アマプラ、批判覚悟の『過激バラエティ番組』が「今後のテレビ界に大きな影響を与えそう」
AmazonTBS系『水曜日のダウンタウン』などを手掛けるディレクター・藤井健太郎氏が企画・演出・プロデュースを務める番組『KILLAH KUTS』が、10月14日よりAmazon Prime Videoで配信中。地上波テレビでは実現が厳しそうな内容はさまざまに話題を呼んでいるが、芸人が多数出演しながらも、“お笑い番組”とも言い切れない――。
配信中のエピソードは、芸人同士が金網の中でスタンガンを持って1対1で戦う『スポーツスタンガン』、サスペンスドラマなどでよくある死ぬ間際にメッセージを残すシーンを麻酔をかけられた直後の芸人で再現する『麻酔ダイイングメッセージ』、街行く人に政治信条を聞き右寄りなら右折、左寄りなら左折して目的地に向かう『街行く人に 政治信条を聞いて「右寄り」と言われたら『右折』 「左寄り」と言われたら『左折』しなくてはいけないレース』、非童貞を装う童貞たちの中にいる本物の非童貞を当てる『童貞人狼』の4つ。このうち、特に大きな波紋を呼んだのが『麻酔ダイイングメッセージ』である。
同エピソードは、モグライダー・ともしげ、ラランド・ニシダ、みなみかわが、麻酔をかけられた直後に犯人役に殺され、その犯人についてダイイングメッセージを残し、それをもとに犯人が誰であるかを当てるというストーリー。撮影においては、芸人たちが実際に胃の内視鏡検査を受けており、麻酔をかけるのはそのためと説明されている。つまり、『麻酔ダイイングメッセージ』はあくまでも“内視鏡検査のついで”というテイだ。
これ対し日本麻酔科学会は、具体的な番組名こそあげていないが“10月14日配信開始の番組”としたうえで、〈麻酔薬をいたずらに使用する行為は、極めて不適切であり、日本麻酔科学会として断じて容認できるものではありません。また、このような使用方法が誤ったメッセージを国民に伝え、麻酔薬の安全な使用に対する信頼を損なうことを深く憂慮しております〉とつよく批判。
たしかに、芸人が実際に麻酔にかけられるシーンを映す番組は前代未聞だが、エンタメウォッチャーの大塚ナギサ氏は、このような反響はある程度、想定済みだったのではないかと指摘する。
「『水曜日のダウンタウン』では、VTRに出演する芸人や街頭インタビューを受けた一般人をナレーションで強めにイジるなど、“いかに面白く見せるか”という部分を意識しています。一方で、今回の『麻酔ダイイングメッセージ』については、そういった要素は比較的マイルド。また、VTRを見て感想を言いつつ番組を仕切るMC役は伊集院光さんですが、そのコメントもフラットで、起きている現象を冷静に分析するにとどめている。言うなれば、批判を覚悟していたからこそ、“過激だから面白い”といった安直な映像にならないように構成されていたように思います」
『麻酔ダイイングメッセージ』と同様の方向性は、『右寄り左寄りレース』にも見て取れる。この企画では、ウエストランドときしたかのがVTRに出演。気まずそうに街行く人に政治信条を聞いていく中で、芸人たちは次第に右寄りの人と左寄りの人の傾向を把握していく。スタジオではカズレーザーがこのVTRを見ながらコメントするのだが、実際の社会情勢の話や政治の歴史の話を絡めながら、『麻酔ダイイングメッセージ』の伊集院と同じく、冷静に分析する。
「『右寄り左寄りレース』は一般人の政治信条に踏み込んでいくわけではなく、あくまでもフラットに扱っている。ただレースをしていくうちに、一般の人々の属性による政治信条の傾向がほんのりと浮かび上がってくるのは、興味深いものでした。挑戦的でデリケートな企画ではありますが、“過激”というわけでもない。この企画が地上波で成立できない不条理さを訴えたいがために、『KILLAH KUTS』のエピソードとして配信されたのではないかとさえ感じました」(大塚氏・以下同)
一方の『スポーツスタンガン』と『童貞人狼』は、お笑い要素にあふれた企画だ。『スポーツスタンガン』では、スタンガンを持って真剣に戦う芸人同士のリアクションが大爆発。『童貞人狼』では、馬鹿馬鹿しい下ネタが展開される。
「この2つのエピソードにおいては、“スタンガンを当て合うという過激さ”と“露骨な下ネタ”が地上波にそぐわないというのが明白であり、構成そのものはバラエティ番組。『麻酔ダイイングメッセージ』と『右寄り左寄り』は実験的な映像化、『スポーツスタンガン』と『童貞人狼』は地上波のコンプライアンスに挑戦状といった形でしょう」
過激で挑戦的な映像や実験的な映像が、いままでまったくなかったわけではない。YouTubeではさまざまなタイプの過激な映像があふれているし、たとえば単独ライブで過激な映像を流す芸人もいる。とはいえ、いずれもメジャーなフィールドでの発表ではなく、その映像に触れる人も限られる。
そんななか、今回の『KILLAH KUTS』はAmazon Prime Videoという有料サービスではあるものの、それなりに視聴者が多い場で配信されたということの意義は大きい。
「ネット配信のバラエティ番組は『ドキュメンタル』や『トークサバイバー』など、実験性が高いもの、あるいは露骨な下ネタや暴露を含みがちです。もちろんネット配信が“地上波ではできないことができるメディア”ですが、『KILLAH KUTS』では必ずしも面白さだけを求めていないのが新しいと思います」
藤井氏は『KILLAH KUTS』の配信に寄せて、〈なるべく面白くて、なるべく見たことのない企画・番組を作りたいと常々思っています。それは当然、番組を見てくれる人、楽しみにしてくれる人たちの為なのですが、一方で、そのうちの何割かは、自分が「見てみたいから」「やってみたいから」だったりもします。そして、今回のこの『KILLAH KUTS(キラーカッツ)』にはその割合が普段よりもちょっと多めに含まれている気がしています。〉とコメントしている。挑戦的な映像を作ること自体が大きな目的となっているのだ。
「地上波ではスポンサーの影響も大きく、無難な番組作りになりがちで、バラエティ番組が大きく変化できない状況があります。そのなかで藤井氏はつねにチャレンジグなことを続けているものの、やはり地上波だけでは限界がある。そこで『KILLAH KUTS』という、より実験性の高い番組を配信することで、テレビ業界全体に一石を投じていると見ることもできるでしょう」
数多くあるネット配信バラエティ番組の中でも、異彩を放つ『KILLAH KUTS』。今後のテレビ界に大きな影響を与えることとなりそうだと日刊サイゾー が報じた。
編集者:いまトピ編集部