『アマゾン』配達トラブル続出「再配達は報酬なし」影響か
「Amazon.co.jp(アマゾン)」の荷物の配達員が、顧客が置き配などを指定しているにもかかわらず、郵便受けの暗号式ロックを勝手に解除して中に荷物を入れるという事態が相次いで発生している。背景には何があるのか。専門家は「『Amazon Flex(アマゾン・フレックス)』の配達員は再配達が多いとクビになることもあり、また、配達1回あたりの報酬も下がっているため、モラルハザードが起こりやすくなっている」と指摘する。
アマゾンの配達形式には大きくは2種類あり、ヤマト運輸などの配送会社によるものと、アマゾンが個人事業主に配達を委託する仕組みであるアマゾン・フレックスによるもの。後者は、軽貨物車や軽乗用車を所有する個人事業主が専用アプリに登録し、配達を行う。ドライバーはアプリでオファーされている各エリアの配達ブロック(時間帯と報酬が提示)のなかから選択して予約し、指定された配送ステーションなどで荷物をピックアップして車両に積み込み、アプリで表示されるルートを参照して荷物を配達する。
アマゾン・フレックスをめぐって問題となっているのは、荷物量、ドライバーへの評価がアルゴリズムによって決められ、評価が低いとアプリのアカウントが停止され事実上の解雇となってしまうという点だ。また、経費を差し引くと手取り収入は多くはない点も指摘されている。
こうした実態を受けて、昨年(2024年)1月、アマゾンジャパンと業務委託契約を結ぶ20代の男性ドライバーが労働組合「Amazon Flex ユニオン」(総合サポートユニオン内)を結成し、アマゾンに団体交渉を申し入れるという動きもあった。男性は会見で「1時間に20個以上の荷物を配送しないといけないオファーが多い」「休憩を取る時間がなく、トイレを我慢したり、信号待ちの間におにぎりを食べて食事を済ますこともある」などと過酷な労働実態を告白。配達用車両の購入費や燃料費、各種保険料などはドライバーの自己負担となっていると訴えていた。
昨年5月放送の報道番組『news every.』(日本テレビ系)によれば、あるドライバーは朝8時台から夜8時台まで計12時間の間に合計約200件の配達を行い、日当は約2万円。1個あたり3分で配達するという。
再配達率が多いと、いきなりクビに
アマゾンの配達員による前述のような問題のある配達が行われる原因は何なのか。物流ジャーナリストの坂田良平氏はいう。
「数年前の報道によれば、日本郵便やヤマト運輸の配達員も同様の行為を行っているので、アマゾンに限った話ではないと思われます。マンションの宅配ボックスの一部を複数の配達員が暗証番号を共有することで占有してしまうという事例も起きていますが、配達員のモラルハザードというのはあると思います。
では、その背景には何があるのか。たとえば軽貨物配送の配達員は、配達できず持ち帰りになった分の報酬は支払われません。200個の荷物のうち50個が再配達になったとしても、150個分の報酬しか支払われません。ある軽貨物運送の関係者は、『もし持ち帰りになった荷物に対しても、荷主にあたるアマゾンや楽天市場などのEC事業者や、元受けになるヤマト運輸や佐川急便などの配送会社が、配達員に対し報酬を支払っていれば、もっと本気で再配達の削減に取り組むはずです。荷主は再配達のリスクを配達員に押し付けているように、配達員は感じています。だから配達員は、モラルハザードな行為をしてでも、1個でも多くの荷物を配達完了しなければ自分の生活が守れないと追い込まれています』と憤っています。
また、アマゾン・フレックスの配達員は、再配達率が多いと、いきなりクビになることもあるようです。そのアルゴリズムをアマゾンは公開していません。そして、個人事業主の配達員は、支払われた報酬のなかから車の維持費やガソリン代を払わなくてはなりませんが、ガソリン代は上がっています。利益の維持に苦しくなってきている配達員が、自らの身を守るためにモラルハザード的な行為をしてしまうというのは、もちろん良くないことなのですが、心情的には同情します。
郵便受けのロックを勝手に解除して荷物を入れる件についていえば、一つ厄介な面もあり、この行為に対して全ての消費者が怒っているわけではなく、『郵便受けに入れておいてくれて助かった』『再配達の依頼をしないで済んだ』という声も一定数あるんです。そうなると配達員が『この前のお客さんは喜んでくれたから』と考えてしまうこともあるでしょう」
では、問題行為をした配達員に対するペナルティーはあるのか。
「あくまで聞いた話の限りですが、アマゾン・フレックスに関していえば、アマゾンにクレームが寄せられても、基本的には配達員にはフィードバックしていないようです。荷主と配達員の間に配送会社が入る場合は、その配送会社から怒られたり、他のドライバーたちからLINEで怒られるといったことはあるようですが、要は配達員が間違いを犯したりクレームを受けても、それをきちんと処理し、配達員にフィードバックするという仕組みが十分ではないという印象を感じます」
ビジネスジャーナルが報じた。
編集者:いまトピ編集部