炎上無視『赤いきつね』アマゾン1位に
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東洋水産が2月16日に公開した「赤いきつねうどん」のウェブCMをめぐり、一部から「不快」「気持ち悪い」との批判的な声が続出する一方、「何が問題なのかわからない」という反論も出るなどして議論を呼んでいた事案。東洋水産はコメントを出さずにメディアの取材にも応じず、当該ウェブCMも削除せずに公開を続けて、騒動に「無視」の姿勢を貫いているが、ECサイト「Amazon.co.jp(アマゾン)」では「うどん」カテゴリーの「人気のギフト商品」で一時、1位にランクイン。騒動やそれに対する同社の姿勢が逆に宣伝効果や同社への支持を生み、好調な販売につながっているのではないかという見方も出ている。同社の対応および結果をどう評価すべきか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
「赤いきつねうどん」「緑のたぬき天そば」「やきそば弁当」などの即席めん、「マルちゃん焼そば」などのチルド麺、冷凍食品、レトルト食品などで知られる大手食品メーカーの東洋水産。創業は1953年(昭和28年)、横須賀水産として築地市場内にて事業を始め、今年で創立72周年を迎える。年間売上高は4890億円、従業員数(連結)は約4700人に上る大企業であり、営業利益率は13.6%と健全。
今回議論を呼んでいるのが、そんな東洋水産の看板商品である「赤いきつねうどん」のウェブCMだ。一人の女性が暗い部屋でテレビを見ながら涙を流し、頬を赤くしながら出来立ての「赤いきつね」を食べるというだけのアニメーション。主人公は上下長袖の服を着用しているため肌の露出もないが、動画公開直後から前述のように批判的な声が相次ぐ一方、特に問題はないという反論も多数上がる事態となっている。
注目されているのが、東洋水産の対応だ。CMや広告などが一部から批判されると、すぐに削除したり謝罪コメントを発表する企業も多いなか、東洋水産は一貫して沈黙。この姿勢に賛同してか、サッポロビール、フジッコ、アース製薬など多くの企業が東洋水産の公式Xアカウントをフォローする動きをみせている。たとえばタニタの公式Xは「恐がることはないんだよ。友だちになろう」とポストし、これに対し東洋水産が「タニタさんからお返事きた。震えながら、とりあえずフォロバしました…(うちの体重計がタニタ製であることを祈るばかりです)」と反応したことも話題を呼んだ。
「無視」はリスクのある対応
こうした異例の展開が続くなか、消費者の間では不買運動が広がるどころか、逆に販売が好調なのではないかという見方も出ている。たとえば「アマゾン」では一時、「うどん」カテゴリーで「ベストセラー1位」に、「うどん」カテゴリーの「人気のギフト商品」でも一時、1位にランクイン。商品ページ上では「過去1か月で2000点以上購入されました」、(「マルちゃん」ブランドについて)「10万人以上が直近3カ月にこのブランドの商品を購入」「93%の高評価を3万人以上から取得」といった記載がみられる。少なくても騒動が販売にマイナスの影響をおよぼしている様子はうかがえないが、これを受け、SNS上では以下のような声があがっている。
<CMアニメ大成功>
<スーパー行ったら赤いきつねは売り切れてました>
<大勝利>
<応援してる>
食品メーカー関係者はいう。
「即席めんの『うどん』市場では東洋水産の『マルちゃん』と日清食品の『どん兵衛』が2強ですが、各種ECサイトなどでの状況を見る限り、両者はほぼ拮抗した人気を誇っているという印象です。東洋水産の対応は結果的には悪い影響を生まなかったといえ、その意味では成功だったと評価できるかもしれません。ただ、実際のCMの内容や、それに対するマジョリティーやネット上で大きな影響力を持つ人々の反応、同時期に似たような事例がほかにも起きていたのかどうかなど、さまざまな複合的な要因が重なった結果、そうなったという面もあり、仮に違うタイミングで起きていたら、また違う結果になっていた可能性もあるかもしれません。また、騒動に対して『無視』の姿勢を取るというのは、『毅然としている』と好意的に受け取られるケースもある半面、『逃げている』などと否定的な受け取られ方をしてしまう可能性もあり、リスクのある方法であることは確かでしょう。メディアなどの取材に対しては『特にお答えすることはありません』などと、なんらかのかたちで『当社としては問題があるという認識ではない』旨を表明していくというのが、一般的な対応になってくるとは思います」
当サイトはこの事案について2月22日付記事『赤いきつねCM炎上で東洋水産「無視を決め込む」対応は正解?株価上昇の理由』で報じていたが、以下に再掲載する。
――以下、再掲載(一部抜粋)――
危機管理・広報コンサルタントで、長年、企業・自治体の管理職向けに模擬緊急記者会見トレーニングや危機管理広報、SNSリスク対策研修・セミナーの講師なども手掛けてきた平能哲也氏はいう。
「企画意図等の一切についてコメントしないという態度は良いと思います。アニメなどは各人の受け止め方も様々なので、企画意図などをコメントして、それがまた反論を呼ぶという流れになるのは避けるべきで、その点で今回の対応は企業の危機管理広報として正しいです。ただし、メディアからの問い合わせに対して、回答していないのであれば、それは疑問です。制作会社は声明文を出しているので、例えば『今回の件について当社からのコメントはございません。制作会社が声明文を出されているので、そちらを参照していただければと思います』などのメディア対応はすべきです。メディア側からすれば、企業の広報に問合せしているのに回答を受け取れない=無視されているというのは、あまり良い気持ちはしないと思います。『コメントしない』という回答も、企業側からのメッセージになります。
企業の危機管理広報の観点からは、メディア側に『この会社は都合が悪い時はコメントしない』と誤解を与える対応はマイナスでしかありません。前述のような『コメントいたしません』という回答になっても、きちんと対応するのがスマートで適切だと思います。ネット記事の見出しなどに『企業側は無視』といった言葉があれば、内容を知らない読者は企業に対してネガティブな印象を持つでしょう。企業広報やアドバイスしている外部専門家はそこまで配慮すべきです。それがプロです」
大手メーカーで広報業務の経験がある管理職はいう。
「昨年、ネットで炎上した企業は謝罪やコメント削除などの対応をすると、対応しない場合よりも株価が大きく下落するという東京大学大学院の研究論文が話題になりましたが、『無視を決め込む』というのは広報の危機管理対応としては選択肢の一つです。ただし、企業側に非がないという世論形成が期待される場合に限りますが、東洋水産に擁護的な声も多いため、このような対応をしているのかもしれません。
また、今回の件でいえば、果たして本当に炎上といえるほどネットの反応が熱を帯びたものなのかという根本的な疑問もあります。SNSに批判コメントを投稿する人々がいる裏には、特に問題だと感じていない『その他大勢』のサイレントマジョリティーが存在しており、またSNS上では批判的な言動のほうが大きく拡散されてクローズアップされやすいという傾向があるため、批判している人がごく一部であるにもかかわらず、あたかも炎上しているかのように世論がミスリードされるということも起こり得ます。企業の広報がそこを見誤って過剰な反応をしてしまい、無用に騒動を大きくしてしまうことには注意が必要です」
毅然としていて評価できる
今回のウェブCMをめぐっては、生成AIを利用しているのではないかという指摘や、クリエイター個人を特定して誹謗中傷を行う動きも広まっているが、制作を手掛けた株式会社チョコレイトは今月21日、以下コメントを発表した。
「本作は、すべての制作過程において一切の生成AIを使用しておらず、すべてプロのアニメーター・クリエイターによる手作業で制作されたものです」
「弊社は本件のクリエイティブに対する責任を持つ立場として、制作に関わるすべての関係者を守ることが責務であると考えております。虚偽の情報を拡散する行為や、関係者に対する誹謗中傷は、当該個人の名誉を著しく毀損するものであり、看過できるものではございません」
「どうか特定の個人への悪質な誹謗中傷や虚偽の情報拡散に関してはお控えいただき、クリエイティブに関するご意見がございましたら、以下メールアドレスまでお寄せいただけますと幸いです」
前出・大手メーカー管理職はいう。
「虚偽情報の流布や誹謗中傷に対してはきちんと反論している点も含めて、一連の東洋水産と制作会社の対応は毅然としていて評価できるといえます。ただ、あえてマイナスの点があるとすれば、チョコレイト社はあくまで東洋水産から委託を受けてCMを制作した立場にあり、生成AIやクリエイター個人への批判については、CM制作の最終的な責任主体である東洋水産がリリースを出すべきといえます」
株価が1割ほど上昇
ウェブCMをめぐる騒動が続くなか、今月19日以降の東洋水産の株価がそれ以前より1割ほど上昇していることも注目されている。毅然とした対応が好材料になっているとの見方もあるが、メガバンク系のファンドマネージャーはいう。
「株価上昇はウェブCMの件とは関係ないといってよいでしょう。19日に日本経済新聞が、東洋水産の株主である投資会社が東洋水産に株主還元の強化を要求していると報じたことが株価上昇の材料になったと考えられます」
ビジネスジャーナルが報じた。
編集者:いまトピ編集部