ロシアのウクライナ侵攻を受けてハリウッド映画が相次いでロシアでの劇場上映を中止しています。しかしながら、ロシアでも映画人達が迫害を受けており、ウクライナ人で同国を代表するプロデューサー、アレクサンドル・ロドニャンスキーは、ゼレンスキー大統領と共に当局から“ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)”に認定され、過去の全プロデュース作品の公開禁止処分を受けています。

 そのプロデューサー作品の一つであるロシア映画『チェルノブイリ1986』が5月6日に日本公開することが決定。本作は、1986年に世界を震撼させた当時ソビエト連邦だったウクライナのプリピャチにあるチェルノブイリ原子力発電所の爆発事故を題材にしたヒューマンドラマになっています。

  物語の主人公は消防士であり、破天荒な彼が偶然昔の恋人と再会したことから、やがて自分の血を分けた息子がいることに気付きます。葛藤した挙句、愛する人と新たな人生を歩もうとした矢先、チェルノブイリ原子力発電所で突如、爆発事故が発生。彼は消火活動へと向かうのですが、目にしたのは放射性の火傷を追って次々と倒れていく仲間の姿だったのです。

 近年ではHBOドラマ「チェルノブイリ」が制作され、事故の壮絶さや想像を遥かに超える世界的危機を緊張感途切れない映像で表現し、エミー賞10部門、ゴールデン・グローブ賞2部門に輝きました。一方、本作は、もっと登場人物に感情移入しやすいように家族を持つことへの勇気と愛する者を救おうとする信念の2本柱で脚本を構成。よりドラマティックにすることで多くの世代にアプローチ出来るエンターテインメント作品として制作されています。しかしながら、このテーマがドキュメンタリーも含め、何度も映像化される理由の一つに、世界を震撼させた事故を風化させてはいけないことはもちろん、やはり原発の安全性について考えるきっかけを与えたいと多くの製作陣が願っているのではないでしょうか?

  『チェルノブイリ1986』では、被曝し衰弱した我が子を目にし、自己犠牲と引き換えに上官に嘆願する主人公の姿が映し出されます。迫力の映像と共に、災害や戦争に巻き込まれるのは大人だけではなく、幼い子ども達であると観客に突きつけてくる本作。実際に、主演、監督、製作を努めたロシア人俳優ダニーラ・コズロフスキーは、インスタグラムで戦争反対を訴えています。更に本作では、日本の興行で得た収益の一部をユニセフなどウクライナの方への人道支援活動を行う団体に寄付すると伝えています。ロシアとウクライナの映画人が平和を願い生み出した作品を観ることで、戦火に苦しむ誰かの命を救う手助けを私たちもできるのです。

(映画コメンテイター・伊藤さとり)