『東京美容外科』遺体の前でピース、批判相次ぐ「いざ新鮮なご遺体解剖しに行きます」
大手美容クリニック・東京美容外科の沖縄院院長で医師の黒田あいみ氏は、グアムで行われた解剖研修に参加した際のものとして、遺体の前でピースする自身の姿を収めた写真や、「頭部がたくさん並んでるよ(スマイルマーク)」という文言とともに複数の遺体が並んだ写真、「いざfresh cadaver(新鮮なご遺体)解剖しに行きます!!」という文言とともに自身の笑顔を収めた写真などをブログに投稿。批判的な声が相次いでことを受け23日までに削除したが、黒田氏は謝罪コメントで
「写真に写ってしまったご遺体は 全てモザイクをかけていた つもりでおりましたが 一部出来ていないところがありました」
「より多くの医師に知ってもらうことで より安全に、より多くの患者様の満足度をあげることができる、と思い、投稿しました」
などと記述。また、東京美容外科の統括院長である麻生泰氏はX上にポストした謝罪コメント内で
「この写真は、アメリカで解剖している事ですので、日本ともルールが異なります」
「(編集部追記:医師が解剖をすることは)全ては患者さんの利益になる事だと考えます」
などと見解を綴り、さまざまな反応が寄せられている。今回の黒田氏の行動は問題ある行為といえるのか。また、医師である人物が、なぜこのような行為におよんだと考えられるか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
医師の偏在により地方や一部の診療科で医師不足が深刻化するなか、その原因の一つとされるのが、美容クリニックへの医師流出だ。一般的に、医師は医師国家試験の合格後2年間は臨床研修の研修医として、その後3~5年間は専攻医(旧・後期研修医)として働いた後に専門医資格を取得する。医師免許を取得する者の人数は年間約9000人いるが、近年ではその数%、約200人が臨床研修を終えた直後に専攻医を経ずに美容クリニックなどで働くとみられている。こうした動きを受けて、外科全般・産婦人科・小児科などで医師不足が顕著になりつつある一方、美容外科の診療所は23年時点で対20年比44%増の2016施設に増加し、美容外科の診療所に勤務する医師の数は22年時点で対16年比2.4倍の約1200人に増えたという(厚生労働省の調査による)。
医学部で医師を育成するためには多額の税金が投入されていることもあり、こうした動きに歯止めをかけるべきだという声も強い。国は美容クリニックへの医師集中を規制する施策として、公的保険適用対象の診療に最低5年程度、従事しなければ、開業したクリニックに保険診療の提供をさせないという内容や、開業医が多い地域で開業する医師に在宅医療や救急対応などを担うよう都道府県が要請し、応じない場合は勧告を行うという内容を検討している。そんな美容クリニック業界のなかで大きな存在感を示す東京美容外科は、著名医師で医療法人社団東美会理事長の麻生泰氏が2004年に設立し、国内・海外(ドバイ)に計約20の医院を展開。AGAスキンクリニックやメンズライフクリニックなど計8つのブランドを運営する麻生美容クリニックグループの中核となるクリニックだ。「熟練医師のみが施術執刀」「開業以来20年医療事故0」「麻酔科医常駐」を特徴とし、「美容外科医師として10年以上の経験を持つ医師、或いは、形成外科学会から認定を受けた医師、または、東京美容外科で3年以上の経験を積んだ医師のみが メスを握ることを許されています」(公式サイトより)としている。
「東京美容外科単体でみると、100以上の医院を展開する湘南美容クリニックや東京中央美容外科(TCB)と比べると規模は小さいが、高い技術力には定評がある。現在、美容クリニック業界では医院数の増加により医師の獲得競争が強まっていることから、大手だと研修医を終えたばかりの新卒医師でも年収1000万円、経験者は年収2000万円が採用時の最低ラインとなっている。黒田氏は経験豊富で沖縄院院長を務めているということなので、年収は少なくても3000万円以上とみられる」(美容外科医)
黒田氏はブログで「新鮮なご遺体で解剖させて頂ける機会、というのは非常に稀で、基本的には日本ではできません」と説明しているが、 医療関係者以外の一般の人々の感覚としても、モラルに欠く行動と思われるが、なぜ医師である人物が、このような行為におよんだと考えられるか。
医師で特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長、上昌広氏はいう。
「この人物は、医師としての基本的な姿勢が間違っている。『古典的プロフェッショナル』の自覚が感じられない。『古典的プロフェッショナル』とは、医師、弁護士、聖職者などに求められる職業規範だ。ギリシャ、ローマ時代以来、長年にわたる議論の末、確立された概念だ。医師の場合、『患者の利益を優先せよ』『全ての知識を患者のために使え』ということだ。医師と患者の間には、大きな情報の非対称が存在するため、医師が患者を騙すのは簡単だ。だからこそ、自己規律が求められる。
世界の医師は、どうすれば『プロフェッショナル』たり得るか、議論を積み重ねてきた。苦い経験もした。有名なのは、1946年12月から翌年の8月にかけてドイツのニュルンベルクで行われた『ニュルンベルク医師裁判』だ。罪に問われたのは、強制収容所での人体実験と約350万人のドイツ国民を対象とした強制不妊手術を行った23人の医師たちだ。被告の医師たちは『上司に命令された。自分の責任ではない』と無実を主張したが、訴えは認められず、7人が絞首刑となった。
この裁判では、政府からの命令で個人がとった行動の責任を問えるのかが議論されたが、最終的には医師の職業規範が優先され、極刑となった。医師は、自らが所属する組織の都合より、患者の利益を優先しなければならない。これが、世界の医師たちの自己規律に対する議論だ。医師には強い自己規律が求められる。
このような背景を知れば、今回の医師の対応が話にならないことがご理解いただけるだろう。献体者は医学の進歩のために、自らの体を差し出した人たちだ。医師は、通常の患者以上に尊重しなければならない。ところが、この医師は、彼らを自らのSNSを盛り上げるために利用した。この医師がどの程度の技量を持つか私は知らない。ただ、医師として基本的な素養に欠ける。医師免許を返納することをお勧めしたい」と、ビジネスジャーナルが報じた。
編集者:いまトピ編集部