2025/2/21 12:12

『サイゼリヤ』1038店舗展開、待っていたかのように導入「後発優位」か

サイゼリヤ

サイゼリヤのキャッシュレス決済やモバイルオーダーの導入をめぐり「究極の後出しジャンケンが優秀」だと話題を呼んでいる。サイゼリヤは飲食業界のなかでは遅れるかたちで2023年頃から、QRコードをスマートフォンで読み取るセルフオーダー方式を導入。同じく他社に遅れるかたちで21年に全店舗でキャッシュレス決済対応を完了させ、最近ではロボット配膳の導入も進めている。同社元社長の堀埜一成氏は19年11月19日付「日経ビジネス」ウェブ版記事のインタビューで

<最終的には乗るんですよ。キャッシュレスはやるんです。でも究極の後出しじゃんけんをするつもり。というのは、確かに手数料率もあるんですが、ハード(端末)の開発速度を見てるんです>

<変更に弱い端末を入れてしまうと、PayPayとか新しい決済手段が入ってきたとき、後付けできないとかとんでもないことになる。この分野って開発速度がすごい速いんです。今後どう変わっていくか分かんないんで、そのハード側に金を使いたくないなというのがある。そういうのを見ながら、いつやろうかと考えています>

と語っていたとおり、意図的に導入を遅らせることで可能な限り低コストで高い効用が見込める投資を行っていることがわかる。企業がシステムを導入する際に「後出しジャンケン」という戦略は賢明なのか。賢明だとすれば、その理由とは。逆にデメリットは考えられるか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

国内に1038店舗、海外に531店舗(2024年8月期)を展開するサイゼリヤといえば、リーズナブルな価格でクオリティの高い料理を楽しめ、多くのファンを持つことで知られる。200円の「柔らか青豆の温サラダ」、300円の「辛味チキン」「ミラノ風ドリア」「ポップコーンシュリンプ」、400円の「ミートソースボロニア風」などお手頃な価格で味わえる人気メニューを抱えている。今月13日にはグランドメニューの改定を行い、「ミニフィセル」や「プチフォッカ」がなくなったことや、平日のランチタイムはすべての来店客がランチスープをおかわり自由で飲めるようになった点、新メニューとして「タラコとポップコーンシュリンプのドリア」(400円)や「ポップコーンシュリンプとタラコのクリームグラタン(全粒粉)」(430円)が加わったことなどが話題となった。

その一方、最近では全店舗でみると徐々にメニュー数が減りつつあることを残念がる声も出ていた。ここ数年を振り返ると、「カリッとポテト」、フランスパン風の「ミニフィセル」、スパゲッティメニューの「大盛り」「おこさま」サイズ、トッピング用粉チーズ「ペコリーノ・ロマーノ」、「エビと野菜のトマトクリームリゾット」などが全店舗、もしくは一部エリアで販売終了となっている。

そんなサイゼリヤの「遅れたシステム導入」「最新仕様を追わないシステム」は以前から一部で注目されてきた。例えば、セルフ式のモバイルオーダーは、チェーン店で一般的なスマホアプリやタッチパネル端末のメニュー画面から選択する形態ではなく、客がテーブルに置かれた紙のメニューを見て、注文したい料理のコード(数字4桁)をスマホアプリ上に手入力するという少しアナログ的な形態だ。

そしてキャッシュレス決済対応としては、三井住友カードが提供するオールインワン決済端末「stera terminal」を全店舗に配置しているが、PDFツール「AxelaNote」を開発・販売するTransRecog代表の小林敬明氏はいう。

「小売店や飲食店などの店舗では、2019年頃までは複数のキャッシュレス決済用端末がバラバラと置かれているという状況でしたが、統合されたオールインワンタイプが登場して、サイゼリヤはそれを待っていたかのように導入しました。そこは意識して狙っていたのだと考えられます。経営学の言葉で『先発優位』と『後発優位』というのがあり、先発優位とはライバルがいないため価格競争も発生せず、高い利益を得ることができる半面、後発企業が簡単に真似できない製品を出す必要があります。サイゼリヤは会計のキャッシュレス決済やオーダーに関しては後発優位の戦略を取ったというでしょう。本業であるメニューの開発など料理そのものに関しては先発だけれども、その他のことは後発でいいじゃないかという戦略です。

 システムはより最先端の技術を取り入れたほうがよいと思われがちですが、ちょっと様子見しておいて、あえて遅れて導入・投資をするというのは、実はよくあることなんです。アップルのiPodも携帯音楽プレイヤー市場でみれば後発組です」

小林氏によれば、サイゼリヤが優れているところは、デジタル化する前に内部の仕組みを見直しシンプルにしていることだという。

「モバイルオーダー導入の拡大を見据えて、メニューを整理してシンプルな仕組みにして、単純にすぐに機械化するのではなくて、まず企業の仕組みを見直しているという点は、多くの企業にとって非常に参考になります。仕組みを見直してからデジタル化を行っているところがサイゼリヤの優れたところだと思います。

 あえて後発でシステムを導入するメリットとしては、先発企業の失敗事例を十分に観察できるという点と、無駄な投資を抑えることでコストを抑えることができるという点が挙げられます。技術の普及に伴い導入コストがある程度コストが下がってきたところで採用できるというメリットです。

 また、モバイルオーダーに関していえば、飲食店で使用されているモバイルオーダーの方式は、すべてのプロセスをデジタル化している形態が一般的ですが、サイゼリヤの場合はメニューは紙のメニュー表で見て、オーダーはスマホからというかたちです。例えばファミリーレストランのジョナサンなども同様の方式ですが、サイゼリヤはメニューをシンプルにして、店舗全体のオペレーションをトータルに考えていろいろな準備をしています。ただ単にデジタル化するのではなく、仕組みを根本から変えているところが大きな特徴になります」

と、ビジネスジャーナルが報じた。

サイゼリヤ「究極の後出しジャンケン」が優秀すぎる理由…カギはシステム導入前 | ビジネスジャーナルサイゼリヤ「究極の後出しジャンケン」が優秀すぎる理由…カギはシステム導入前 | ビジネスジャーナル

編集者:いまトピ編集部