産後、わけもなくイライラすることが増えると「これがマタニティブルーズか」と納得するママも多いかもしれません。はたして原因はそれだけでしょうか? どのような対処をすると穏やかになれるでしょうか? 産婦人科医に聞いてまとめます。

イライラするのはワタシだけ?

産後、ちょっとした出来事でイライラすることや、ふとしたきっかけで強い不安に襲われ、そのどうしようもなさにイライラするなどは、多くのママにみられることのようです。

産後に情緒が不安定になるには、いくつかの理由があり、特別に珍しいことではありません。

理由に合った対処をして、ホッと一息つくために、イライラの理由を理解することから始めましょう。

まず、よく知られている「マタニティブルーズ」からおさらいを。自分自身の精神状態や体調などと照らし合わせてみていきましょう。

産後すぐなら「マタニティブルーズ」の可能性大

マタニティブルーズとは、産後数日から2週間ぐらいまでの間に出る一過性の軽いうつ状態で、症状が出る期間は3〜10日程度です[*1]。

原因はホルモンの急激な低下や分娩の疲労、生活環境・リズムの変化などが複合的に影響して起きると考えられています。

つまり、産後ママ誰でも起こる可能性がある「生理的な症状」で、日本の発症頻度は30%とされ[*2]、基本的には治療の必要はないとされています。

精神的な症状(涙もろい、イライラ<不安感、焦燥感、緊張感>、抑うつ気分、集中力低下など)と共に、身体的症状(疲れやすい、食欲不振、頭痛など)が出ることも多くあり、忙しくて眠れないのではなく、寝ようとしても眠れない「不眠」を訴える人も少なくありません。

松峯先生:
「マタニティブルーズは産後すぐに症状が出て、短期間で症状が完全に消えます。
なので、産後すぐの軽い心の不調は『原因はマタニティブルーズ』と割り切って、つらくなり過ぎないようにちょっと工夫して、症状が消えるのを待ちましょう。“通り雨をやり過ごす”ぐらいの気持ちでいられればいいですね。雨が降るのは誰のせいでもありませんから。コツは『無理しない』『人に話す』『自分の時間を確保する』です」

ただし、妊娠前や妊娠中にパニック障害やうつ病など精神疾患の診断や治療を受けていた場合は、マタニティブルーズの症状だけではない可能性もあるので、特別に注意が必要です。

精神疾患の既往歴がある場合や、症状が長引く場合は、早めに専門的なケアや医療につながりましょう。

ケアや治療が必要なタイミングは?

マタニティブルーズからうつ病などに悪化した可能性を考える目安は「症状が10日以上続いている場合」です(「産後うつ病」の詳細は後述)。

松峯先生:
「生理的なマタニティブルーズの症状と病気の症状の境界はあいまいで、見極めはとても難しいものです。
何らかの理由でママが希望する分娩スタイルが選べなかったり、周囲から十分な援助が受けられない場合など、産前からママが不安や憂うつを募らせていたときは特に注意が必要です。
一例をあげれば「立ち会い分娩」ではマタニティブルーズ発症率が低下するという報告もあり[*3]、ママのメンタルヘルスは希望の分娩スタイルや周囲のサポートとも関係すると考えることができます。
うつ病の場合、診断や治療が遅れないように、早めの受診が肝心ですから、どこに相談したらいいか分からないときは、産科の主治医に相談を。状態に応じて必要なケアや治療につなげてくれます」

日常のイライラ増悪のワケは?

マタニティブルーズを乗り越え、体調にも特に問題はないもののイライラだけはおさまらない。そんなことも珍しくないようです。そんなイライラとはどのように向き合うとよいのでしょうか。

イライラの背景に何がある?

体の回復過程にある産褥期(出産後約6〜8週間)だけでなく、その後もイライラが続いていると、不安や自己嫌悪に襲われたり、疲れたりして、なんとかしたいと思うかもしれません。

松峯先生は「2つの“個人差”を受け容れて、心を軽くして」とアドバイスします。

松峯先生:
「イライラ(不安感、焦燥感、緊張感)が続いてしまう場合、自分に問いかけてみてほしいのです。 完璧を求め過ぎていないか、人と比べていないか。
たとえば社会や仕事で活躍し、何事も要領よくこなす優秀なママは、産後の体調回復や育児も思い通り、完璧にこなすことをめざし、思うようにいかないことをストレスにしてしまいがちです。
1ヶ月健診に行ってほかの赤ちゃんを見ると、自分の子は小さい気がするかもしれません。3ヶ月健診では首が据っている子や寝返りを始めた子を見て、自分の子はまだだと焦りが……。しかし、赤ちゃんはそれぞれそのペースで発達していくので、比べるようなことではないのです。
ママも赤ちゃんもみんな違い、個人差があること、思い通りにいかないことの連続の中に“思いがけない喜び”があることを忘れないでください。
そして、お腹の中では全てママ経由でしか生きられなかった赤ちゃんも、今では自分で呼吸し、母乳やミルクを飲んでいます。これからどんどん成長していく上で、親御さんにはその子のペースでの発達を尊重する気持ちをもって接してあげてほしいと思います。
つい完璧を求めたり、比較しそうになったら、次の5つを試すとリラックスできるかもしれません。自分がホッと和む時間を意識的につくりましょう」

・軽い柔軟体操などで心身の緊張をほぐす
・産後ケアを利用するなどして束の間、育児から離れる
・一時的に子育て関連情報を遮断する
・好きなお茶やお菓子をいただき、一息つく
・昼寝(早めに就寝)する

ガルガル期って本当にあるの?

産後のイライラが強く、周囲に対して攻撃的になる時期について、医学用語ではないですが「ガルガル期」や「産後ガルガル期」などという言葉が知られています。

そして、授乳期に大量に分泌されるホルモン「オキシトシン」は“愛情ホルモン”などとも呼ばれ、脳に作用して身近な人への愛情を強めるはたらきがあるとされますが、同時に愛する者を守るため、他者への攻撃性を強める作用もあるなどと言われ、それが“ガルガル”の原因とする説もあります。

松峯先生:
「動物実験ではそのようなオキシトシンの作用が確認されていて、動物の本能としては理解できますが、理性的なヒトでも同じかどうかはまだ詳しくは分かりません。
確かに、イライラは家族関係など身近で爆発しやすく、産後は人間関係のトラブルが増える時期があるかもしれませんが、それも考えようによっては『許される可能性が高い対象(家族間など)を選んで発散している』という理性的な判断・行動とみることもできますね。
ただ、一般的に身近な人間関係も攻撃の度が過ぎれば壊れてしまいますし、身近なほどこじれると厄介などとも言います。
情緒が不安定なときは自分を客観視するのは難しいので、先に述べた5つのリラックス法などでまず落ち着きましょう。
そして産後に限ったことではありませんが、身近な人にイライラをただぶつけるのではなく、つらいこと、いやなことを具体的に伝え、サポートを頼み、感謝する『風通しのいい関係』を保って、自分がつらくならないようにしていただきたいと思います」

産後1ヶ月以内に急に起こる「産後うつ病」とは?

最後に、産後、急激に精神的に不安定になり、その状態が続き、不安や不眠、食欲不振なども伴う「産褥期精神病(さんじょくきせいしんびょう)」について紹介します。

病気について知っていることが大切!

産褥期精神病は産後ママの約5〜10%にみられ [*2]、決して珍しい病気ではありません。

産褥期精神病のひとつで、最も多くみられるのが「産後うつ病」。産褥期の精神病の約半数が、産後うつ病とされています。

適切な治療やケアを受けることで大多数が数ヶ月から1年で症状が改善する病気ですから、なるべく軽症のうちの「早期診断・治療」が大切です。

イライラに対して自発的・積極的に対処法を見つけようしているママが心配しすぎることはないと考えられますが、うつ病は特別な人がかかる病気ではなく、誰でもかかる可能性がある病気で、心と体、そして生活に劇的な変化がある産後は注意が必要な時期だということを心に留めておきましょう。

松峯先生:
「マタニティブルーズと同様に涙もろい、不安感、焦燥感、抑うつ気分などがあります。
特に『自分を責める気持ちが強い』『死んでしまいたい』『赤ちゃんに愛情を感じない』といった精神状態のときは、すぐに産科の主治医に連絡し、指示をもらう必要があります。患者さんの状態によって専門の医療につないだり、連携したりして治療を支援します。
とはいえ、症状が重い場合は自分自身で病気に気づくのは難しいこともあるので、産後ママのメンタルヘルスについて周囲の理解とサポートが必要不可欠。それも、予防や、軽症のうちに気づくには、前もってメンタルヘルスについて基本的な知識をもっていることが大切になります。
多くの産科の医療者がパパやご家族の理解を促すように努め、伝える機会をつくっていると思いますので、ぜひ関心を寄せていただきたいです」

家族の理解、どうやって深める?

パパなど身近な人に産後ママのメンタルヘルスについて知る機会をもってもらいたいところですが、主治医や助産師とコミュニケーションをとる機会があまりない場合もあるでしょう。そこでママからの上手なきっかけづくりが大切だと松峯先生は話しました。

松峯先生:
「いま“イライラをなんとかしたい!”と思ってこの記事を読んでいるママは、記事をパパや家族にも読んでもらうといいかもしれません。
特にパパ(男性)はロジックやデータから理解を深める傾向があると感じます。マタニティブルーズや産後うつ病の発症率などを知ると、産後ママのメンタルヘルスの大切さが理解しやすいかもしれません。
また、その機会に自分自身のメンタルの状態についても、話してみませんか。逆にパパやご家族が赤ちゃんを迎えた生活で感じていることも聞いてみましょう。パパにも、パパになったプレッシャーなど複雑な気持ちがあるかもしれません。
ぜひ対話の時間をもってみましょう。互いのメンタルを理解し合い、支え合いながら、楽しく子育てしていただきたいと思います」

まとめ

マタニティブルーズや産後うつ病などについて知ると、産後は女性がメンタルヘルスに特に気をつける時期と考えられそうです。体の回復過程でもあるので、なるべく休養(睡眠)をとり、体をいたわりながら、心の緊張や不安を解きほぐすセルフケアも工夫してみましょう。

産後の一過性の症状は生理的なものですが、その時期を過ぎてもイライラが高じ、生活や睡眠に影響が出ていると思ったら、1人で悩まず、信頼できる身近な人や主治医に相談してください。

(文・構成:下平貴子、監修:松峯美貴先生)

※画像はイメージです

参考文献
[*1] 日本産婦人科医会 女性の健康Q&A「マタニティブルーズについて教えてください」
https://www.jaog.or.jp/qa/confinement/jyosei200226/
[*2] 日本産科婦人科学会「産婦人科研修の必修知識」2016-2018,B,12,6)マタニティブルーズ,産褥精神病
「病気がみえるvol.10 産科」(メディックメディア),p373
[*3]日本産科婦人科学会「産婦人科研修の必修知識」2016-2018,B,12,6)マタニティブルーズ,産褥精神病

この記事の監修ドクター 松峯美貴先生
医学博士、東峯婦人クリニック副院長、東峯ラウンジクリニック副所長、産前産後ケアセンター東峯サライ副所長(いずれも東京都江東区)妊娠・出産など女性ならではのライフイベントを素敵にこなしながら、社会の一員として悠々と活躍する女性のお手伝いをします! どんな悩みも気軽に聞ける、身近な外来をめざしています。
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