藤川千愛が8月22日、渋谷TSUTAYA O-EASTで有観客ワンマンライブを開催。彼女がこれまでリリースした3枚のアルバムを順に辿る全21曲がパフォーマンスされた。公演のアンコールで藤川千愛は新プロジェクト”PhatSlimNevaeh”の始動を発表。「藤川千愛」という名前を捨て、「ロク」という名で新たな音楽活動を行っていくことを宣言した。彼女の活動におけるターニングポイントとなった本公演の模様をレポートする。

会場のBGMが落ちると、SEもなく会場中央に現れたこの日の藤川。会場からの拍手が生生しくひびく中、「勝手にひとりでドキドキすんなよ」の一節をアカペラで歌い上げ、この夜のライブがスタートする。1stアルバムに収録されたミディアムバラードをスタンドマイクに寄りかかって歌う彼女。観客を煽るようなパフォーマンスもなく、淡々としたともいえるステージングだが、そんな彼女の内側には自らの過去を捨てるほどの覚悟が隠されていることをこの後、オーディエンスは知ることになる。

スタンドマイクで「ライカ」「ゴミの日」を続けてパフォーマンスし、冒頭3曲を終えた藤川はこの日最初の短いMCへ。発声を禁じられた観客のかわりにサンプラーで歓声を鳴らし、緊急事態宣言下となったこの夜の状況にユーモアを交えながら「早く声を出せる世界になったらいいね」と語る藤川。トレードマークとなったギブソン・レスポールを抱えると「葛藤」をパフォーマンス。その後も自伝的な歌詞が印象的なフォークロック「夢なんかじゃ飯は喰えないと誰かのせいにして」、観客とのタオル回しが恒例となる「hane」とデビュー当時からのライブの定番曲を重ねてフロアとの一体感を高める藤川。

藤川千愛、ワンマンライブで新たなロックプロジェクトの始動を宣言

ライブ中盤を迎え、「ここまで気づいたことありますか」と客席に問いかけ、序盤のセットリストがすべて1stアルバム「ライカ」からの演奏であったことを明かす藤川。「今日はこんな感じで藤川千愛を一から辿っていこうかなと思っています。あまりやらない曲、懐かしい曲、楽しんでいって」と語り、ライブは2ndアルバム『愛はヘッドフォンから』のパートへ。ハンドマイクで歌われるキャッチーな「田中が彼氏だったなら」、アコギを抱えて歌われるフォークロック「私にもそんな兄貴が」、続く「東京」ではバンドメンバーが要所でアドリブを加えるライブアレンジで骨太なグルーヴを響かせた。

「このアルバムは発売日の前日に一回目の緊急事態宣言が発令されて。予定されていたライブも中止になってしまって、私の中ではかわいそうな存在。だからこそ大好きなアルバム」と打ち明けると、引き続き2ndアルバムからTVアニメ『デジモンアドベンチャー:』エンディングテーマとなった「悔しさは種」へ。ラウドロック×ジャズという藤川らしいミクスチャーナンバー「神頼み」を挟み、ロックアンセム的な「愛はヘッドフォンから」では藤川がギターソロも披露するなど熱量の高いプレイを繰り広げていく。

ライブ終盤を迎え、セットリストは3rdアルバム『HiKiKoMoRi』と音源未発表楽曲を合わせた彼女の最新曲のパートへ。「このアルバムは文字通り、コロナ禍で引きこもりながら制作したアルバム」と語り、当時の心境を反映したかのダークポップ「Nightmare」をパフォーマンス。その後も比嘉愛未主演ドラマ『にぶんのいち夫婦』のオープニングテーマ「片っぽのピアス」、アコースティックで音源未発表曲「手のひらの中で」といった幅のある楽曲を巧みに歌い上げていく。

藤川千愛、ワンマンライブで新たなロックプロジェクトの始動を宣言

本編が残り3曲となったところで藤川は一層のボルテージを高めて「四畳半戦争」をパーフォーマンス。藤川も「最も好きな曲」と語る同曲では、バンドも初期衝動を感じさせる性急なアプローチでドライブ。その熱量を残したまま、グッドメロディとグルーヴが一体となった「そんなんばかりループ」「誰も知らない」を歌い繋ぎ、O-EASTをピースフルな空気で包んで藤川は本編のステージを後にした。

アンコール、Tシャツ姿で再びステージに現れた藤川がパフォーマンスしたのはYouTube再生回数860万回超え、彼女の楽曲の中でも最も聴かれた楽曲の1つである「あたしが隣にいるうちに」。大サビではアカペラも交えながらこの曲を丁寧に歌い上げ、オーディエンスとの記念撮影が行った後で、藤川は告白と宣言を行った。彼女が語った言葉を書き起こす。

「単刀直入にお伝えすると、藤川千愛を少しお休みしたいと思っています。とはいっても音楽活動を辞めるわけではなくて、藤川千愛という名前を捨てて新しいプロジェクトをスタートします。理由はまっさらな状態でゼロからロックがしたいからです。

自分の記憶から封印していたところがあるので、一度だけ話をさせていただきます。でも今後はこの話はしません。最初で最後です。

私にはアイドルをやっていたという過去があります。ずっと言えなかったんですけど、正直に言うとその過去が本当に嫌いです。誤解しないでほしいのは、アイドルのファンを否定しているわけではないし、アイドル全般を否定しているわけでもありません。アイドルをしていた自分の過去が嫌いということです。アイドルを辞めたのは音楽を追求したいという純粋な気持ちと、とにかく、まねきケチャというグループから離れたいという気持ちがあったからです。メンバーとは仕事への向き合い方から違ったし、互いに理解し合えませんでした。だから彼女たちにとって私はきっと邪魔な存在だったろうし、私も彼女たちと距離を取りたいと考えました。グループとして3年、辞めて3年。いくら距離を置いて、いくら時間がたっても、いまだにそこと紐づけられることを私は残念に思っています。

波風を立てないようにアイドルを辞めた理由を正直に語らなかったこと、はっきりと嫌いなものを嫌いだと言わなかったこと。こういうことが誤解を生んでしまったり、逆に自分を苦しめることになったと思い、今日は最初で最後、正直な気持ちを伝えています。

精神的にも、時間的にも、その後の影響を含めて、アイドルをやっていたことを私は——、ごめんなさい、すごく後悔しています。

こんなことを言うと「ソロ活動ができるのはアイドル時代があるからだ、少しは感謝したら」と言う人もいます。それが事実なのであれば、この先どんな音楽をやろうと、藤川千愛でいる限りそこに紐づけられて生きていかなければいけないのかと、3年間苦しみました。人によっては、つまらないどうでもいいことに聞こえるかもしれないのですけど、私には耐えがたいつながりで。だったら潔く名前を捨ててでも、ゼロからスタートしたいと思って、藤川千愛とは全く別軸でこれからは活動させていただきます。

ここに集まってくれているみんなには、私の楽曲から今日話したようなことを察してくれて、それでもずっと応援してくれていたみんなには、感謝しかありません。ありがとうございます。

私は藤川千愛という名前を捨てて、新しい道を進もうと思っています。これが今日伝えたかったことです。

新しいプロジェクトはPhatSlimNevaehというロックプロジェクトです。そこで私はギターボーカルの“ロク”として活動していきます。だからもう、そこでは藤川千愛とは呼ばないでいただきたいと思います。それでも応援してくれる方がいたらよろしくお願いします。」

藤川千愛、ワンマンライブで新たなロックプロジェクトの始動を宣言

嗚咽も交えた10分にも及ぶ長い告白のあと、藤川はPhatSLimNevaehの1stステージとして10月17日のTSUTAYA O-Crest公演を発表。想いを出し切った藤川はバックバンドのメンバー紹介を兼ねたジャムセッションから雪崩れ込むように、敬愛するクリープハイプの「オレンジ」のカバーを披露。そしてアンコール3曲目、“藤川千愛”の休止を前にしたラストソングとなったのは1stアルバム収録ラウドロック「嗚呼嗚呼嗚呼」。これまで幾度となくライブで演奏されてきたこの楽曲だが、藤川とバンドはこれまで彼女たちが行ってきたライブの音量を遥かに凌駕する轟音でプレイ。ダブルアンコールを求める手拍子を背に、この夜のステージを降りた。名前を捨ててロクとなった彼女が次にどんなサウンドを聴かせるのか。感染対策のための規制退場でO-EASTを後にする私たちオーディエンスの耳には、アンコール最後の轟音が耳鳴りとなって残響していた。

藤川千愛、ワンマンライブで新たなロックプロジェクトの始動を宣言