フィリピンにアジア初の「エクソシスト養成センター」が設置されるという。その名の通り、大ヒット映画「エクソシスト」(ウィリアム・フリードキン監督、日本公開1974年)にも登場する「悪魔払い」の養成機関のようだが、この時代にそうした施設ができる背景には何があるのだろうか。ジャーナリストの深月ユリア氏が専門家の見解を聞き、解説した。

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 英紙「デイリースター」によると、フィリピンのマニラでアジア初となる「エクソシスト養成センター」を建設中だという。

 映画でもおなじみの「エクソシスト」とは、いうまでもなく、悪魔に憑(つ)かれた人・生き物・物体から悪霊を追い払う人々で、ギリシャ語の「追い払う」という言葉「Exorkizein」から由来している。

 報道によると、マニラの 「エクソシスト養成センター」にはフィリピン・カトリック・エクソシスト協会(PACE)の本部や、「超常現象委員会」なる支部も置かれる予定とのこと。なぜ、この科学が進歩した世において、コロナやウクライナ戦争で不況なのに、わざわざ「エクソシスト養成センター」を建設するのか、疑問もあるだろう。

 国連NGOのUPFの世界の宗教指導者が集まる会議で幾度も日本の仏教代表として参加し、宗教学に詳しい光寿院住職の酒生文弥氏に取材したところ、「コロナやウクライナ戦争のなか、心ならずも悪に手を染めてしまう人やストレスで心身に不調をきたす人が増えていることが背景にあります。光と闇の闘争を説くゾロアスター教の影響を受けて成立した旧約聖書では、堕天使ルシファーを『超越的』な悪魔として超越的な神と対峙(たいじ)させます。ユダヤ・キリスト・イスラム教という超越的一神教は、強烈な『二元論』であり、キリストが克服を試みた『目には目を』的な対立・闘争をあおる面が拭えません。よって、神への信仰を促すことと悪魔の誘惑を払うことが同時に行われます。カトリックを中心に悪魔払い(exorcism)は、『quick-fix (手っとり早い解決)』として、長く行われてきたのです」という。

 実は、今世紀になって「エクソシスト養成センター」の建設をしているのはフィリピンのみではない。筆者の母国ポーランドのカトヴィツェでも「エクソシスト養成センター」が設立された。

 ポーランドでは、既に神父でもあるエクソシストたちが活躍していて、ポーランド出身のローマ法王、ヨハネ・パウロ2世(1920−2005年)も実力あるエクソシストで3度の悪魔払いを行っていた。

 エクソシストたちが「悪魔払い」をする際、「悪魔憑(つ)き」とされる人にたいして、イエス・キリストの御名により、ここより去り行くべし」という祈りを唱え十字を切る。儀式には、聖水や聖油、聖塩などが使用される。

 (第266代)ローマ法王フランシスコは2017年12月13日に放送されたカトリック番組「TV2000」で信者に対し「悪魔に惑わされないように」と警告した。

 「悪魔(サタン)といかなるコンタクトも避けるべきだ。サタンと会話を交わすべきではない。彼は非常に知性的であり、レトリックに長け、卓越した存在だ」「サタンは一人の存在であり、名前もある。彼はあたかも育ちのいい人間のような振る舞いをする。あなたが“彼が何者であるかに早く気がつかないと、悪業をするだろう。だから、彼から即離れることだ。サタンは神父も司教たちをも巧みにだます。もし早く気がつかないと、悪い結果をもたらす」(フランシスコ)

 ここでいうサタンは形を持った怪物ではなく、「他人の弱みにつけこんでだます、極悪の魂」という比喩だと思われる。コロナ禍やウクライナ戦争で経済が落ち込み、残念ながら貧困から「悪」に心を惑わされ、悪行に手を染めてしまう人間は増えているのかもしれない。

 マニラの 「エクソシスト養成センター」の意義について、フランシスコ・シキア所長は「悪魔に支配されている人々や貧しい人々や、社会から見棄てられているような環境にいる人々を救う」ことにあるという。つまり、超常現象的な「悪魔の憑依(ひょうい)」のみならず、社会的弱者が魂を「悪」に売り渡さないように守るという意義もあるのだろう。

(ジャーナリスト・深月ユリア)