『田中さん』改変、凄まじいレベルか
昨年10月期の連続テレビドラマ『セクシー田中さん』(日本テレビ系)で、原作者・芦原妃名子さんの意向に反し何度もプロットや脚本が改変されていたとされるトラブルが表面化し、芦原さんが死去した問題。
この問題をめぐり、日本テレビは5月31日、社内特別調査チームがまとめた調査報告書を公表した。
ドラマの制作過程において、
・番組プロデューサーが芦原さんに嘘の説明をしていた事実
・同社が芦原さんと契約書の締結を行っていなかった事実
・具体的にどのような改変が行われていたのか
が記述されているが、その改変内容についてドラマ制作関係者からは「凄まじいレベル」との声も聞かれる。
調査チームは日本テレビおよび原作代理人である小学館の関係者にヒヤリング調査を実施。
芦原さんは今年1月、自身のブログ上で、ドラマ化を承諾する条件として日本テレビと以下の取り決めを交わしていたと綴っていた。
<ドラマ化するなら『必ず漫画に忠実に』。漫画に忠実でない場合はしっかりと加筆修正をさせていただく>
<漫画が完結していない以上、ドラマなりの結末を設定しなければならないドラマオリジナルの終盤も、まだまだ未完の漫画のこれからに影響を及ぼさない様『原作者があらすじからセリフまで』用意する。原作者が用意したものは原則変更しないでいただきたい>
報告書内では、この条件とされる内容について以下のように記述されている。
日本テレビ「上記のような条件を言われたことはなかった」
小学館は「条件として文書で明示しているわけではないが、漫画を原作としてドラマ化する以上、『原作漫画とドラマは全く別物なので、自由に好き勝手にやってください』旨言われない限り、原作漫画に忠実にドラマ化することは当然」
小学館は日本テレビに対し「脚本が原作者の意図を十分汲まず、原作者の承諾を得られないときは、原作者に脚本を書いてもらうこともある」(報告書より)と伝えたとの認識であった。
では、具体的にどのような改変が行われていたのか。
・原作は「主要登場人物である「倉橋朱里」は短大に進学した」という設定
↓
・日本テレビは「短大に進学するよりも専門学校に進学する方が近時の10代、20代としてはリアリティがあるのではないか」、(短大進学の原因となっている)「父親のリストラはドラマとしては重すぎるのではないか」といった議論を経て、「朱里」は高校受験の際に本当は友達と一緒に制服がかわいい私立校に行きたかったものの、父親が勤める会社が不景気になり母親から「高校は公立でいいんじゃない?」と言われて公立高校に進学したという設定に変更
この点について、専門学校に進学する設定に変更したプロット案を作成し、芦原さんから「原作のジェンダー要素も逃げずに書いて欲しい」「制作サイドは短大での設定を避けているのか」という趣旨の返答がなされたという。
また、日本テレビは
・登場人物の職場の変更
・ドラマオリジナルエピソードの追加
・エピソードの順番の入れ替え
・エピソードの一部改変
なども行い、芦原さんから以下のような懸念が返答されていた。
「ツッコミどころの多い辻褄の合わない改変がされるくらいなら、しっかり、原作通りの物を作って欲しい。これは私に限らずですが…作品の根底に流れる大切なテーマを汲み取れない様な、キャラを破綻させる様な、安易な改変は、作家を傷つけます。悪気が全くないのは分かってるけれど、結果的に大きく傷つける。それはしっかり自覚しておいて欲しいです」
「エピソード順番を入れ替える度に、毎回キャラの崩壊が起こってストーリーの整合性が取れなくなってるので、エピソードの順序を変えるならキャラブレしないように、もしくは出来る限り原作通り、丁寧に順番を辿っていって頂けたらと思います」
「アレンジが加わった部分から崩壊していってしまいがちな気がしています」
このほか、原作にあった「朱里」が「田中さん」にメイクをしたが失敗するシーンについて、日本テレビ側はカットしようとしたが、芦原さんは「『物理として超えられない年齢の壁』があるにもかかわらず、いくつになっても変われる、自分らしく生きられるという本件原作のテーマであること、朱里が将来メイク関係の仕事に夢を持つ大切なエピソードなので、出来れば端折らないで欲しい」(報告書より)旨を要請していた。
このレベルの改変は、ドラマ制作の現場ではなされるものなのか。
テレビドラマ制作関係者は、「原作者のスタンスによって違ってくる」とした上で、以下のように語る。
「今回のように原作者から原作に忠実であることを求められている場合は、細かいセリフなどを変えることはあるものの、設定を大幅に変えるということはしない。その意味で今回の件に限っていえば、日テレ側による改変は凄まじいレベルだといえ、大きなトラブルになってしまったのは必然だと感じる。原作サイドから原作に忠実であることをドラマ化の条件として提示されていたのであれば、その姿勢を守るというのは最低限のマナーだ」
また、報告書のなかで注目されているのが、日本テレビ側の制作スタッフが小学館側に嘘の説明をしていた点。
昨年10月、芦原さんはある撮影シーンについて不審な点があったため制作スタッフに問い合わせたところ、実際の撮影はその5日後に予定されていたにもかかわらず、スタッフは当該シーンは撮影済みである旨を回答。
スタッフは「当該シーンの撮影のために2か月にわたってキャスト・スタッフが入念に準備を重ねていたため、撮影変更はキャストを含め撮影現場に多大な迷惑をかけるので避けたいと思って咄嗟に事実と異なる回答をしてしまった」という。
この一件を受け、「本件原作者は『制作サイドから何を言われても信用できない』という思いを抱いた」(報告書より)。
キー局関係者はいう。
「撮影していないシーンをすでに撮影が終了していると言うのは“明らかな嘘”“大きな嘘”なので、バレると信用関係が崩壊する。どうしてもやむを得ない事情があったのなら、プロデューサーがしっかりと説明すべきだし、もし仮にプロデューサーによる何らかの落ち度が原因だったのであれば、素直に謝罪すべき」
日本テレビの調査チームは報告書において次のように総括している。
「放送されたドラマは本件原作者の意図をすべて取り入れたものとなったと日本テレビも小学館も認識している」
「本件原作者が本件ドラマの内容が自己の意向にそぐわないものだとの理由で不満を抱えていたという事実はなかったとみられる」
この統括について、キー局関係者はいう。
「誰が読んでもこの総括は無理があると感じるだろうが、第三者委員会などではなく、あくまで内部調査なので、このような結果になるのは当然。『最終的に放送された内容は原作者の意向に沿ったもの』という点を強調するための結論ありきの調査」
テレビドラマ制作関係者はいう。
「ここまで原作者が脚本の内容に指摘を入れてくるというのはレアなケースとはいえるだろう。小学館は途中で、脚本家を原作者の意向をそのまま取り入れてくれるような若手に交代する案も提示していたということだが、確かに最初から脚本家がそのようなタイプであれば、これほど揉めなかっただろう。原作に厳格に忠実であることを求める原作者と実績豊富なベテランの脚本家という組み合わせとなる以上、今回のような問題は防ぎようがない」
その他調査報告書をめぐる詳細は、Business Journalをご覧ください。
編集者:いまトピ編集部