AI(人工知能)による運用の自動化がビジネスシーンに幅広く浸透してきている。この分野の専門企業である米Tupl(トゥプル)では、創業以来の事業領域である通信事業者の運用自動化に向けたソリューションを提供し、実際にコスト削減などの効果を上げている(関連記事:2025年問題の解決につながるAIによる運用の自動化はどこまで実用化されているのか(https://wirelesswire.jp/2021/08/80231/))。AIの中でも安定した技術を活用して実用化したソリューションである。

一方で、AI技術は日進月歩で、近年の話題の中心は人間の神経細胞を模倣したニューラルネットワークに移っている。特に、ニューラルネットワークを多層に重ねたディープラーニング(深層学習)は、画像認識や自然言語処理に大きな功績をもたらしているほか、囲碁で世界チャンピオンを打ち負かすような話題も提供してきた。

ここで気になるのは、AIによる運用の自動化の分野にディープラーニングをはじめとした技術進歩がどのように寄与しているかということ。Tuplのアジア太平洋地域責任者 グローバルリーダーシップメンバー及びトゥプル・ジャパン合同会社代表の菅野真一氏は、「Tuplでは、安定した技術を活用して提供する既存ソリューションに加えて、ディープラーニングなどを活用した新しいソリューションも開発、提供しています」という。ディープラーニングなどの技術を使った運用自動化の新しいソリューションについて、Tuplの取り組みを見ていく。

無線のエリア調整を「深層強化学習」で最適化 / 自動化

新技術を活用してTuplが実用化しているソリューションの1つが「RF Shaping」だ。これはディープラーニングを活用した無線の最適化ソリューションで、モバイル通信事業者が基地局を設置して無線エリアのカバレッジを形成している中で、その調整を自動化するもの。無線基地局は都市部などでは非常に数多く設置されている。これらは相互に干渉しないように、またエリアの欠けや抜けができないように設定を調整して、適切なカバレッジの確保を実現している。これを実現するには、人手の調整が不可欠で、測定車を走らせたりしながら専門家が日々様々な調整をしているのが現実だ。「新しくビルが立ったりすると、改めて人手で調整しなければなりません。また、本来1日の間でも人の移動により、最適解は変わってきます。これを人工知能の1つの学習方法である深層強化学習で自動化したのが、RF Shapingです」(菅野氏)。

いわゆる機械学習には、正解を学習する「教師あり学習」、データの特徴を学習して分類を行う「教師なし学習」、複雑な問題を繰り返し試行する中で最適解を見つけ出す「強化学習」が代表的なものとしてある。基地局セル内の干渉を最低限にし、該当エリアのドミナンス(周辺セルに対する優位性)を最大化するという「課題」に対して、Tuplは、深層強化学習を用いて最適化を行った。基地局の位置情報やアンテナパターンなどの環境(条件)を指定し、エージェントが繰り返し学習、報酬を用いて、最適なRFパラメーターの構成を学習する。

RF Shaping(https://wirelesswire.jp/wp-content/uploads/2021/08/20210721-tupl003-22.jpg)

「RF Shapingによって、人手を介さずに無線エリアの自動調整ができるようになりました。ビルが立つなどの大きな環境変化だけでなく、時刻によっても無線エリアの状況は変化しています。1日単位、1時間単位で自動調整することで、ネットワークの品質を高められます。将来的には数秒といった単位での自動調整も目指しています。こうした無線通信の分野に深層強化学習を使って成果を上げているのはTuplだけだと自負しています」(菅野氏)。

RF Shapingは、今ある基地局の最適化を目指すもので、通信事業者のモバイル通信サービスだけでなく、ローカル5Gのようなプライベートネットワークでも適用は可能だ。基地局の配置は変わらないまでも、敷地内や工場内の建物や機器の配置が着々と変化するような状況では、品質の維持に役立つことが見込まれる。

SDGsに貢献する電力消費の自動最適化

Tuplが提供する2つ目の次世代ソリューションが、「Power Saving Advisor」だ。世界的にSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが進む中、通信事業者も低炭素や低消費電力への対応が求められるようになっている。特にモバイル通信事業者にとって、総電力消費に対して基地局の消費電力が非常に高い割合を占めていて、これを削減できれば大きな環境負荷の軽減につながる。

すでに、基地局ベンダーなどはパワーセービングの機能を備えた無線基地局を提供している。しかし、単体の基地局でパワーセービングの制御をすると、ネットワーク品質に影響が及ぶリスクがある。例えば、ある基地局は夜間のトラフィックが少ないということで、その基地局の電力削減を実施したとすると、実際は周辺エリアの品質にも影響、問題が生じる可能性があるといった具合だ。菅野氏は、「Tuplでは、Tupl OSの配下でベンダーに関わらずすべてのセルの品質KPIを常時監視し、複数の基地局、エリア全体を連携させながら通信品質が低下しないように電力消費を自動調整する機能としてPower Saving Advisorを提供しています。機械学習を使ったトラフィック予測や最適化パターンの学習がこれを支えています」と説明する。

Power Saving Advisor(https://wirelesswire.jp/wp-content/uploads/2021/08/20210721-tupl003-3.jpg)

通信品質をリアルタイムで確認しながらギリギリのところまでパワーを落とすという離れ業を、複数の基地局を連携させることで実現するソリューションだ。さらに品質レベルを下げても電力削減を優先させたり、逆に品質を優先させたりするほか、平常時以外のイベント対応や災害発生時の対応も想定されている。

様々なサービスレベルの自動運用

さらに今後の方向性としては5Gで物理的な通信路を共用しながら、複数のサービスレベルの回線を提供する「ネットワークスライシング」も加わってくる。多数の方式や提供レベルの異なる回線が入り組んでくると、人手でこれを調整していくことが困難になる。

調整を求められる範囲は幅広い。「エッジコンピューティングでは、エッジごと、エッジ内のスライシングやサービス契約内容に応じたパフォーマンスを提供できるような監視、対策の自動化が必要です。プライベート5Gやローカル5Gの運用では、それぞれにSLA(サービス品質保証)が異なり、品質を維持するには自動化が不可欠です」(菅野氏)。

さらにユーザー体感、品質を向上させるには、無線に加えて、コアネットワーク、トランスポート、サーバーなども含めたエンドツーエンドの運用自動化が必要になり、こうしたエリアへの適用もすでに商用化されており、OSS(運用支援システム)機能も含めた提供を実施している。

OSS(運用支援システム)(https://wirelesswire.jp/wp-content/uploads/2021/08/20210721-tupl003-4.jpg)

すでにTuplで実績のある通信事業者向けのソリューションでは、深層強化学習や機械学習を適材適所に活用して運用自動化の効果を発揮している。これらのソリューションは単体で動くのではなく、TuplOSという共通プラットフォーム上でソリューション同士連携しながら、ネットワーク品質の向上と、リスク管理やトラブル対策、消費電力削減といった課題を自動的に併存できるような解を提供している。前回(https://wirelesswire.jp/2021/08/80231/)紹介したACCR(顧客クレーム対応の自動化)のような顧客のクレームをもとにトラブルを自動検出するソリューションも、ネットワークアドバイザーやRF Shaping、エッジコンピューティングなど、自動的に複数のネットワークをまたいだトラブルや課題を解決するところまで機能を拡張することが可能だ。こうした通信事業者向けソリューションの考え方自体は、他の業界や業種でも「運用自動化」のブレークスルーになる可能性がある。

このようにAIを活用して運用自動化を実現するTuplのソリューションは、通信事業者をはじめとしてすでに幅広く提供されて実用段階に入っている。これまでに得られた運用自動化ソリューションの知見は、通信事業者への適用に限ったものではない。次回からは、通信事業者以外でも成果が上がっているAIを活用した運用自動化ソリューションについても目を向けていきたい。

【関連情報】
AIによる運用自動化ソリューションを提供する Tupl(英語版サイト)(https://www.tupl.com/)
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