「機動戦士ガンダム 水星の魔女」には驚かされました。40年以上も制作が続けられている人気シリーズですから、これまでにも異色とされる作品がありましたが、この「水星の魔女」もその一つとなりそうです。ガンダムで学園もの、そして主人公は女性。ガンダム自体も、ゴツゴツしたロボット然としていたものから、丸みを帯びたキュートなデザインとなっています。

 女性に重きを置くコンセプトだと筆者は感じたのですが、考えてみると「ガンダム」にとって「女性の存在」というのは、主役以上に物語の要となったことが少なくなく、シリーズの原点である「機動戦士ガンダム」(1979年)を見てもそう感じます。それぞれが個性的でそれぞれに重要な役割がありました。シリーズ1作目のいわゆる〝ファースト・ガンダム〟に登場する女性について筆者のガンダム体験を踏まえて振り返ってみたいと思います。

 筆者のガンダム体験は小学生だった「劇場版 機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編」(1982年)から始まります。ガンダムに興味を持っていた姉の意向で、家族みんなで劇場へ足を運びました。つまり、意味も分からずいきなり「Ⅲ」を見たということです。

 出身地である関西の言い方を借りると「いいもん」「わるもん」に分かれて、「いいもん」のガンダムが「わるもん」の敵を倒す…「ガンダム」もそれまでのロボット・アニメにありがちな設定だと思っていました。主人公とヒロインがいて、そしてライバルと敵のボスがいる、そんなもんだろうと…。なので、美形キャラのセイラがヒロインで、主人公アムロとちょっといい関係かな?と思い込みました。ところが、ふたりの間には特別な感情はなさそうで、その一方フラウ・ボゥというアムロの幼馴染がいる。かと思えば、唐突にララァが登場して…。

 ロボット・アニメとしてアクションシーンは文句なく楽しめたのですが、人間関係については理解不能でした。「ガンダム」が勧善懲悪の単純なロボット・アニメではなく、「戦争のリアリティ」を通して複雑な人間ドラマを描いた作品であることを知るのは、もっと後のこと。そして、男性を中心とした戦争ドラマの中における、女性陣が果たした役割をも丁寧に描きこむ「ガンダム」の奥深さに驚嘆させられることになります。

 アムロに対する気持ちが報われないフラウ・ボゥの切なさ。シャアの妹という設定ゆえに、ヒロイン的ポジションに落ち着けなくなった一方、「よくって?」「あなたならできるわ」等、男をピシっとさせる名セリフも多いセイラ・マス。家庭的で温厚な描写で一見大人しそうなのに、なかなかのモテ具合のミライ・ヤシマ。アムロから明確な好意を示されながらも、戦場に散ったマチルダ・アジャン。あまり喜びの感情を見せないアムロが、マチルダとの記念写真を手にした時は飛び上がって喜んでいましたよね。アムロとシャアの間に深い陰を落とし、「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」(1988年)までの確執を生んだララァ・スンも忘れられません。

 ほかにもキシリア、ハモン、イセリナ、カマリア(アムロの母)、キッカ、ゼナ、ミネバ…大勢の女性キャラクターの中で、筆者が最も好きな「ガンダム」の女性キャラクターはミハル・ラトキエです。

 ミハルはテレビ版第27話「女スパイ潜入!」と第28話「大西洋、血に染めて」のわずか2話のみに登場した、幼い弟と妹を養うために物売りをしている一見普通の少女ですが、生活のためスパイ行為を働いています。情報を流したために起こる大きな影響を目の当たりにしてしまい、罪滅ぼしのためか、ある行動に出て、これまた悲劇的な展開を迎えます。過酷な環境に置かれながらも、底抜けの明るさと実行力を持つ強い少女として描かれています。

 このエピソードに関しては、主役はアムロではなくサブキャラクターのカイ・シデンです。戦うことに嫌気がさして、戦場から離脱したカイがミハルと出会い、ミハルのスパイ行為を黙認した責任を背負って奮闘し、そして悲劇を経てカイは兵士としての覚悟を決めます。それまでは逃げ腰で皮肉屋だったカイがミハルとの出会いから大きく成長し、どちらかというと嫌われキャラから脱却しました。

 テレビ版からカットされなかった、劇場版でも屈指の名エピソードです。

 わずかな期間ではありますが、心を通わせたカイとミハル。しかし、現実ではミハル役の間嶋里美はアムロ役の古谷徹と夫婦です。ミハルの本命がカイではなくアムロだったの?というのは勝手な妄想ですが、古谷徹は間嶋里美の前に、冷酷無比なザビ家のキシリアを演じた小山茉美と結婚していたことも知られていますよね。

 余談ですが、ガンプラブームの真っ最中にアムロやシャアなど主要キャラのプラモデルが発売されていました。全10体のラインナップの中にミハルがいなくてガッカリした思い出があります。少なくとも、ジオン軍のガルマの婚約者であるイセリナよりは重要なキャラクターのはずなのですが…。

 長い物語の中において本筋に関わらないサブストーリーのみに登場するミハルですが、普通の女の子が、生きていくために戦争に加担せざるを得ないというのは、戦争をリアルにとらえた「ガンダム」ならではエピソードと言えるかと思います。筆者は、戦争においては男も女も、さらには軍人も一般人もない、というメッセージを受け取ったのです。

(フリーランス・沼田 浩一)