グリーフケア研究所所長・島薗進氏のオンライン私塾の第5回を開催します。

今回のテーマは「グリーフケアと修復的正義―水俣の「もやいなおし」を手がかりに―」。ゲストには『性暴力と修復的司法―対話の先にあるもの』の著者であり、学術振興会特別研究員PD(関西大学)、ルーヴェン・カソリック大学客員研究員である小松原 織香氏を迎えます。

小松原氏は2010年から「修復的正義」について研究を重ねてきました。修復的正義とは、被害者と加害者の対話を中心にした紛争解決のアプローチのこと。しかしそれは、被害者が和解や赦しを強要されるものではありません。

今回のイベントでは小松原氏が「修復的正義」について研究を始めた動機やその効用、またそこから水俣病の問題を考えるにいたるまでのヒストリーを中心にお話をうかがいます。

今回もトークの後には、オンライン交流会を開催。島薗氏や小松原氏、そして他の参加者と直接お話しいただけます。

前回までに続き、聞き手は医療・科学ライターの小島あゆみ氏が担当。医療現場を取材するなかで培った知見を基にグリーフケアを学ぶお手伝いをします。第3回までご参加いただけなかった方にとっても有意義な内容にしていきますので、奮ってご参加ください。

また、お申込みいただいた方が当日お時間に都合がつかなくなった場合には、動画アーカイブでオンデマンド視聴を提供しますので、ご安心ください。

お申し込みは、こちら(http://ptix.at/iY5ksr)からお願いします。

ゲストスピーカー・小松原織香氏より: 希望の光となりうる「修復的正義」とは

毎日、インターネットでは凄惨な犯罪のニュースや、有名人のいじめや差別発言の告発が取り沙汰されています。TwitterやFacebookでは多くの人の怒りの声が渦巻きます。被害者の心情に寄り添い、加害者を許さない姿勢をとるのは、道徳的に正しいことに見えます。

でも、「これって、やりすぎでは……?」と思うことはないですか。

私は2010年から「修復的正義」を研究してきました。修復的正義とは、被害者と加害者の対話を中心にした紛争解決のアプローチです。それを話すと、こんな質問をよくもらいます。

「それって、学校で先生がいじめの加害者に『謝りなさい』と命令して、口だけの『ごめんなさい』を言わせて、被害者がゆるさないといけないという、アレですか……?」

いいえ、そんなふうに被害者が和解や赦しを強要されるのは、修復的正義ではありません。

修復的正義で、一番大事なのは「対話に向けた準備」の期間です。ファシリテーターは、被害者と加害者、それぞれに分けて十分に「なにがあったのか」「なにを感じているのか」「なにを相手に伝えたいのか」を聞く時間をとります。そして、両者が「会いたい」と思い、ファシリテーターが「対話は可能だ」と判断したとき、初めて対話が始まります。

修復的正義では「自発性」と「安全」が大事にされています。参加者が自分から望んで、「大丈夫だ」と思えたときだけ対話をします。もし、途中でやめてしまって、対話に至らなくても修復的正義は失敗ではありません。お互いの状況や、いま必要なことがわかった上で、「今は対話はやめておきましょう」という結論を出すのも、被害者と加害者には意味のあることだからです。たとえ、対話したあとに、両者がもう二度と会わなくなったとしても、それはひとつの答えとして、修復的正義は歓迎します。

ショッキングな出来事が起きた時、多くの人は「Why me? (なぜ、私だったの?)」という問いに取り憑かれます。その問いを被害者は加害者にぶつけたいと考えることもあります。でも、加害者もまた、「なぜ、こんなことが起きたのか?」「自分はなぜ、こんなことをしてしまったのか?」がわからない混乱に陥ることもあるのです。

「なぜ?」という疑問が渦巻く場で、修復的正義は荒れた海の灯台のように輝くことがあります。灯台は、嵐を鎮めることはできませんが、遭難しそうになっている人々に「あそこにいけば、陸地がある」という希望を与えることができます。

修復的正義は、いま社会に起きていることを全て解決できる魔法の道具ではありません。でも、混乱した状況で「こう考えてみたらどうだろう」と、別の角度からものごとを見るヒントにはなります。

私は性暴力や水俣病の問題を、修復的正義の視点から研究してきました。今回は、みなさんと修復的正義のレンズを通して見える、「別の風景」を共有したいと考えています。

スピーカー・島薗進氏より:水俣病から見えてくるグリーフケアの地平

戦後の日本は、集合的なグリーフケアという課題を負わされて来たと捉えてもよいだろう。敗戦によって310万人とも言われる死者を出し、多くの遺族が苦難の生活に耐えるというのが1950年代までの日本だった。しかし、戦争死者の慰霊をめぐって、人々が課題を共有することは容易でなかった。ビキニの核実験による第五福竜丸の被害から核実験反対と原爆廃棄に焦点をあてた平和運動が高揚したが、たとえば沖縄や近隣諸国等の被害者にはなかなか目が向かなかった。習合的なグリーフケアとして大きな課題を残して今に至っていると言わざるを得ない。

こうしたなかで、水俣病の被害をめぐる当事者たちの運動は集合的なグリーフケアとして、際立って意義深いものだったように思う。悲嘆を抱えた被害者や遺族が、それぞれの言葉で悲嘆を表現しつつ、苦難を通じて学びとられたいのちの尊さについての認識や、人間の生き方についての反省を語り伝えてきたのだった。それは、原爆ヒバクシャや沖縄の生き残りの人々の語りにも通じるものであるが、さらに痛んでしまった関係の修復にまで及ぶものであるところに特徴があった。集合的なグリーフケアが修復的正義が目指すものに通じるような性格をもつものだった。「もやい直し」という言葉がそれを象徴する。

水俣の被害者ら、また彼らとの交流を通して、豊かな表現を生み出して来た。本願の会の田上義春、杉本栄子、緒方正人や川本輝夫、また、石牟礼道子や原田正純、そしてユージン・スミスらだ。これらの人々のことを振り返りながら、グリーフケアと修復的正義について考えていきたい。

プログラム

19:00 島薗氏によるトーク
19:40 小松原氏によるトーク
20:10 休憩
20:20 ダイアログ
20:40 質疑応答
21:00 オンライン交流会
※プログラムの内容・順番・時間などは予告なく変更となる可能性がありますのでご了承ください。

開催スケジュール等

●日 程:2021年10月8日(金曜)19:00〜(約2時間のトーク&ディスカッションの後、交流会を開催)
●会 場:Zoomを利用したオンラインイベントです。
   お申込みいただいた方には、前日までに参加URLをメールにてお送りします。
●参加料:¥3000(税込)
※チケットの購入期限は当日10月8日の18:00までとさせていただきます。
●オンライン交流会: Zoomミーティングを使用したオンライン交流会を開催します。
●主 催:WirelessWireNews編集部(スタイル株式会社)

メインスピーカー プロフィール

島薗進氏島薗 進(しまぞの・すすむ)
1948年東京都生まれ。東京大学文学部宗教学科卒業。同大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学名誉教授。上智大学グリーフケア研究所所長。おもな研究領域は、近代日本宗教史、宗教理論、死生学。『宗教学の名著30』(筑摩書房)、『宗教ってなんだろう?』(平凡社)、『ともに悲嘆を生きる』(朝日選書)、『日本仏教の社会倫理』(岩波書店)など著書多数。

ゲストスピーカー

小松原 織香氏小松原 織香(こまつばら・おりか) 小松原氏は当日ベルギーより参加いただきます。
2010年、大学院博士前期課程に入学して以来、一貫して修復的正義の研究を行なう。主な関心は、戦争、犯罪、災害などのサバイバー(生き延びた人々)のその後である。サバイバーは心に深い傷を負いながらも、独自の哲学を展開することがある。その人たちの思想的展開やアートの営みに注目をしている。2016年、博士号(人間科学)取得。2018年、ジェンダー法学会 西尾学術奨励賞受賞。現在、ベルギーで在外研究中。
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