妊婦さんがトキソプラズマという寄生虫に感染すると、ときに赤ちゃんが何らかの障害を持って生まれてくることがあります。胎内感染による「トキソプラズマ症」の症状の現れ方、感染経路、予防法について知っておきましょう。

この記事の監修ドクター 荒木記念 東京リバーサイド病院
星 真一先生
1995年昭和大学医学部卒業。昭和大学病院、総合守谷第一病院などの勤務を経て、現在、荒木記念東京リバーサイド病院の産科部長を務める。日本産婦人科医会幹事、昭和大学産婦人科兼任講師、首都大学東京非常勤講師。

トキソプラズマ症とは? 妊婦が感染したときのリスク

意外に知られていない感染症のひとつが「トキソプラズマ症」です。その病原体の特徴と主な感染感性経路、妊婦さんが感染した時のリスクを説明します。

トキソプラズマ症ってどんな病気?

「トキソプラズマ症」は寄生虫であるトキソプラズマ原虫による感染症です。トキソプラズマは肉眼では見えない微生物で、世界中に分布し人を含むさまざまな哺乳類・鳥類に寄生します。

健康な人であれば感染しても症状は出ないか軽症ですみますが、免疫に異常がある場合はトキソプラズマにより生命を脅される危険もあります。また、抗体を持たない妊婦さんが初めて感染すると、流産・死産を引き起こしたり、お腹の赤ちゃんが先天性トキソプラズマ症を発症する可能性があります。

トキソプラズマの人への主な感染経路は、「感染している猫の糞」「ガーデニングなどの土いじり」「十分に加熱されていない肉などを食べること」の3つで、空気感染や人同士での接触感染はありません。

トキソプラズマはネコ科の動物の体内でのみ有性生殖するため、その卵(オーシスト)は猫の糞の中に含まれています。ですから、ペットで猫を飼っている場合、猫用トイレの掃除などをして手についたトキソプラズマが口から入ると感染するリスクは高くなります。

猫から糞と一緒に排出されたトキソプラズマの卵は土壌や水に混入し、そこから鳥や小動物、家畜、人に感染します。ガーデニングなどの土いじりでトキソプラズマに感染する可能性があるのはこのためです(土に触れる可能性があるという点で、いちご狩りも要注意といえます)。

また、猫の糞、それに汚染された土や水を介して感染した家畜などの肉にも、トキソプラズマはサナギのような状態で存在します(組織シスト)。

その肉を加熱が不十分な状態で口にすることでも人に感染するというわけです。また、殺菌されていない牛乳やそれにより作られたチーズにも注意が必要です(リステリアなどの細菌感染・食中毒を予防するためにも殺菌されていないものは避けましょう)。

なお、猫の中でも野良猫、特に子猫に注意が必要と言われています。すでに猫を飼っている家庭の場合は、猫用トイレの掃除は妊婦さん以外の人がする、猫用トイレは毎日掃除する、猫を外に出さない、生肉を与えない、妊娠中に新しい猫を飼い始めない、トイレ掃除含め猫の世話をするときは、使い捨て手袋やメガネ、マスクを装着し、作業後はよく手洗いすることが勧められています。

トキソプラズマ原虫のヒトへの感染経路 CDC/ Alexander J. da Silva, PhD; Melanie Moser 2002を元に改変

妊婦が感染すると何が問題?

日本の妊娠可能女性の多くは、トキソプラズマに感染したことがなく、抗体を持っていないといわれます。抗体を持たない妊婦さんがトキソプラズマに初めて感染すると、妊婦さんの血液から胎盤を通して胎児にも感染し、流産・死産を引き起こしたり、赤ちゃんに重い後遺症を残す「先天性トキソプラズマ症」を起こす可能性があります。

赤ちゃんの「先天性トキソプラズマ症」発症のリスクが高いのは、妊婦さんがその妊娠中にトキソプラズマに「初めて」感染した場合です。

妊娠中に初感染する可能性があるかどうかは、トキソプラズマ抗体の有無で調べることができます。

「トキソプラズマ抗体検査」は標準的な妊婦健診の検査項目に入っていませんが、希望すれば多くの医療機関で受けることができます。気になる妊婦さんはぜひ主治医に相談してみましょう。

もし妊娠前にトキソプラズマの検査をする機会があり、そこで抗体が陽性であれば、既にトキソプラズマに慢性感染しているため、先天性トキソプラズマ症を起こす危険はほとんどありません。一方、抗体が陰性の場合は妊娠中にトキソプラズマに感染しないよう、徹底した予防が必要になります。

トキソプラズマ症の症状は? 母体と赤ちゃんの症状の現れ方

胎内感染した時に赤ちゃんに現れ得る先天性トキソプラズマ症にはさまざまなケースがあります。

感染が疑われる母体の症状とは?

トキソプラズマの抗体を持たない妊婦さんが初めて感染すると、どんな症状が出るのでしょう。多くの場合は無症状ですが、なかにはリンパ節の腫れ、発熱、のどの痛み、目がかすんだり痛むなどの症状が現れることもあります。

トキソプラズマ症の診断は、寄生虫に対する抗体を検出する血液検査に基づいて行われます。

赤ちゃんに現れ得る先天性トキソプラズマ症

妊娠中、どの時期にトキソプラズマに感染したかによって、胎児への感染率と重症度は変わります。抗体を持たない妊婦さんが妊娠初期に初感染した場合、胎児への感染率は20%未満と低いものの、症状は重く現われる確率が高くなります[*1]。

一方、妊娠後期での感染では、胎児への感染率は80%に達しますが、その多くは無症状もしくは軽症ですみます[*2]。

胎内感染による先天性トキソプラズマ症の症状は、網脈絡膜炎による視力障害、精神遅滞、脳性まひなどさまざまです。

眼の奥にある網膜と脈絡膜に炎症を起こすのが網脈絡膜炎です。

水頭症や脳内石灰化のように、脳に症状が出るケースもあります。水頭症は脳内の随液(脳を外部の衝撃から保護したり、脳圧をコントロールする役割を持っています)の循環・吸収障害が起こって脳室が異常拡大します。

脳内石灰化は、脳内にカルシウム沈着(石灰化)が認められる病気で、歩行障害や不随意運動(本人の意思に関係なく体に異常な運動が起きること)、てんかん、頭痛などの症状の原因になります。

その他、先天性トキソプラズマ症として新生児に現れ得る症状として、皮膚の黄疸・発疹、貧血、リンパ節腫脹、肝機能障害、血小板の減少などがみられることもあります。出生時に問題がなくても、成長するにつれて症状が出てくる場合もあります。

妊娠中にトキソプラズマの胎内感染があった場合、誕生した赤ちゃんに先天性トキソプラズマ症が発症するケースは全体の約1割です[*3]。しかし、トキソプラズマの先天性感染に対して、感染を防ぐためのワクチンは存在しないため、何よりも妊娠中の感染予防が大切です。

まとめ

トキソプラズマ抗体検査が陰性だった場合、もしも妊娠中に感染すると赤ちゃんに先天性トキソプラズマ症が発症するリスクがあります。

先天性トキソプラズマ症の症状はさまざまで、それぞれの状況によって左右されます。

日本の妊娠可能女性の多くはトキソプラズマに対する抗体を持っていないとされるため、とにかく予防に努めることが大切です。

猫との関わり方をはじめ、日常の暮らしや食生活にも十分な配慮が求められます。

(萩原明子/毎日新聞出版MMJ編集部)

参考元

[*1]『チャイルドヘルス』(診断と治療社) 2017年11月号 p34_35(トキソプラズマ症)

[*2]『チャイルドヘルス』(診断と治療社) 2017年11月号 p34-35(トキソプラズマ症 )

[*3]『病気がみえるvol.10産科 第3版』(メディックメディア) p219(母子感染症)

※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます