生理(月経)のある女性にとって貧血は常日頃から身近な問題です。そして妊娠期間中には貧血がより起こりやすくなります。貧血がひどくなると赤ちゃんの成長に影響することもあります。対策方法を知って、早めに予防・対処していきましょう。

この記事の監修ドクター 直林奈月先生
赤心堂病院産婦人科勤務(埼玉県川越市)
高知医科大学卒業後、太田⻄ノ内病院、高知大学医学部附属病院、船橋二和病院を経て現職。 産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科内視鏡学会腹腔鏡技術認定医、母体保護法指定医師、女性ヘルスケアアドバイザー

妊娠初期にも貧血になりやすい

女性は妊娠前から貧血に注意が必要

女性が男性に比べて貧血になりやすいことはよく知られています。具体的なデータをあげると、厚生労働省による「平成27年国民健康・栄養調査」で貧血の指標となる血色素量(ヘモグロビンの量)の統計が公表されています。この調査結果をみると、20〜40歳代の男性では貧血はわずか2%ほどですが、その年代の女性はおよそ20%が貧血に該当する血色素量であったことが報告されています[*1]。

女性が貧血になりやすい原因として、なによりも影響が大きいのは月に一度、生理で血液が失われることです。男性に比べ、からだから出て行ってしまう血液の量が多いわけです。それに加えて、不適切なダイエットにより栄養バランスが崩れ、血をつくるのに必須の栄養分である鉄分の摂取量が少なくなってしまうこともあります。

これらの理由で、女性は、普段から貧血になりやすいのですが、このあと解説するように、妊娠時にはより貧血になりやすくなります。安心して出産に臨むために、妊娠する前から、貧血の予防・対処をしておくようにしましょう。

妊娠後期だけでなく、初期の貧血にも注意を

妊娠すると子宮が大きくなり、その分、必要な血液の量が増えます。もちろん、赤ちゃんが必要とする血液量も日に日に増えますし、胎盤の血液の需要も増えます。それに対応して母親のからだの中では血液を増やそうとしますが、血液の液体成分(血しょう)の増加量に比べて、固体成分(赤血球)の増加量が少ないので、一定量の血液の中にある赤血球の割合は通常時より下がります。これは水血症といって、妊娠時に起こる正常な変化です。

ただし、妊娠期間中には通常時に比べてはるかに血液の量が増えることにより、赤血球をつくるのに欠かせない「鉄分」の需要が妊娠期間を経るにつれてどんどん増えていきます(くわしくはのちほど解説します)。後期はもちろん、初期にもこの変化は始まっているため、妊娠初期も鉄欠乏性貧血になりやすくなっています。

妊娠初期、中期の貧血は、低出生体重児と早産のリスクを高めるため、改善する必要があるとされており[*2]、妊娠初期から貧血には注意が必要なのです。

貧血ってそもそもどんな状態?

ところで、「貧血」とはどのような状態をさすのでしょうか?

よく、立ち上がった際にフラッとすると「貧血になった」ということがありますが(脳貧血)、これは一時的に血圧が下がることなどで起こるもので、ここで紹介する貧血とは別の病態です。医学的には、血液の濃さが薄くなった状態を貧血といいます。

具体的には、血液の中にあるヘモグロビンの濃度が低い時に貧血と診断されます。ヘモグロビンは、赤血球の中にある成分で、日本語では「血色素」といいます。ちなみに、血液が赤く見えるのは、このヘモグロビン=血色素が赤いからです。

ヘモグロビンは、血液の流れに乗って酸素を全身に送り届けています。ヘモグロビンの濃度が低いと、酸素の運搬能力が低下して、次に挙げるような貧血の諸症状が現れます。

貧血がゆっくり進むと気づかないことも

貧血の症状は、めまい、立ち眩み、息切れ、動悸などです。ただ、貧血が徐々に進行するとこれらの症状が現れなかったり、現れても気づかないことがあります。特に妊娠する前から貧血気味だった人は妊娠に伴って貧血が進行しても自覚症状が乏しい傾向があると言われています。

妊娠初期に起こりやすい貧血とは

さきほど、妊娠に伴う血液量の増加によって貧血が進む過程を少し解説しましたが、ここでもう少し詳しくお話しします。

妊娠6〜12週時点になると、体の中を巡っている血液の量は妊娠する前に比べて15〜20%増加します。その後、血液の量は30〜34週までの間に急速に増加して、妊娠後期には妊娠前に比べ40%ほど増加します。

一方、この間に赤血球の量は緩やかに増えていき、最大で非妊娠時の20%程度しか増加しません[*3]。それだけ妊娠中は血液の濃さが薄くなるということです。特に多胎妊娠(双子以上の妊娠)では、貧血の程度がより重くなりやすくなります。

妊娠初期はつわりの影響も

貧血はその原因によっていくつかのタイプに分けられますが、妊娠に伴う貧血で多いのは、鉄不足による「鉄欠乏性貧血」です。鉄はヘモグロビンが作られる際の原料なので、血液中の鉄分が少ない状態ではヘモグロビンが十分に作られず、その濃度が下がる、つまり貧血になります。これが鉄欠乏性貧血です。

妊娠初期に起きる貧血の原因として、血液の需要が急速に増えて血液が薄くなることのほかに、つわりによって、本来必要とされる十分な栄養を補給することができなくなることも関係してきます。鉄分の摂取量そのものが少ないことが、鉄欠乏性貧血をさらにエスカレートさせてしまうということです。

葉酸やビタミンBの不足にも注意

このように、妊娠初期の貧血の多くは鉄分不足から起こる鉄欠乏性貧血ですが、それ以外にも、葉酸の不足による貧血にも注意が必要です。

葉酸については、赤ちゃんの先天性障害のリスクを減らすために、妊娠前から積極的に摂取することが勧められますが、それだけではなく、赤血球を作る際に大切な原料でもあります。葉酸が不足すると赤血球が十分作られない、つまり貧血になるというわけです。

妊娠中には鉄分だけでなくその葉酸の需要も増えます。それにもかかわらず、鉄分と同じように、つわりのために摂取量が減ってしまいがちです。

また、アルコールを大量に摂取すると葉酸は吸収されづらくなります。妊娠中のアルコール摂取には催奇形性(赤ちゃんに先天異常を起こす可能性)など、葉酸の吸収低下以外にもさまざまな悪影響のリスクがありますので、控えましょう。

鉄分や葉酸と同じように、血液を作るためのもう一つの栄養素に、ビタミンB12が挙げられます。このビタミンB12の不足でも貧血は起こります。なお、葉酸やビタミンB12の不足によって起こる貧血は、医学的に「巨赤芽球性貧血」と呼ばれ、葉酸やビタミンB12の不足により、核が成熟していない異常に大きな赤血球ができる状態です。一方、鉄分の不足による貧血は「小球性貧血」と呼ばれ、名前の通り、こちらでは小さな赤血球ができるようになります。

妊娠初期の貧血の診断と赤ちゃんへの影響

さきほど「貧血とはヘモグロビンの濃度が低下した状態」と解説しました。では、ヘモグロビンの値がどの程度まで下がると貧血と診断されるのでしょうか。

世界保健機関(WHO)により、非妊娠時の女性ではヘモグロビン12.0 g / dL未満、男性で13.0 g / dL未満が貧血と定義されています[*4]。ただ、前半で解説したように、妊娠中は非妊娠時より血液が薄まることは普通なので、妊娠中の貧血の診断基準は非妊娠時よりは少しゆるめになります。

米国では妊娠初期(第一三半期)にヘモグロビンが11g/dL未満、またはヘマトクリット(血球数)が33%未満の状態を「妊娠性貧血」としています。またWHOでは、ヘモグロビンが11〜10.9g/dLを軽症、7〜9.9g/dLを中等症、7g/dL未満を重症の妊娠貧血と、重症度も決めています。

なぜこのような診断基準があるのかというと、妊娠中に貧血があると母親の自覚症状の有無に関係なく、出産や赤ちゃんに影響を及ぼす可能性があるため、しっかり治療すべきかどうかを判断するために目安となる数値を設ける必要があるからです。

妊娠性貧血によってリスクが高くなることとして、早産、出産後に母親が感染症にかかりやすくなる、低出生体重児出産などが挙げられます。

重症の貧血であれば、これらのリスクを下げるためすぐに治療がスタートします。中等症であっても貧血の悪化を防ぎ出産時のリスクを下げるために治療を行います。軽症の場合、影響は少ないと考えられますが、妊娠の進行とともに貧血が悪化することに備えて、治療開始を検討します。

妊娠初期の貧血に対する予防と治療

では、妊娠初期の貧血に対する予防と治療に話を進めましょう。まず最初は何といっても体への鉄分の供給を増やすことです。

※以下で紹介する食品中、レバー類は過剰摂取で胎児の形態異常を引き起こすビタミンAも多く含む食材のため、摂りすぎには注意が必要です。

基本は食事を改善

食品として摂取する鉄は「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」に分けられます。前者のヘム鉄は主に肉・魚などの動物性食品に含まれ、体に吸収されやすいという特徴があります。後者の非ヘム鉄は全粒穀物や豆類などの植物性食品に含まれ、ヘム鉄よりも体への吸収率が低いという違いがあります。

では、ヘム鉄が多い動物性食品ばかり食べればよいのかというと、そうとは言えません。動物性食品ばかり摂ることは栄養バランスを考えるとおすすめできませんし、そもそも食事由来の鉄分のほとんどが実は非ヘム鉄と言われています。ヘム鉄は吸収されるとき食事内容による影響をあまり受けないと言われていますが、非ヘム鉄の吸収率は食品中のさまざまな成分によって大きく左右されると言われています。つまり、非ヘム鉄は「食べ合わせ」で賢く吸収率をアップさせることができるのです。鉄分の上手な取り入れ方は次の項で紹介します。

なお、貧血は鉄以外の栄養素の不足でも起こることは紹介しました。造血作用のあるビタミンB12・B6や葉酸を多く含む食材、例えば牛や豚のレバー(※)、魚介類、貝類、卵黄、チーズ、大豆、納豆、ほうれん草、ブロッコリーなどもお勧めです。

つまり、いろいろな食品を組み合わせて食べることをベースにして、その上で鉄分などが豊富な食材の摂取を心がけるようにしましょう。

鉄分の摂取・吸収量を増やすテクニック

まず、ヘム鉄が豊富な食材は、豚や鶏、牛のレバー(※)、牛ひき肉、カキ、あさりなどで、非ヘム鉄は、豆腐・納豆などの大豆食品、ホウレンソウ、小松菜などに多く含まれています。

非ヘム鉄は、動物性タンパク質やビタミンCとともに摂取すると、吸収が高まります。ビタミンCは、ピーマンやパプリカ、芽キャベツ、ブロッコリー、ゴーヤー、ジャガイモなどに多く含まれています。

なお、鉄鍋を使って調理すると、料理の中に鉄が溶け出して、その分、鉄分を多く摂取できます。

鉄は一度にたくさんとっても吸収できる量に限りがあるので、なるべく3食均等になるように分けて食べましょう。

一方、緑茶や紅茶に含まれているタンニンは、鉄と結合して吸収率を低下させてしまう懸念があり、食事中や食事後はあまり飲まないほうが良いかもしれません。

鉄剤での治療

食事面の工夫では効果が十分でなく、薬で治療が必要になった場合、まず内服(飲み薬)の鉄剤(クエン酸第一鉄)が処方されます。鉄剤には注射薬もありますが、注射薬の方が内服薬よりも貧血改善効果が高いという報告はなく、よって注射剤が使われるのは副作用のために内服薬を服用できない場合など、限られたケースです。

内服の鉄剤の副作用として、吐気、嘔吐、食欲不振、便秘、下痢などがあります。

サプリメントも医師に相談しながら上手に利用して

鉄や葉酸、ビタミンBに関しては、サプリメントとしても多く販売されています。医師に相談した上で、それらのサプリメントの利用を試みてもよいでしょう。ただし、サプリメントは医薬品と異なり、その品質や規格が一定しません。また、使用方法によっては過剰摂取のリスクなどもあります。自己判断による安易なサプリメントの利用は避け、妊婦健診の際などに医療機関で相談してみましょう。

まとめ

妊娠中の貧血というと、妊娠後期の注意事項だと思われている方が多いのではないでしょうか。確かに妊娠後期になるほど貧血の頻度や重症度は高くなるのですが、それは妊娠の初期から徐々に貧血になりやすい状態が進んでいった結果でもあります。妊娠初期から貧血対策を心がけ、安心して出産に臨めるようにしましょう。

(文:久保秀実/監修:直林奈月先生)

※画像はイメージです

参考文献
[*1]厚生労働省「平成27年国民健康・栄養調査」
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003227620
[*2]公益社団法人日本産科婦人科学会, 産婦人科診療ガイドライン―産科編2017, p2. [*3]医学書院「週数別妊婦健診マニュアル」,104-105,2018 [*4]World Health Organization (2008). Worldwide prevalence of anaemia 1993–2005 https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/43894/9789241596657_eng.pdf;jsessionid=BE6A690BC82354BBA1880020665CE2D2?sequence=1

※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました

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