8月3日、第3次安倍第3次改造内閣の閣僚名簿が発表されました。稲田朋美・前防衛相の辞任が大きな話題となった直後だけに、改造内閣での女性閣僚登用にも、一体誰がどのポストに指名されるのかと注目が集まっていました。

 女性閣僚は二人。共に閣僚経験者で、総務相となる野田聖子さん(56歳)と法相の上川陽子さん(64歳)です。

今、最も「現代女子感覚」を持つ政治家かもしれない

 春から夏にかけて、経験の浅い女性政治家のさまざまなスキャンダルが嫌というほど取り沙汰された経緯を踏まえての慎重で手堅い選択がにじむ人事。私は、今回の閣僚人事発表の中にまさかの「野田聖子」の名前があったことに、快哉(かいさい)を叫びました。詳細は後ほどゆっくりお話ししますが、彼女は女性として最先端の生き方や選択を重ねてきた先駆者であり、(意外にも?)現代の働く女子が共感せずにはいられない、学ぶべき要素を併せ持つ貴重な存在なのです。

「日本の女性って差別されて虐げられているんでしょう」
「とても少ない選択肢しか与えられていないんでしょう」
「男性に従うのを強制されて生きて、かわいそうね」

 なんて、海外の一部の人々が持っているかなり極端な日本人女性のイメージや、「日本の政治家は三流ばかり」なんて印象もひっくり返してくれるような、十分に成熟し、勉強し、バランス感覚も一般社会の感覚も持ち続けることのできる、しっかりした「自分軸」のある女性政治家のように感じています。

 「野田聖子という政治家が話す言葉は、本当に彼女自身が経験からそう感じて口にしている言葉だ」と、私は以前、野田さんのある対談をライターとして聞きながら感動したのを覚えています。

「野田聖子」のパブリックイメージは誤解されていないか?

 実はその対談のお話を頂くまで、私は野田聖子という自民党の政治家に(大変失礼ながら)それほど積極的な興味を持ったことがありませんでした。メディアでちらっと見聞きしていたのは、誰かとけんかしたとか造反したとか対立したとか、議員同士で結婚した(実際には未入籍)とか別れたとか、それで専業主夫をしてくれる男性と再婚して、大変な不妊治療の末なんと50歳で出産したとか、極めて一面的な情報ばかりでした。

 これまた大変失礼ながら、私が持っていた印象は「無理むちゃをする人」「ちょっと自己中心的かも?」「女性政治家としてはどちらかというと粗雑」……。もちろん、そういう私自身こそ相当なむちゃをやらかし、ジコチューで粗雑なんですけれどね(笑)。

 ところが、仕事のために事前リサーチを始めると、それらは著しく間違ったイメージであるとショックすら受けました。彼女の今までの人生は、同世代の日本人女性の中では確かに非常に自立した、ハードな人生。しっかりした家庭でお嬢さん学校を卒業し、外国語にも堪能な一人娘の彼女がそもそも政界入りしたのは、彼女しかおじいさんの跡を継ぐ人がいなかったから。男子としての役割を期待された「島聖子」はおじいさんの養子となって「野田聖子」として政界入りし、腹を決めて自身の運命を背負ったのです。

 野田聖子さんは1960年生まれ。上智大学外国語学部を卒業後、帝国ホテルに入社します。1987年岐阜県議会議員選挙に自由民主党公認で立候補し、史上最年少で当選。32歳で衆議院議員総選挙に初当選し、1998年には、37歳で郵政大臣に抜てきされました。小泉内閣が進めた郵政民営化に反対して自民党を離党することもありましたが翌年に復党。福田、麻生内閣では内閣府特命担当大臣(科学技術政策・食品安全)、消費者行政推進担当大臣、宇宙開発担当大臣、安倍内閣では自民党総務会長などを務めた骨太キャリアの持ち主です。

 一方で、リサーチしながら見つけた、彼女自身の言葉で語られていた数々のエピソードは、想像を超えた「一人の働く女性の痛切なリアリティー」でした。

 鶴保庸介参議院議員(前沖縄・北方相)との事実婚や解消の理由、再婚(当初は事実婚)と長くつらい不妊治療や特別養子縁組の模索、そしてアメリカでの卵子提供を経て50歳にして出産と子宮摘出、重い障害を負った息子の育児など。それらはすべて男性視線のメディアでは「むちゃくちゃ」「わがまま」とさえ評されていましたが、全くそうではなかった。

 シリアスでシビアで、彼女が女性として真剣に「賭けた」夢であり希望であり、そして自分の人生に取った責任でした。

 そう、彼女自身が悩み、傷つき、じたんだを踏んで、最後は自分で責任を取り切っている「女子」だから、その姿に胸を打たれたのです。

悩み、傷つき、じだんだを踏んだ「女子」だから提言できる政策

 私がライティングを担当した対談(2016年春実施)では、働き方や女性活躍、少子化問題などがテーマで、野田さんの取り組む夫婦別姓や保育義務化、男性育休、同一賃金同一労働などの政策の話に交えて仕事観や現代的な結婚観なども語られました。

 「もう無理はしたくなかった。私は26歳からこの仕事をしていて、他に何の取り柄もない女なんです。今まで子どもも育てていないし。せいぜいお酒が強いくらいで、おじさん化して、仕事で頑張ってきたというのが、私が世の中にかろうじて存在できている自信で。容姿も自信ないし。でも夫は、『いつみても波瀾万丈』というテレビ番組で、郵政選挙の頃に小泉元総理と戦っている私を見て、女の人なのに頑張っているなとすごく気に入ってくれていた。ファンだったんですね。私の仕事っぷりが好きだと言ってくれたので、じゃあこの人に自分を託そうかなと。今後も仕事を続ける上で、そこをやっぱり理解してくれる人と一緖になった方がいいって」
 「私が尊敬する3大要素というのが、私よりも『歌がうまい』『字がうまい』『漢字を知っている』で、彼はオールクリアなんですよ。彼と婚姻届け出すときに、向こうはスラスラ達筆で書いているのに私は下手なのですごく恥ずかしかった。そういう普遍的なものが大事です。一生尊敬できる、一生乗り越えられない優れたところがある。それで一緒になれるんですよね。学歴なんて大したことじゃない」
 「みんな、私の経験に照らせば結婚して家庭は持ったほうがいいと思います。健康管理もできるし、あとは一人でいると仕事のことばかり考えて、リセットできないですよね。リセットできるでしょ?子供がいると。いろいろな法案を抱えて頭が一杯になっている中、あのおむつ交換でスッとバグが取れるというか。あの醍醐味っておむつを変えるときしかわからない。育児していると、嫌なこととか忘れますよね。もっと大変な目に遭うから。世の中で子供ほど理不尽な存在っていないと思う。だっていきなりぶってきたりするもんね! 取引先の人はそんなことしないでしょ(笑)」
(「サイボウズ式」記事/「私は安倍総理に『育児と仕事の両立は無理』とはっきり言った、女性はもっと『できません感』を出そう──野田聖子×サイボウズ青野慶久対談」)記事末URL参照

 自身の経験や普段の暮らしから実感を込めて、シリアスな話題をファニーに語り、しかし聞く者の懐にしっかりとテーマの本質を投げ込み理解させる。息子の写真が写真立てにたくさん飾られた衆議院議員会館の議員事務室で、息子の写真を指して「イケメンでしょ」と照れ、「お酒を飲む席でいろいろな人と話をするのも政治家としての仕事スタイルのうちなのよ」と低くよく通る声で笑う野田さんの姿には、無責任なわがまま女性なんかではなく、むしろ責任感が強過ぎるくらい真面目に仕事に生きて、背負うものをすべて自分なりのバランス感覚とユーモアでこなしてきた私たちの先輩なんだ、と思えました。

 録音を語られた通りに文字起こししたものが文章として成立するのは、論理的で頭の良い人の語りの特徴ですが、野田さんの言葉はすべて文章としてきれいに成立し、しかも後から聞いてもいたって面白く、心の底から感心したのを記憶しています。

私たち女子が野田聖子に寄せる期待

 冒頭で「閣僚名簿に、まさかの野田聖子の名前があった」と書きましたが、それには理由があります。

 新聞各紙でも「安倍首相と一定の距離を置いてきた野田聖子氏」と表現される通り、安倍首相と同期当選の彼女は、第2次安倍内閣では自民党総務会長の要職を務めながら、2015年9月の自民党総裁選では安倍首相の再選を阻止するために対抗出馬を表明。しかし20人と定められた推薦人が集まらずに終わり、安倍首相との間にはこの騒動で大きなわだかまりが残ったからなのです。そこをあえての登用に打って出た安倍首相の姿勢からも、今回の改造内閣での本気度がうかがえます。

 アラサー、アラフォーの働き女子たちからは、野田聖子さんの閣僚入りに対してこのような声が届きました。

■ようやくまっとうな女性政治家が表舞台に戻ってきた感がある。最近スポットライトを浴びるのが、妙な女性政治家ばかりだったから。
■浮ついていない、地に足着いた女性政治家の登場で安心感がある。これまでメディアを通して、人として、政治家として本音の部分も見せてきた人だし、その発言や行動に芯を感じることも多かった。本気で応援したい。
■「このハゲー!」の豊田真由子議員、炎上ばかりの上西小百合議員、不倫騒動で残念な今井絵理子議員、稲田朋美議員のドタバタ大臣辞任……とここ最近ずっと「女性政治家」に対するモヤモヤが続いていました。野田氏の登場でからっと晴らしてくれるような期待が高まっています。
■思えば、彼女自身の失政って見当たらない。むしろまっとうな政策や発言のほうが多いような。でも彼女というキャラクターがおじさんには受けず、これまでの時代には早かったのかもしれない。いよいよこれからだよね。

 分かります、分かります。というのも、閣僚人事発表の前日のお昼、私はランチを食べながら女性の担当編集さんに「野田聖子押し」を熱弁していたからです。

 「野田さんさえ表舞台にいてくれたら、それだけで日本の政治のフロントラインの印象がだいぶ変わるはず! それくらい人間としてもいろいろな要素を持っている、実力も胆力もある政治家なんですよ!(机ダーン! 飛び散るカフェラテ!)」……と。

 実は「女子」としての人生をちゃんと生き、今、最も中央に近いところにいる人。彼女自身が自分の人生の中で本当に感じてきたことを政策にする力のある人。実感を伴った言葉を、ちゃんとおじさんたちへ届けてくれる存在。そんな期待を抱かせてくれる野田聖子さんに、リアルな働き女子たちからの注目が集まっています。

【参考】
「私は安倍総理に『育児と仕事の両立は無理』とはっきり言った、女性はもっと『できません感』を出そう──野田聖子×サイボウズ青野慶久」(サイボウズ式)

文/河崎環 写真/PIXTA

Profile河崎 環(かわさき・たまき)
コラムニスト。1973年京都生まれ、神奈川県育ち。家族の転勤により桜蔭学園中高から大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部卒。欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での生活を経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、テレビ・ラジオなどで執筆・出演多数。多岐にわたる分野での記事・コラム執筆を続けている。子どもは20歳の長女、11歳の長男の2人。著書に「女子の生き様は顔に出る」(プレジデント社)