《野球太郎ストーリーズ》ソフトバンク2015年ドラフト1位、高橋純平。球界席巻を期待される高校生ナンバーワン右腕(2)
分厚い選手層を誇るソフトバンクが将来のエースの座を託すべく、今ドラフトの目玉を1位指名。「投球」のすべてに卓越した美しき快腕を3年間見続けた岐阜在住のライターが、平坦ではなかった道程を振り返る。

前回、「将来性も即戦力度もドラ1級」

◎一気に本格化した2年秋

 2年秋、涼しくなっていよいよ高橋が本格化した。筆者が見た県大会準決勝でも当然のように快投。「前週と比べてまとまっていて、球を低目に集められた」と課題の制球面でも手応えをつかんだ。さらに「間(ま)がうまく使える」とセットポジションからの投球を実践。「ストレートのスピードにはこだわっていない。打たせて取れば球数も減る」と大人の投球を展開した。また夏前に習得したスプリットは、「お守りのようなもの。もう一球種あると相手に意識させられればそれでいい」と封印する余裕さえ見せた。

 センバツ切符をかけた東海大会でも33投球回で自責点1と敵を圧倒した。2回戦の誉戦では3被安打で完封。「今週はカーブに助けられた。カーブは自分の調子をつくり出す球なんです」と、投球の拠り所を確立した。また得点圏に走者を背負ってからギアを上げるメリハリも披露。準決勝のいなべ総合学園戦では6回表のピンチで151キロ、さらに土壇場の9回表に152キロを計測した。

 高橋の進化をスカウトも敏感に感じ取った。「2年春に比べてずいぶん腰回りが太くなった」と藤本茂喜スカウト(巨人)が言うように、夏以降に相当量を走り込んだ。転機は主将就任。小川信和監督が「高橋にとって、言い訳がきく状況であり、一方で言い訳できない環境が主将という立場でした。たとえ自分が投手としてふがいなくても、チームが勝てばそれでいい。ただ、チームで声を発し、公言してのぞむ以上、言い訳できないのも主将なわけです」と解説すれば、高橋本人も「投手と野手は普段の練習が別々なので、その分プレーで引っ張りたい。そのためには練習を」と自覚が増した。

 さらに、某セ球団スカウトが「秋から誰か優秀なコーチでもついたのか」と推測したとおり、太田郁夫氏(県岐阜商OBで元監督)が投手コーチに就任したのも素質開花の大きな要因。名伯楽がタブレット端末で高橋の投球を録画して、それを見せながら指導したり、走り込みを主体とするトレーニングメニューを組んだ結果、フォームに安定感が出た。

 なお、筆者が初めて高橋に単独インタビューしたのが2年冬。普段の囲み取材でも、喋りや振る舞いが大人びていたが、その印象どおりだった。膝を突き合わせたのは初めてだったが、高橋は「(囲み取材などで)よく試合後に…」と当方にも見覚えがあったようで、視野の広さに驚いた。

◎注目舞台で快速球&白星

 高橋が3年生になり、スカウト陣の動きも騒がしくなった。

 対外試合“第一投”は3月8日。これに中日3人、楽天2人、阪神、日本ハム、オリックス、ソフトバンクが集結した。センバツに向けて調整途上であり、スカウト陣は県岐阜商サイドから「投げないと思ってきてください」と告げられていたが、それでも高橋詣では外せなかった。期待に応えて1イニングだけ登板すると、5球目に球
場スピードガンで152キロを計測。さらにセンバツ初戦でも2球目に150キロを出し、観衆をどよめかせた。クレバーな投球で甲子園でも2勝を挙げ全国区に。ラストイヤーの幕開けで九分九厘、ドラフト1位が約束された。

 センバツ後も、5月5日の東邦戦(練習試合)に5球団のスカウトが並んだ。新たな魅力を探すというより、安定の純平クオリティに浸りにきている様子だった。

◎ラストサマーの狂騒曲

 ところが、夏本番を前に徐々に雲行きが怪しくなる。まずは右手指のマメの状態悪化だ。5月16日の岐阜高戦(練習試合)こそスカウトの姿はなかったが(※翌日の同・日大三島戦に9球団17人)、球が浮きがちで、腕の振りもアーム気味に戻ったように見えた。さらに6月27日の愛工大名電戦(同)では、12球団のスカウトが集まるとみられていたが登板回避。スカウト間で「マメの状態が悪いらしい」という噂が流れた。実際にはマメはもう完治していて、調整によるスライドだったと本人は後に明かしたが、スカウト陣にクエスチョンマークが漂い始めた。

 この不穏が形になってしまったのが、1週間後の夏の大会初戦だった。今日こそはと息巻いたスカウト陣が目にしたのは、登板せず左足をひきずるように歩く背番号1の異変。7月2日に負った左足大腿裏肉離れが明るみに出た。

 高橋のケガはスカウト陣も翻弄した。投げる可能性もゼロではなかったから、スカウトとしては球場に足を運ばざるを得ない。次週の関商工戦には、今夏最多の25人が集まったが、先発メンバーに高橋の名前がないと分かるや、試合開始を待たずに他球場へ移動するスカウトの姿もあった。4回戦では球場の内野席が狭くすぐに満員になったので、スカウト陣は定位置のネット裏に座れず、内野芝生エリアや外野席での観戦を余儀なくされた。それにより記者陣がカウントするスカウト視察人数の把握も一苦労。高校野球ファンも今か今かと登板を待ちわびる。狂騒曲が続いた。

 結局、小川監督の「大人(監督)の独りよがりで、彼の将来を潰すわけにはいかない」という英断もあり、県岐阜商が今夏戦った5試合中、高橋が投げたのは中京戦の打者7人のみにとどまった。それでも144キロをマークしたのは潜在能力の高さゆえだ。

 そして、実は筆者が最も目を見張ったのは、夏の大会を終えてひと段落した8月半ばに、ブルペンで見た「立ち投げ」である。その恐ろしいほどのボールの威力と軌道は、高橋が今後類をみないほどの投手になることを予感させた。最後にぜひ言及しておきたい。

(※本稿は2015年11月発売『野球太郎No.017 2015ドラフト総決算&2016大展望号』に掲載された「32選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・尾関雄一朗氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)