皆さんの周りにはどんな方がいますか?

 職場の上司、先輩、後輩、同僚……。
 周りの人たちとよい人間関係を築いていますか?
 周りの人たちはいい人ばかりですか?

 そんなことはないですよね。その中にはとても好ましいと思う人、自分と相性のいい人もいれば、苦手な人、はっきり言うと嫌いな人もいるかもしれません。

 ところが、「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」受賞者のように大きな成果を上げた女性たちは違います。自分の実績を振り返ったときに、ほとんどの人が周囲の方に感謝の意を表します。彼女たちはこう言います。「周りはいい人ばかりで助けていただいた」「人間関係に恵まれて自分はラッキーだった」……。

 それは本当なのでしょうか。周りがいい人ばかりで人間関係に恵まれていたから、幸せにキャリアを築くことができたのでしょうか。「周りがいい人ばかり」だなんて、そんなことがあり得るのでしょうか。職場の人間関係で悩む女性は多いと思うのですが、「周りはいい人ばかり」発言を、どう解釈したらよいのでしょう。そしてどうしたらよい人間関係を築けるのでしょうか。

第1回「号泣の不本意な異動だったのに全く後悔していない理由」
第2回「『私はダメ』自虐の無限ループ あなたのせいじゃない」
第3回「「キャリアプラン不要「人生を変える偶然」との出会い方」
第4回「「ピンチに負けない強い人」が実践する失敗時の行動」
第5回「考え方の癖を知れば、人間関係の悩みはもっと軽くなる」(今回はここ)

あなたの考え方の癖があなたを不幸にも幸福にもする

 そのヒントをもらったのは、50歳で入学した法政大学大学院での宮城まり子教授の授業「キャリアカウンセリング論」でした。そこで認知行動療法を学んだときに、「これは……!」と思いました。

 「認知」とは、「どのように捉え、どのように考え、どのように感じるか、意味づけるか」ということです。認知療法の基本は、「気分・感情はすべて『認知』によってつくられる。ものごとの受け止め方、捉え方、考え方が気分や感情を規定する」ということです。事実(物事)をその人がどのように捉えるか、考えるか、意味づけるかによって、心の在りようや行動が違ってくる。捉え方、考え方、意味づけの仕方で、私たちの気分や感情、行動は大きく変わるということです。

 授業では、エリスの有名な「ABC理論」も学びました。「ABC」とは下記を指します。

A「Activating Event」……あるできごと

B「Belief System」……信念・思い込み

C「Consequence」……結果として生じる感情
出典:宮城まり子著『キャリアカウンセリング』(駿河台出版社)

 このモデルによると、不快な感情(C)は、それに先行する出来事(A)によって引き起こされるのではなく、その人の非論理的な信念(B)によって発生します。つまり、何か出来事が起こり、そのことであなたの気分がブルーになっているとしたら、それは、出来事があなたを不幸にしているのではなく、あなたの考え方があなた自身を不幸にし、あなた自身が、あなたが落ち込むような捉え方をしているのだということです。

 この理論を知り、何枚も目からウロコが落ちたような気がいたしました。私は、これまで、起こった出来事が私の感情を左右すると思っていました。でも、認知行動療法では違うのです。感情を左右するのは出来事ではない。事実ではない。感情を左右するのは、自分自身の考え方の癖、認知なのだと。自分の認知の偏り、ゆがみなのだと。

 宮城教授から学んだ認知のゆがみから、女性に多いと思われる3つを紹介しましょう。

■「全か無か思考(オールオアナッシング)」――白か黒かどちらかに分けて考える、完全思考、完璧主義。例えば……「これに失敗したら人生の敗北だ」

■「マイナス思考」――よいことも悪い出来事に捉えてしまう、マイナスに思考することで現実と異なるマイナスの信念を持つ

■「すべき思考」――すべきだ、しなければならないと自分にプレッシャーを与え、自分を追い詰める

 宮城先生の授業でそれらを聞いて、グザグサと心に突き刺さりました。「ああ、自分は『すべき思考』があるな。認知のゆがみがあるなあ」と。

 自分自身の歪んだ考え方、認知の偏りに気づき、それを修正すれば、感情をうまくコントロールすることができるというのです。そして捉え方を変えるだけでなく、自分の行動を変えることにより、相手の反応が変わります。相手の反応が変わると、自分がさらに変わり、捉え方の偏りがさらに修正します。認知行動療法とは、具体的に行動を実践するということなのです。

 先に紹介したエリスの「ABC理論」には、さらに「DE」が加わります。

A 「Activithing Event」…あるできごと
↓         ↙D「Dispute」…反論する
B「Belief System」…信念・思い込み
↓         ↘ E「Effect」…不快な感情の解消
C「Consequence」…結果として生じる感情
出典:宮城まり子著『キャリアカウンセリング』(駿河台出版社)

 つまり、不快な感情をもたらした非合理的な信念(B)を明らかにし、それに反論(D)を加え、論理的な信念を獲得し、不快な感情が解消するという効果(E)がもたらされるのです。

他人をどう捉えるかによって人間関係も変わる

 この考えを知ったとき、成功した女性たちの言葉「周りはいい人ばかり」の謎が分かったような気がしました。

 出来事を「人間」に換えると分かりやすいでしょう。あなたの周りにもたくさんの人がいますね。その人をどのように捉えるかであなたの感情は大きく変わるはずです。

 例えば、数字にとても強くて(ということは数字に細かいということでもあります)仕事ができる上司がいたとします。その上司のことを「上司は部下の気持ちを理解すべきなのにしてくれない」「重箱の隅をつつくように数字に細かくて嫌になる」と思えば、当然気持ちはブルーになりますよね。ストレスを感じますよね。

 しかし、その捉え方をやめて、「仕事のできる上司にいろいろ教えてもらおう」「鍛えてもらういいチャンスだ」と捉えれば、あなたの気持ちは変わってきませんか。きっとその上司と話すときの表情も変わってくるでしょう。

 前段の捉え方だと、多分、表情も曇っています。上司となるべく目を合わせたくない、おどおどした振る舞いとなり、早く上司との話を終わりたいと思ってしまうでしょう。一方、後段になると、表情も前向きになっています。真っすぐ上司の目を見て話して懐に飛び込む感じ、いろいろ吸収してやろうという前向きな感じになるのではないでしょうか。

 前段と後段を比較すると、どちらがその上司といい人間関係を築けるか、その上司から支援を受けられるかというのは一目瞭然だと思います。あなたが上司だったらどうですか。自分と目を合わせてくれずそそくさと話を切り上げたい態度が見え見えの部下と、真っすぐ目を見て「いろいろ教えてください」という前向きな態度の部下とでは、どちらが好ましいと思えますか。

 私は、幸せにキャリアを築ける人というのは、他人をどう捉えるかという認知がゆがんでいない人なのだなと結論づけました。つまり、「そういう見方もあるけれどこういう見方もあるんだな」と多様な面から捉えることのできる人なのです。

 「周りにいる人がいい人ばかり」「環境に恵まれている」と語る女性は、周りに「いい人」が存在するのではなく、「自分の考え方の癖を修正して、他人をよく捉えることのできるその人」が存在するということだと、私は解釈しています。

人間関係に「なぜ?」と考えるのはムダ

 「人間関係に『Why?』は禁物です。『なぜ?』はやめることです」

 授業での宮城教授のこの言葉もとても印象に残っています。

 「この上司はどうしてこうなんだ?」「あの後輩はどうしてダメなの?」と、「Why?」を問うたとしてもムダなこと。なぜなら、「どうして?」「なぜ?」と考えてもその問題は解決しないからです。あなたの悩みであるその他人が変わることはありません。実は、他人を変えるよりも、自分が変わるほうが早いのです(これが認知行動療法なのですね)。

 過去と他人は変わりません。変えられるのは、「これから」そして「自分自身」なのです。よくいわれることではありますが、大学院の授業でその言葉を聞き、すとーんと腹落ちしました。

 最後に、自分を変えたことで大きな成果を上げた若き女性リーダーのことをお伝えしましょう。

 ある地域の問題解決のためにある組織を立ち上げた若き女性リーダーがいました。地域課題を解決し社会貢献したいというミッションを掲げ、その組織は船出しましたが、運営メンバーがどんどん辞めてピンチに陥りました。

 その女性リーダーは、最初、メンバーが自分の崇高なミッションについていけない意識の低い人たちだと思っていたそうです(「私についてこれないのはメンバーの意識が低いせい」――つまり他責ですね)。しかし、ついに自分以外のメンバーがほぼ辞めてしまって、ようやく、もしかしたら、間違っているのは彼らではなく自分だったのか? と思い始めたそうです。

 そう思ってからは、組織マネジメント論やリーダーシップに関する書籍を読みあさり、これまでの自分のマネジメントスタイルやコミュニケーション方法を猛省して自分の行動を改めました。そうしたら、加入したメンバーが組織に定着し始め、育つようになりました。そのようなメンバーと一緒に地域を元気にする仕組みを作り上げて大きな実績を残したのです。

 彼女が、「辞めたのは意識の低いメンバーのせい、自分は悪くない」という他責思考のままでは、メンバーの流出は止まらず大きな成果は残せなかったでしょう。でも、「私に何か問題があるかも」「私が変わったほうがよいのかも」と視点を変えて、物事を捉え直して、その解を求めてマネジメントやリーダーシップを学んだ結果、自分自身が変わりました。自分が変わった結果、メンバーとの人間関係もよい方向に変化し、協力も得られるようになりました。自分を変えることで他人が変わり、周囲にサポーターも増え、そして、未来も変えることができたのです。

 あなたにはどんな考え方の癖がありますか?

 その考え方の癖を少し変えてみると、苦手だと思っていた相手のことも違って見えてきませんか?

 掛ける言葉も向き合うときの表情も変わってきませんか?

 相手は変わりません。相手を変えたいと思ったら自分が変わるのが早道なのです。

文/麓幸子 写真/PIXTA

「仕事も私生活もなぜかうまくいく
 女性の習慣」
 著者:麓 幸子
 出版社:日経BP社
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日経BP総研マーケティング戦略研究所長
日経BP社執行役員。1984年筑波大学卒業。同年日経BP入社。88年日経ウーマンの創刊メンバーとなる。2006年日経ウーマン編集長。12年ビズライフ局長。14年日経BPヒット総合研究所長・執行役員。15年日経BP総合研究所副所長。16年日経BPヒット総合研究所長を経て現職。法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。内閣府研究企画委員などを歴任。筑波大学非常勤講師。一男一女の母。著書に『女性活躍の教科書』『就活生の親が今、知っておくべきこと』など多数