2022年4月から育児・介護休業法の改正により、働く男性も育児休業を取りやすくなることが期待されています。それに先立ち、すでに育休を取得して子育てに奮闘しているパパの声を聞いていくインタビュー連載・「男性育休取ったらどうなった?」をお送りします。

「産後の妻を完全サポート」安田家

今回のパパ
安田 直人さん/42歳/会社員(IT系)

●ご家族
妻:安田 栞里さん/40歳/専業主婦
長男:柊悟くん/1歳
(※お名前はすべて仮名です)

●安田家の育休
第一子誕生(2020年4月)
夫:出産当日から約三週間

安田直人さんのタイムスケジュール

「出産後の母親は見た目は普通ですが、体の中は交通事故にあった人と同じくらいぐちゃぐちゃです」

寝起きの柊悟くんをあやす直人さん

ーー直人さんは奥様の出産当日から三週間、有給休暇を取得する形で育休を取ったそうですね。

直人さん そうです。今思えば、一年くらい取りたかったですが(笑)。取りづらい職場というわけではないのですが、ちょうどコロナ禍のはじまりくらいでバタバタしている時期でしたね。そうそう、だから僕はギリギリ立ち会い出産ができたんです。妻が出産した翌週から、立ち会い出産がNGになってしまいました。

ーーコロナ禍のはじまりの時期だったということは、実家のサポートも受けられませんでしたか。

直人さん もともと夫婦どちらの実家も遠くて飛行機の距離なので、実家のサポートは検討していなかったですね。特に妻の実家は交通の便があまりよくないので、里帰り出産も考えていませんでした。だから産後は絶対に自分が生活をサポートするぞと思っていて。

ーー産後すぐから頼る人のいない土地でひとりきりでの子育てだったら、想像を絶する過酷さですよね。

直人さん 妻の出産前に、3つ心に刻んでいた言葉があって。そのうちのひとつが、「出産後の母親は見た目は普通ですが、体の中は交通事故にあった人と同じくらいぐちゃぐちゃです」というものでした。見た目が普通だとイメージできないですけど、僕自身は体がとても丈夫な方なのであまり具合の悪い人の気持ちがわからなかったんですけど、交通事故で中身ぐちゃぐちゃだったらそれは大変だよなあと腑に落ちましたね。何が何でも妻を労わらねばならぬ、自分が家事は全部やらねば! と決めました。

ーーあと2つ、心に刻んでいた言葉とは?

直人さん 「出産と母乳以外は、パパでもできます」「男性育休の【休み】は、パパの休みじゃなくて奥さんの休みだ」ですね。どれも、妻から聞いたんです(笑)。

栞里さん 私が言いました(笑)。確か、本だったり、何かの記事だったりで読んだのかな。どれだけ大変かというのを「そうらしいよ」みたいな感じで伝えて、刷り込んでいました。

直人さん 自分でも、子どもの命の責任を全部母親に背負わせるのは変だな、と思っていましたし、単純に自分も子育てしたかったんですよね。ただこれが20〜30代の若いときだったら、違ったかもしれません。40歳でできた子なので、遊びたい盛りはもう終わってて、落ち着いてたのもあるんですよね。だから可愛くて仕方ないです。

18時33分に必ず退社して直通電車に乗る

最近は電車や車に夢中

ーー奥様とお子さんが退院してから、家事の役割分担はどうなりましたか?

直人さん なるべく横になっていてもらおうと可能な限り家事をやったつもりでいます。できていたかどうかは……。

栞里さん 全部やってくれました! 本当に。

直人さん そう思ってもらえてたなら良かったです。前提として僕は、料理と洗濯はできて、掃除はできなくはないけどあんまり好きじゃないです。妻は全部できます。不妊治療で妻は仕事を辞めているのですが、それ以前は共働きだったので、お互いの仕事の忙しさに応じて「できる方がやる」というスタイルでした。産後、お母さんは三週間ひたすら寝ていた方がいいと聞いていたので、極力、動かないようにしてもらいました。

栞里さん しかも、台湾の「産後の肥立ちに良いスープ」という食べものがあるのですが、それを欠かさず作ってくれました。私が妊娠中、台湾料理の教室に何回か通っていて、そこで“麻油鶏(マーヨージー)”という体を温めるスープのレシピを教わったんですね。台湾の女性たちが産後に食べる薬膳料理で、作るのは結構面倒くさいのですが、毎日作ってくれて、それを飲んでいました。あとはことあるごとに「寝てなさい」って。

ーーいい旦那さんすぎる(泣)。職場復帰してからの働き方はどうですか?

直人さん 今は朝の散歩と朝食を子どもにあげて歯を磨いてあげてから出社していて、帰宅後はお風呂に入れています。布団の上げ下げと朝の掃除とゴミ出しも僕の担当です。休日はそれにプラスして午前の遊び、お昼ごはんあげる、お昼寝の寝かしつけ、午後の遊び、晩ごはんあげる、洗濯、お風呂掃除、たまに料理もします。

栞里さん とにかくずっと子どもと一緒にいますね。

直人さん もっと一緒にいたいくらいですけどね! 今は定時帰宅を徹底しています。正確には18時33分に必ず退社します。

ーーなぜきっちりその時間に?

直人さん 18時40分の直通運転電車に乗るためです。打ち合わせとかが18時から入ってることもたまにあるんですけど、「18時半に帰るから」と最初に宣言しているので、同僚や上司も協力してくれて、なるべくその時間からの打ち合わせを入れないようにしてくれて、ありがたいですね。たまたま今は、そこまで切羽詰まった業務のある部署ではないので、柔軟な働き方をしやすいというのもあります。

ーーどうしても仕事が終わらなくて持ち帰り残業になってしまうことはないですか?

直人さん 仕事を持ち帰ることはたま〜にありますけど、家でできる範囲のことですね。さっきも言いましたが、まだ仕事も遊びも楽しくて、お金も時間も自分に使いたいし友達とも遊びたいし、という若い時期だったら、こんなに育児に向き合えなかったかもしれない。今は育児が一番楽しいんですよ。

高熱で母子が二週間の入院!「超寂しかった」

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直人さん もし育休取らなかったら? いやそれはもう、想像したくないくらいですねえ。多分、妻が相当しんどくなってて、家庭不和に繋がってるはずですね。

栞里さん あの頃は未知のウイルスが蔓延して世界中がピリピリしていて誰とも会えない感じだったので、誰にも手助けしてとは言えない状態。もし彼が普通に会社へ行って仕事していたら、産後すぐから完全ワンオペになっていたでしょうね。

直人さん でも彼女は責任感が強いんですよ。しっかりやりたい派なので、無茶して倒れていたんじゃないかなと思います。

ーー育休を取って夫婦の関係性に変化は生まれましたか?

直人さん うーん、僕は特に変わってはなくて……当然のことを当然のようにやってる感覚なので。何か変わった?

栞里さん 私も関係性が変わったとは思わないですけど、産まれた瞬間から一緒に育児に奮闘できたことで、大変さや喜びを100パーセント同じ温度感で共感しあえる唯一無二の存在になれたなって思ってます。
育児をしていて、「この大変さがどれだけの大変さか」って、漠然としていて共有しづらいことだと思うんです。たとえば「赤ちゃんのうんちがオムツから背中に漏れました」という時、その「ああーっ」って感じがちゃんと伝わるかどうか。やってない人にはわからないけど、やってる人同士は「あれはきついよね」と通じ合えますよね。

ーーセナモレのしんどさ、確かに育児をしてないとわからないです!

栞里さん それに大変さだけじゃなく喜びも。うちの子は人見知りが強めだったり、成長度合いはゆっくりめなのですが、だからほんのちょっとの成長が「おお!」みたいな驚きや喜びになります。知らない人には「そんなこと?」と思うようなちょっとしたことでも、それがどれだけこの子にとってすごいのか、ずっと見ててくれたので、共有できます。喜びも大変さも全部同じテンションで感じていられるなって、私は思ってますね。

直人さん 僕は命の重さというか、子育ての怖い部分も共有できるのがよかったと思いますね。自分ごとになってないと、たとえば「赤ちゃんが熱を出してる」と言われても「へえ」って感じだと思うんですよ。
さっきも言いましたけど僕自身は体が丈夫だし、大人の感覚だとちょっと熱が出て風邪を引いても「別に」じゃないですか。でも子どもが熱を出したというのは、親にとっては一大事なわけですよ。そこをママだけじゃなくて自分も同じように怖がれるというか、不安だったり心配だったりの気持ちもシェアできてるのがいいなと。

栞里さん 11ヶ月の時、息子が高熱を出して救急車を呼んだことがあるんです。あれは参りました。

直人さん 40度近い熱が何日も続いてたんですよね。小児科では突発性発疹じゃないかと言われましたが、何日も高熱が下がらないし、発疹も出てこない。そのうち尋常じゃないガタガタした震えを不定期に起こして。ちょうどコロナで安易に救急車を呼べない時期だったのですが、早朝、救急センターに電話をして救急車を呼んでいいか確認してから、119しました。

栞里さん 大きな病院に運ばれて、診断は尿路感染症。そこから二週間の入院でした。付き添いの大人は1人だけで、コロナ禍だったので交代NGで、救急車で病院へ行ってから私も一度も外へ出てはいけなかったんです。これはなかなかキツイ二週間でした。でも彼は毎日、着替えとかを持ってきてくれて。

直人さん 仕事から帰ってきてもやることがないのでポツンとしちゃって。僕の生きがいがないわけですから。なので自転車で30分ほどの距離の病院だったんですけど、毎日着替えとか荷物を届けてました。

栞里さん 変な時間でもきてくれた。

直人さん やることないからすぐ行くよね。

ーー寂しかったですか?

直人さん 超寂しいっす。絶望しかなかったな。

栞里さん 私も絶望でした、あの時は。高熱で入院しているものの、子どもってわりと元気じゃないですか。でもまだ歩けないし、コロナで院内のプレイルームも使えず、ベッドの上にしかいられない子どもと何もすることなくずっと一緒というのはきつかったです。2人きりで何もできない状態でいるのがこんなに辛いものかと思いましたね。だから誰かが一緒に育ててくれるのは必要なことなんだと改めてそのとき実感しました。

パパはもっと育児したいし、ママも働きたい

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ーー栞里さんは不妊治療でお仕事を退職されたそうですが、そろそろ再就職を考えているのですか?

栞里さん 不妊治療のために辞めたというよりは、不妊の状態が5年ぐらい続いていて、行き詰まっていて、心も体も疲れ果ててしまったんです。年齢的にも30代後半……37歳で退職したんですけど、このあたりで区切りをつけたいって思ったんですよね。
もし仕事は続けて不妊治療だけ諦めたら、いずれ「あのとき仕事を辞めてたらどうなっていたんだろう」っていう気持ちに必ずなると思ったので、できるだけ後悔のないように、そういう思いをしない不妊治療の終わり方にしたいと思ったんです。

直人さん 仕事を辞めて最後に一回だけ不妊治療をして、それでもダメだったら子供を諦めて2人の生活に気持ちを切り替えようって決めて。

栞里さん そう、だから「仕事を辞めれば子供ができるかもしれない!」って期待して辞めたわけではないんですよ。あきらめるために、踏ん切りをつけたくて仕事を辞めました。でも不思議と、退職したら「子どもももういいかな」って思えて。不妊治療の最後の一回をする前に、「もう不妊治療しなくていいか」と心の整理がわりとついたんですよね。実際、お金もすごいかかりますし。私たちは体外受精の顕微授精という最終段階だったので、一回やるのに40万〜60万。成功したら60万で、ダメでも40〜50万はかかる。

ーーそれでも最後にもう一度、顕微授精に踏み切った理由は?

栞里さん 友達に「何のために仕事を辞めたの?」と問いかけられて、確かに……と考え直して。じゃあダメ元でも最後にもう一回だけやろうかと挑んだら、すごいトントン拍子に進んでしまって。なので、授かった時の私たちの反応は「えっ?」という戸惑いです(笑)。退社して半年後くらいのことでした。

ーー奇跡のようなことですよね。そして今は1歳8ヶ月までスクスクと成長してくれていて。

栞里さん ありがたいことですね。ただ、再就職は……したいのですが、保育園探しが難航しています。ちょうど半年ほど前、そろそろ働きたいなと思っていたときに、すごくいい条件で面白そうな仕事の情報を紹介されて、保育園を調べたんですけど、入るのが難しいことがわかって。
そもそも仕事を一旦離れてしまうと、また働きたいから子供を保育園に預けたいと思っても、入園に必要な点数が全然足りないんですね。正社員で育休中だったら入れるけど、パート育休中でも厳しいらしくて、さらに就活中なんて言ったらもう本当に点数がマイナスなんじゃないかくらいの感じ。

ーー預け先がないと就職できず、就職先が決まっていないと保育園に受け入れてもらえない。

栞里さん まさにその状況です。ママに特化した人材紹介会社にも登録したのですが、「預け先決まってますか? 決まってない方にはうちはお仕事を紹介できません」と言われてしまってびっくりしました。いったん仕事を辞めてまた働きたい人にはなかなか難しい社会システムなんだなってわかり、今、行き詰まっています。

ーーおかしいですよね。子どもを産む少し前までずっと働いていたのに。

栞里さん うちは特に夫が育児にすごい積極的で、仕事をセーブしてでももうちょっと子育てしたい人。

直人さん 僕はもう仕事辞めてもいいといつも言ってるんです(笑)、ずっとゼロ距離で我が子を見ていたいから。

栞里さん であれば、私も働けば、夫が少し仕事をセーブして収入ダウンしたとしても、世帯収入はキープできるじゃないですか。そして彼の子供を育てたいという気持ちも尊重できて、私も働いたからといって子育てに参加しないわけではないので、2人とも子育てできて仕事もできて、でいいんじゃない? と思うんですけどね。

ーー共働きの利点ですよね。

栞里さん 人生においてうちはもう1人しか授からない、もう産めないので、この彼の気持ちをどうやって大事にしてあげたらいいんだろうと思うと、やっぱり私が働いた方がいいんじゃないかと思うんですけど、今はこんな状況なので、何とか打開したいですね。

直人さん 僕は10時出社で18時半のちょうど定時に退社してますけど、それで「すごい」「うちには出来ない」と言われたりすると、「でも女性社員だったら当たり前にやってることですよね」とも思うんですね。そういった働き方の柔軟性は、選択肢として男女どちらも持てるといいですよね。

(取材・文:マイナビ子育て編集部、撮影:佐藤登志雄、イラスト:すみれ)