1度も企業勤めをした経験がない。

「大学生の頃から自分で企画したイベントをWEB発信していて、WEB制作やサイト制作が得意だったので人づての依頼で仕事を受けていました。依頼のなかには上場もしたポート(https://www.theport.jp/)という会社がありました。学生・社会人向けに就活・転職などの情報を提供する『キャリアパーク!』とか、就活生向けイベント情報サイト『イベカツ』などのメディアを運営している企業です。この仕事は、学生と企業を繋ぎたいという、僕が現在も抱えている想いのキッカケになったと思える経験でした」

学生時代からWEBを舞台に高いスキルを持っていた山口氏だが、同世代の起業家にも、旅をテーマにした総合WEBメディア「TABIPPO(https://tabippo.net/)」や、かわいくなりたい女の子のためのサービス「MERY(https://mery.jp/)」などがあり刺激になったという。

「学生の頃から身近に会社を立ち上げる人が多かったせいか、起業して当たり前だと思っていました。僕は個人のフリーランスからゆっくりと始まっていますし、資金調達をして、人を集めて、順調に上場に至ったというストーリーを持っているわけではありません。『起業(法人化)したのに資金調達をしていないのか』と言われたこともあります。起業というのは、普通の人なら腰の重いアクションだと思いますが、周りのレベルが高すぎたからか、僕が個人事業主から法人化しようと思った時にはハードルを低く感じることができました」

大学卒業後、とりあえず3カ月と考えて金谷のシェアハウスへ。2012年、山口氏はここで地域活性に力を入れている人がいることを知り、「ヨソ(地域外)からも人が来ていて、面白そうな場所だ」と感じて、すぐに移住することを決めたという。千葉県であれば東京に出やすいことも決め手の一つだったが、移住に踏み切ったのは、WEB制作であればどこでも仕事ができることを知っていたのと、東京に住みたい場所がなかったからだという。

「住む場所にはこだわりがなかった。当時はコワーキングスペースやコミュニティスペースの仕組みがしっかりと構築・周知されていなかったので、あったとしても知ることができませんでした。金谷という場所にも惹かれたからですが、東京にシェアハウスがあって誰かに猛烈に誘われていたら、もしかしたらそちらに行っていたかもしれません」

▲「まるも」の共有スペース

そのまま、現在も金谷に住み続けている山口氏。当時は、東京の企業との案件をさばきながら、いつか東京へ行こうと考えていたが、「まるも」を立ち上げてから考え直したという。

「拠点がなければ、資金もあったし引っ越そうと思えばどこでも引っ越せました。でも、金谷は面白い人が遊びに来る地域だったんです。車を持っていなくても徒歩圏内で十分生活できましたし、東京にも2時間程度で行ける。田舎初心者であってもヨソモノが移住しやすいとは感じていました。でもその時点では、金谷に住んだのはたまたまです。それがコミュニティスペースという拠点ができた時にはじめて、ここにいる積極的な意味ができた」

金谷で起業したのは、いわば偶然なわけだが、ここから各地でのフリーランス育成事業が展開していくことになる。

▲「まるも」のアウトドアスペース

滞在率を倍増させるコミュニティマネージャーの存在

Ponnufのコミュニティスペースの事業は、千葉県金谷の「まるも」のほか、2017年に千葉県いすみ市「hinode(https://hinode-isumi.com/)」、2018年には山梨県都留市「teraco.(http://teraco-tsuru.com/)」と横展開している。

各コミュニティスペースでも、キャリアスクール事業の「田舎フリーランス養成講座」が開催されるが、ここ以外にも合宿地があり、石川県の能登半島の穴水町や鹿児島県頴娃(えい)町、愛媛県大洲(おおず)市など全国10カ所でも合宿が行われている。どの講座も自治体からの委託や提携ではなく、アツくて面白そうな“人(フリーランス)”からの声かけに端を発する自然展開が多いという。

「自然展開していく理由は、単純に拠点を利用することや合宿のコミュニティが楽しいからだと思います。横展開していくにあたって、新しいコミュニティスペースの拠点には良い雰囲気を作ってくれる“人”を配置しました。そのぶん金谷のメンバーが少し薄くなってしまったんですけど、拠点を作ろうとしてもいざ同行してくれる人はなかなか見つからないので、まずは強い意志を持って手掛けてくれるメンバーにお願いしました」

「人」を中心とした横展開には難しさもあるが、コミュニティマネージャーとなる人は必要だという。さらにいえば、こうしたコミュニティの中心となる「人」は必ずしも講師としてのスキルを持っていなくても、その人に集客力が無くても良いと話す。集客は「田舎フリーランス養成講座」の事業自体でできる。中心となる「人」はむしろ、寮母的な存在である方が良い。実際にこうしたコミュニティマネージャーがいると、1カ月以上滞在する率が1.5〜2倍に上がっているという。

では、どんな人が講座に参加するのか。

「田舎フリーランス養成講座に参加する人には、4パターンあります。ひとつは独立・フリーランスに興味がある人。次に好きなことで転職やキャリアアップを考えている人。さらに、家庭を持ったり子供が生まれたりして人生の方向性を悩んでいる人。最後に、近年減ってきていますが、地方ビジネスを立ち上げたい人。最近増えてきたのが3番目です。自由な働き方ができれば、家族と過ごす時間も増えますし仕事と家事の両立もできるからでしょうか」

受講生はまだまだ20代半ばの単身者が多く、「フリーランスをやってみたい」と参加しても、それが実現した後に何をするかまでを参加時点で考えている受講生は少ないという。「田舎フリーランス養成講座」では、こうした受講生に“人生の選択肢を広げるきっかけ”を掴んでもらうことが本筋だが、もっといえば3番目の参加パターンのような「日本人が自分に合った仕事や働き方をみんなで選んでいく、そういう社会を作りたい」と山口氏は続ける。

しかしなぜ、講座終了後もその地に滞在を続ける(移住する)受講生がいるのか。

「1カ月でシェアハウスや家を解約するという手間があるからかな。その手間がかかるから、『仕事もできるようになったしこのまま居ようかな』と考えるのかも。そうだとすると合宿型にしたことが良かったのかもしれないですね」

と、山口氏は少しネガティブな表現も交えて話すが、受講生のTwitterの感想を見ると、「人のあたたかさを感じた」「人との別れがこんなに惜しかったことなんてなかった」などの言葉が並ぶ。1カ月という期間は、その土地に愛着を覚えるのに十分な時間なのかもしれない。ひとまずひと月、その土地で過ごし、さらにそこで仕事もできるようになれば、移住を決断する人もいるわけだ。

▲「田舎フリーランス養成講座」の歓迎パーティーでの一幕

講師がしっかりと付き添い、目標を達成する経験ができること。そして、みなで脳みその汗をかいて慣れないアウトプットを続けながら、時に励ましあい、刺激し合う仲間を得る経験が、受講生にとって素晴らしく特別なものになることも理由だろう。それ故に山口氏は、この講座に参加するには「どんな性格でも大丈夫、プラスの経験にしかならない」と自信を見せる。

▲Ponnufが運営する金谷での合宿宿泊地「voido」

1カ月で合宿はいったん終了するが、滞在が延長しても、変わらずその土地にコミュニティマネージャーがいてくれることも受講生にとっては心強い。なお、「田舎フリーランス養成講座」は1地域平均6回ほど開催している。参加者数は1回の合宿あたり12人ほどなので、その土地に延べ72人ほどが一時滞在する計算になる。冒頭でも述べたが、このうち昨年は合宿終了後にも継続してその土地に留まったヨソモノの数は200人近くとなった。「移住」の定義は難しいが、期間を定めずにその土地に住むことを決める人もいることだろう。

「田舎」の定義とは? それぞれの自由な働き方を可能にする方途を再考する

山口氏は、2020年2月10日に31歳を迎えた。30歳の年には年商も1億円にまで伸び、拠点や事業に関係する人も増えている。ただ、その中でちょっとした疑問も浮かんだ。

「田舎でフリーランスができることを謳って事業を行ってきたけれど、『田舎』の定義ってなんだろうと考える時期がありました。コミュニティスペースのある金谷、いすみ、都留は関東圏にありますし、講座の仕組み上、徒歩圏内で受講者が生活できるようにしています。こういう場所は、世間一般的にいったら『田舎ではない』気がしてきたんです。その時に、もしかして僕は田舎やフリーランスにこだわっていたのではなくて、やっぱりいろんな人々が自分に合った自由な働き方が可能であってほしい、という願いの方が強いのではないかと自覚しました。それで、2019年は働き方についてのブランディングを強化する必要がある、と取り組みを始めました」

コミュニティスペースとキャリアスクールという二つの事業を行ってきたPonnufは、2019年12月にキャリアスクール事業を「WORK CAREER」の名称でブランド化し、「田舎フリーランス養成講座」を内包した。このアクションでの大きな変化は、合宿型のみだった講座に通学形式も加えた点だ。会社員でも、フリーランスでも、パラレルワーカーでもよいので、「WORK CAREER」を通じて自分らしく働く人たちが社会に増えてほしいと、Ponnuf自体の存在を山口氏は2020年に再定義しようとしている。

「WORK CAREERで行うのは4講座。田舎フリーランス養成講座はこのまま合宿型ですが、2020年はトラベルライター養成講座が合宿型ではじまります。これは、旅行先で取材をしながら、情報を文字と写真で伝えるために必要な力を身に付ける、というライティング特化の旅と仕事を両立したい人に向けた講座です。幅広い分野に触れて自分に合ったジャンルを見極めるパラレルワーカー養成講座は通学型で、会社に通いながら自分の名前で働くことを目指します。YouTuber講座も通学型で行います、これも意外とニーズがある」

2019年はカネを大きく使った。事業に関わる人を増やしながら今後やりたいことを試験的に行い、2020年の実装を吟味していったからだという。合宿型を増やすということは、開催地の徒歩圏内に受講者・講師含め20人ほどが泊まれる施設も必要となってくる。では、なぜ山口氏は、いまも行政に頼らずに、事業を展開しようとしているのか。

「風の人」を評価してくれる行政マンが必要になる

行政を頼らない理由を尋ねると、どこの地域も共通意識として若い世代に末永く住んでほしいというニーズはあるものの、山口氏の行っているコトとうまくマッチしないからだという。

「田舎フリーランス養成講座を行うと、参加者12人のうち2〜4人が合宿期間を過ぎても延長滞在しています。ただ、半年や1年でほかの地域へ行ってしまう人もいる。入れ替わりが激しいので、シンプルに末永く住むという行政のニーズと事業がマッチしないんですね。ただ、関係人口の用語の『風の人』(地域を行き来する人のこと)で僕の事業を見てみると、一時的ではありますが40〜70人弱が入れ替わり継続して滞在していることになる。この数字をどう評価してもらえるか、ということでもある」

たとえ100人ほどの一時滞在者を呼んでも、周りから評価してもらえていないこともあるという山口氏。講座に参加する人たちに自由な選択と働き方をしてほしいというコンセプトを持つPonnufを、つまりは「風の人」を評価する行政マンが増えた時がPonnufが大きく飛躍するタイミングとなるかもしれない。

同時に、事業をスケールさせる上での壁も感じている。

「出会う人も協力者も増やさないといけないけれど、事業に参画する人が増えれば管理コストも増える。正直、規模を拡大していくとともに利益率は落ちていく。規模を大きくすることの壁にぶち当たっているところです。資金調達もしましたが、今年はブランディングとか広報とかをしっかりとやって受講生を集めていきたい。企業価値が一気に5倍や10倍に跳ね上がるような事業でもないので、あとはうまく事業連携などもしていきたい」

ここからが正念場、といったところか。日本人の「新しい働き方」を開拓する先駆けとしての苦悩かもしれない。多くの人々がリモートワークの気付きを得た2020年。これまでに地方でのフリーランスを数多く生み出し、社会が「自由な働き方を受け入れる準備」を整えてきた山口拓也氏を、創生する未来「人」認定第11号とする。

(インタビュー:スガタカシ 執筆:石橋加奈子 編集:杉田研人 監修:伊嶋謙二 企画・制作:SAGOJO)