住宅は人生で最も大きな買い物の一つ。きれいでおしゃれな住まいの写真を見ると、マイホームへの憧れが募りますが、しっかり考えてから買うことがとても大切です

 街中に貼られていたり、自宅の郵便受けに入っていたりでよく目にする住宅のチラシ。きれいでおしゃれな住まいの写真を見ると、マイホームへの憧れが募りますよね? さらに、「月々○万円で買える」などと書いてあると、「これなら私でも買えるかも?」「今の家賃とほとんど変わらない?」とも思うでしょう。シングルの女性にも、自分でマンションなど住宅を買う人もいます。

 ただ、住宅は人生で最も大きな買い物の一つ。本当に自分の手に負えるお買い物かどうかを、しっかり考えてから買うことがとても大切です。

 そこで今回は、住宅購入を考える前に知っておきたい基礎知識をお話しします。

住宅のチラシの数字のしくみ

 低金利が続いている今、「住宅は今が買いどき!」などと聞くことがよくありますよね。上司や同僚の中にも、「家賃を払うより住宅ローンを借りる方がおトク」と考えて、住宅を買った人がいるかもしれません。

 「今がチャンス」などと言われると、思わず自分も買ったほうがよい? と思うでしょう。ですが、焦りは禁物。住宅は教育・老後とともに「人生の3大支出」ともいわれています。ですから、住宅ローンのしくみ、ローンを返せるかどうか? そして、そもそも家を買う必要があるのかどうかをよく考えてみましょう。

 家を買うときには、ほとんどの人が住宅ローンを借りて購入します。ローンを借りるときには金利がつきます。住宅ローンの金利には、大きく分けて3つのタイプがあります。

 借入中の利率が変わらない「(全期間)固定金利型」と、途中で見直される「変動金利」、そして2年、5年、10年などの一定期間だけ金利水準が固定される「固定金利特約型」です。金利が固定される期間が長いほど、金利の水準が高い傾向にあります。

 同じタイミング、同じ条件で借り入れるなら、一般的には全期間固定金利が最も金利が高く、固定金利特約型、変動金利の順で低くなります。2017年6月現在の住宅ローンの借入金利は、変動金利で年0.5%台〜0.7%台であるのに対して、35年の長期固定金利であるフラット35で年1.1%弱〜2%程度です。

 いずれにしても、これは過去の推移でみるとまれに見る低い水準です。

 とはいえ、金利の種類が何なのか? 金利水準がいくらなのか? によって、月々にいくら支払うのかが大きく変わります。

 例えば3000万円を年1.5%の固定金利で借りて35年で返済すると、月々の返済額は約9.2万円になります※1。一方で、同じ3000万円を変動金利で借りたとしましょう。現在の水準が年0.5%とすると、月々の返済額は約7.8万円になります※2。

 ただし、変動金利の場合は半年ごとに適用金利が見直され、月々の返済額も5年ごとに見直されます(ただし、元利均等返済の場合、変更前の返済額の125%までが限度)。今は月々約7.8万円でも、5年後には返済額が変わり、今後の金利の動向によっては月々の返済額がアップするリスクもあります。

 ところが、将来に金利がいくらになるのかは、誰にも正確な予測はできません。ですから、住宅のチラシには、現在の金利水準がずっと続くと仮定した返済額が記載されていることがあります。

 「月々8万円以下!」などと書かれているとき、よく読むと、それは今最も金利水準の低い変動金利をベースに、その条件のまま35年間で返済する前提で算出されていることがあります。

 もし、実際にその条件で借りたら、当初の5年間は確かに月々8万円以下で済みます。しかし今後、金利の水準が上がっていったら、住宅ローンの月々の返済額は9万円、10万円になるかもしれないわけです。

 今は歴史的な低金利ですから、将来の長い返済期間の中で、金利が上がっていく可能性は十分にあります。チラシをパッと見たら、「月々8万円以下なら、そんなに高くないかも?」と思うかもしれませんが、実際にはずっとそのままではいけないリスクも、十分に認識しておきましょう。

※1 フラット35、全期間固定1.5%、借入期間35年、ボーナス払いなし、元利均等返済、融資手数料借入金額・保証料・団体信用生命保険料を考慮しない場合
※2 金利0.5%、借入期間35年で金利水準が変わらないと仮定、ボーナス払いなし、元利均等返済、融資手数料借入金額・保証料・団体信用生命保険料を考慮しない場合

ライフスタイルが変わっても、返せる?

 住宅ローンを借りるときには、「返せるかどうか?」がなによりも重要です。その判断材料の一つとしてよく使われるのが「返済負担率」です。返済負担率とは、年収に占める住宅ローンの年間返済額の比率のこと。無理なく返済していくには、20〜25%程度までに収めるのが目安といわれています。

 例えば年収400万円の人なら、住宅ローンの返済額は年間80〜100万円程度ということになります。ボーナス払いをせずに月々の返済だけで年間約100万円、35年間で住宅ローンを返していくとすると、固定金利1.5%の場合なら約2700万円借りられる計算になります※3。

※3 元利均等返済の場合

 ただし、返済負担率を目安通りにしたからといって、必ず問題なく返せるとは限りません。途中で年収が下がってしまったり、仕事を休んでしまったり、辞めてしまったりすることがあれば、すなわち住宅ローンの返済は家計に重い負担になってしまいます。

 第6回「転職を考える前にお金のことを知っておきたいワケ」、第7回「もしものために知っておきたい 失業保険のもらいかた」では、転職や失業のお話もしましたが、長い社会人人生ではいつまでも今と同じように収入を得られるとは限りません。女性の場合には、結婚や出産、家庭の状況に伴って、働く環境が変わる、収入が減る、あるいはストップする可能性もあります。今の収入を前提に考えるのではなく、収入の変化にも耐えうる、ゆとりのある計画を立てておくことが大切です。

 そのためには、年収負担率が高くなるような高額の借入をしないこと。予算を下げる、頭金として物件価格の一部に貯蓄を充てるなどで、借入額を抑えるのが有効です。なお、頭金は多いほどローンの返済にゆとりが出ますが、物件価格の1割〜2割、理想としては3割は用意しておきたいもの。3000万円の物件なら、少なくとも300〜600万円あると安心です。

                                            

住宅にはローン以外にも費用がかかる

 頭金とは別に、もう一つ貯蓄で準備しておきたいのが、諸費用です。

 住宅を買うときには、登録免許税や不動産取得税、ローンの手数料や保証料、団体信用生命保険料、火災保険などの諸費用がかかります。このうち団体信用生命保険は、ローンの返済中に万が一死亡してしまった際に、保険金から残債が一括返済されるもので、住宅ローンの種類によっては、保険料が金利に込みになっていることもあります。

 一方、その他の費用は、購入のタイミングに一括で支払うものが多いです。これらを合わせて、おおよそ物件価格の3〜10%程度見込んでおきましょう。3000万円の物件なら、90〜300万円に当たります。

 つまり、仮に3000万円の物件を買うと考えたとき、単純に3000万円を住宅ローンで借りるとすれば月に約8万円や9万円さえ返済すればよいと思うかもしれませんが、実際には諸費用としてまとまったお金が手元になければ買えません。

 また頭金を含めて考えると、買う前には400〜900万円ほどの貯蓄は用意しておきたいものです。さらにいえば、貯蓄のすべてを住宅に充ててしまっては、買った後の暮らしでお金が必要になったときに対応できませんから、別途の貯蓄も残しておきたいところです。

「家賃=住宅ローン」で考えるのはNG

 もう一つ忘れてはならないのが、購入後にかかる費用です。

 家を買った後にも、賃貸のときにはかからなかった費用が定期的にかかります。固定資産税、地域によっては都市計画税、火災保険料、設備や内装の修繕費などです。マンションに住む場合には、修繕積立金と管理費もかかります。これらは広さや築年数などの条件によって異なりますので、実際に購入するときに確認しましょう。

 いずれにしても、住宅を買ったら、住宅ローンさえ払えればよいわけではありません。ですから、今の家賃をベースに住宅ローンの返済額を考えるときにも、「家賃=住宅ローン」ではなく、「家賃=住宅ローン+費用」で水準を決めましょう。

ライフスタイルが変わってもその家に住める?

 このように、住宅を買うときには賃貸住まいのときにはなかったさまざまなお金を考慮しておく必要があります。これに加えて、シングルのうちに住宅を買う場合には、その先のライフプランと住宅とのバランスも考慮しておくことが大切です。

 一人で住むには便利な家であっても、結婚したらパートナーと一緒に住めるか? 子どもが生まれたら家族で暮らせるか? といったら、そうとは限りません。ライフスタイルが変わったら、住まいに求めることや価値観がさま変わりすることもあります。

 せっかく買った家がムダにならないように、将来の暮らしも十分にイメージして、そのときに家をどうするか? も考えてから買うのでも、まだまだ遅くないはずです

文/加藤梨里 イラスト/とげとげ。

Profile加藤梨里(かとう・りり)
ファイナンシャルプランナー(CFP認定者) マネーステップオフィス株式会社代表
保険会社、銀行、FP会社を経て独立開業。家計、保険などお金のセミナー、執筆、相談を行う。働く女性のライフプランと健康にも関心があり、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科特任助教も務める。監修を担当した最新刊は『ガッツリ貯まる貯金レシピ』、『年金世代のしあわせ家計簿』
マネーステップオフィス株式会社:http://moneystep.co/