優勝かと思ったら振り逃げ成立。長崎大会決勝で大事件未遂……! 意外と難しい「振り逃げ」のルール
 7月23日、甲子園を目指す長崎大会の決勝。波佐見が清峰を4対2で下し、16年ぶり3度目の夏の甲子園行きを決めた。2対2で迎えた延長10回表、6番・川口侑宏が劇的な勝ち越し2ランを放ち、試合を決めたが、その裏にはあわやのシーンもあった。

 10回裏2死一塁、清峰の攻撃。カウント2ストライク0ボールから波佐見バッテリーは低めの球で打者を三振に斬った。キャッチャーが駆け出し、マウンド上に歓喜の輪ができたが、実は投球がワンバウンド。清峰側はこれを見逃さず、歓喜のスキに振り逃げを成立させた。

 一転、2死一、二塁で試合再開。続く打者も同じようなボールで三振に打ち取られ、今度は波佐見の捕手がしっかり一塁に送球して、あらためてゲームセット。結果は変わらなかったが、ここで清峰に逆転サヨナラホームランでも飛び出そうものなら、球史に残る大チョンボになっていた……。

◎審判は「スイング」としか言えない

 振り逃げといえば、2007年夏の神奈川大会準決勝、東海大相模対横浜で起きた振り逃げ3ランなどが有名だが、同じような事態が起きたあとには必ず守備側が審判のジェスチャーについて抗議している。

 アウトのジェスチャーなのか、スイングのジェスチャーなのかが争点だが、もちろん審判は「スイング」「3ストライク」のジェスチャーをしている。今回のケースも捕球後にキャッチャーが審判に確認していたが、腕を回してスイングを示していた。

 「正規の捕球」であれば、3ストライク=アウトであるが、ワンバウンドまたはそれと疑わしい捕球の場合は審判は「スイング」としか言えない。公平の原則から「タッチしなさい」「一塁に投げなさい」とは助言できない。同時に、反対に「振り逃げできるよ」とも助言できないのだ。

 高校野球の歴戦のツワモノと言えど、大歓声と極度の緊張のなかで審判のジェスチャーを見極めることは難しい。さらには走塁の意思の解釈が「ダートサークルを出る」ことが基準になっているから、ことさら難しい。

 振り逃げが事件になるときは決まって、打者は呆然としており、ベンチからの「走れ!」の声で駆け出す。今回もこのタイムラグが歓喜の輪と振り逃げを平行させた。

 これを防ぐならば現行ルール上、キャッチャーが「疑わしい」と感じたら打者にタッチ、または一塁に送球し、念には念を入れてアウトを確実にするしかない。

◎振り逃げができるシーンは?

 振り逃げできるシーンとはどういった場面だろう。3ストライク目を捕球できず、またはワンバウンドになれば、即、振り逃げ可能かというとそうではない。

 0アウト、1アウトであれば、一塁が空いていることが条件となる。これは故意落球による併殺を防ぐため。たとえば「1アウト、走者一塁で振り逃げができる」となれば、守備側が3ストライク目を故意に落球すれば、「二塁→一塁」と送球し、容易にダブルプレーが可能になってしまう。

 そのため、0アウト、1アウトでは一塁に走者がいないことが振り逃げの条件となるのだが、2アウトでは併殺がないため、縛りはない。2死満塁でも振り逃げはあり得る。

 野球経験者には釈迦に説法かもしれないが、意外と未経験者は知らないルールの落とし穴だ。

 さらに怖いのは「振り逃げ事件」が起こるのは守備側が攻守交代、またはゲームセットだと思ってしまう「2アウト」の場面ということ。「野球は2アウトから」とよく言うが、「2アウト3ストライクから」何かが起こることだってある。

 今回、波佐見は無事にピンチを切り抜けたが、一寸先は闇だった。甲子園の大舞台で「振り逃げ事件」が起こるのも時間の問題である。


文=落合初春(おちあい・もとはる)