時代を越えた今も語り継がれる伝説の漫画雑誌「ガロ」。1964年の創刊以来、つげ義春、蛭子能収、みうらじゅん、ねこぢるなどの個性際立つ漫画家たちを次々と輩出する中で、ひときわ奇妙で狂気的な作品を発表していたのが、川崎ゆきおだ。“大冒険シリーズ活劇ロマン”と題された代表作『猟奇王』をはじめ、類を見ない作品の数々は、狂ったようなデッサンやストーリーが今もコアなファンを生み出し続けている。今回は、その謎めいた魅力を探るため、画業50年を越えた川崎をメールで取材した。果たして、川崎はこれまでの漫画家人生をどのように捉えているのか。

 1971年に「ガロ」誌上でのデビューを経て、2000年代頃まで精力的に作品を発表してきた川崎だが、それ以降はどのような活動を行っていたのか。「漫画家としての活動はほとんど殆どやっていません。漫画家と言われるとちょっと恥ずかしいのですが、一応まだ漫画家のつもりです。イラストは描いてます」。漫画の方は皆無のようだが、川崎が運営するホームページ「川崎ゆきおサイト」を覗いていると、その内容の濃さに驚いてしまう。小説あり、日記あり、チャットあり、ゲームありと、その活動領域の広さは尋常ではない。

 また、気になるのがファンを魅了する独自の世界観について。おそらく、担当編集者は一切口出しできないと思うのだが……「殆どの作品は編集者からのアドバストとかはありませんでした。勝手に書いていました。一人の頭で考える方が分かりやすいです。また、指導しても無駄だと思われていたのでしょう。少しだけメジャーな商業誌だと、色々と言ってきたようですが、その通り、素直に聞きました。仕事が終われば、元の自己流に戻りますが」。流れされるままに任せる。その考え方が川崎作品に通じる、ダウナー系の雰囲気を象徴しているようだ。

 30年以上、ライフワークのように書き継がれ、代表作のひとつとして挙げられる作品『猟奇王』。相当、力を入れて描かれた作品だと思うのだが、川崎自身は「冗談で書きました」という意外な返答。「『猟奇王』は一作で終わる話で、最初から終わっているような漫画です。それ以上、展開のないような。先がないような。それで、その先の闇のようなものに突っ込んだような感じですが、妙な穴に落ち込んだようで、何作も書きました。『猟奇王』は冗談です。だから書いているときは、この作品が一番楽しく書けました。本気で書いていません」と話す。

 では、いったいどの作品に最も思いれがあるのだろうか。そこで、挙げてくれたのが、つげ義春の『ねじ式』を思わせるような現実と異世界が交差する作品『夢伝説』だ。「一番気に入っているのは『夢伝説』という長編です。単行本一冊分を書き下ろしました。これは、子供の頃から思っていたことを漫画にしたかったのです。子供がある日、突然大人になってしまったり、怪人を追いかける話です。子供の持つ妙な世界観というか、子供が想像している大人の世界のような感じでしょうか。今もその違和感がありますが」。

 最後に、御年70をこえ、今後創作したいテーマや人生としての目標について質問したところ、川崎らしい回答をしてくれた。「いきなり、大ネタですねえ。時間を掛けて考えないと、答えられません。創作という言い方は臭いですねえ。恥ずかしい言葉です。創作。そんな大層なことではないと思います。やりたいことなら、もうやっていますし、テーマなんか、考えたり決めなくても滲み出てくるものだと思います。人生というのはやはり流れで、いつの間にか出来上がってしまったストーリーです。その続きをやるだけです。人生について語り出すと、これはもう終わった人になってしまうのかもしれませんよ。生きている最中、途中、これが人生でしょう」。漫画家としての活動は休止しているが、メールで回答してくださった言葉の端々には、異才らしい独自の発想が見て取れる。その発想を結集させ『猟奇王』をしのぐ代表作を発表してくれる日も、そう遠くはないかもしれない。

(よろず〜ニュース特約・橋本未来)