富士急ハイランド「絶叫マシンのリスク」重傷事故が繰り返される背景と教訓

ギネス世界記録に認定された世界一のアトラクションを数多く備えることで人気のアミューズメントパーク「富士急ハイランド」(山梨県富士吉田市)のジェットコースター「ええじゃないか」で先月28日、作業員が車両の下に入って点検作業を行っていたところ、別の作業員が車両を誤って動かし、作業員がレールと車両に挟まれるかたちとなり死亡する事故が発生した。「ええじゃないか」では2007年にも作業中の作業員がレールとタイヤに挟まれて重傷を負う事故が発生しているほか、20~21年には「ド・ドドンパ」で計12人の乗客が首の骨を折るなどの重軽傷を負う事故が発生。01年にも「フライングコースター・バードメン」で乗客が腰の骨を折る事故が発生しており、乗客・作業員の事故が相次いでいることから、安全対策が十分になされているのかがクローズアップされている。Business Journalは運営会社に質問を送付したが、期日までに回答を得られなかった。背景には何があると考えられるか。また、一般的にテーマパークやアミューズメントパークなどでは、点検作業はどのように行われているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
富士の裾野に1969年(昭和44年)に開業した富士急ハイランドは現在、約40機種のアトラクションを擁し、総回転数世界一のコースター「ええじゃないか」、最大落下角度121度のコースター「高飛車」、加速度世界一の「ド・ドドンパ」(2024年に営業終了)など絶叫系アトラクションで知られる。このほか、日本で唯一の「きかんしゃトーマス」の屋外型テーマパーク「トーマスランド」やテーマパーク「リサとガスパール タウン」など、小さな子どもでも楽しめる施設も充実している。
テーマパーク経営に詳しい明治大学経営学部兼任講師の中島恵氏はいう。
「東の『富士急ハイランド』、西の『ナガシマスパーランド』(三重県)といわれるほど、絶叫マシンをウリとするパークとしては間違いなく国内1、2を争う存在で、海外の絶叫マシンファンの間でも『一生に1度は行きたいパーク』といわれるほど高い人気を誇っています」
今回事故が起きた「ええじゃないか」では、前述のとおり過去にも同様の事故が起きているが、背景には何があるのか。前出・中島氏はいう。
「日本でも海外でもテーマパークやアミューメントパークでの事故は多いです。事故の多くは乗り物、特に絶叫マシンで起こっています。消費者が速さ・高さ・スリルを求めるので、よりハイスペックな絶叫マシンが誕生し、ますますハイリスクになっています。国土技術政策総合研究所などの調査によれば、国内では事故は毎年のように起きています。大阪府の遊園地『エキスポランド』のジェットコースターで乗客が死亡する事故が起きた2007年には、総務省が『遊戯施設の安全確保対策に関する緊急実態調査結果報告書』を取りまとめ、以下のように指摘しています。
<近年、遊園地やテーマパークのコースター等の遊戯施設は、スピードとスリルが求められ、速度・加速度を増大したものや規模を大型化したものに加え、特殊な運動形態のものなど、多種多様なものが設置されるようになっている>
<(1)遊戯施設の所有者等における定期検査の適正な実施や、(2)コースターにおける探傷試験等遊戯施設の検査方法の明確化などの課題が指摘されている。また、高速のコースターなどの遊戯施設については、現行の建築基準法の体系による安全確保対策では十分対応できないとの意見もみられる。このため、国土交通省では、コースター等の遊戯施設の緊急点検を行うとともに、遊戯施設の安全確保対策の徹底を指導しており、また、同省の社会資本整備審議会においては、定期検査等の内容、方法等の見直しを始めている>
今回、富士急ハイランドの同じアトラクションで同じような事故が起きたということは、作業員個人ではなく、作業の手順や仕組みに問題があると考えられ、運営会社の責任が問われることになります」
今回の事故は、他の遊戯施設の運営にどのような教訓を示唆しているのか。
「遊戯施設は建築基準法上の『工作物』として、設置時の確認審査や設置後の検査資格者による定期検査の実施、検査結果の特定行政庁への報告などが法律で義務付けられています。また、国土交通省は、施設の維持保全計画書や運行管理規程の作成などによる遊戯施設の維持保全・運行管理の徹底を指導しています。
点検作業員の方々は、毎日同じような作業を同じメンバーと行っていると、惰性から気の緩みが生じたり、作業が漫然となってしまい事故が生じやすい状況になる可能性も考えられます。そのため、作業員の方々の安全確保を第一に据えつつ、緊張感を維持することでミスや事故の発生を防ぐ方策が必要となってくるのではないでしょうか。人の命が一瞬の事故で奪われてしまう恐れがあるのが絶叫マシンです。より慎重な保守点検・安全管理が求められます」(中島氏)
以上、ビジネスジャーナルから紹介しました。
編集者:いまトピ編集部