『セブン-イレブン』、路線転換か

●この記事のポイント
・フィルム包材を用いた割安な惣菜シリーズ「パックデリ」を投入。フタが付いたプラスチック容器を使用するより30~50円ほど価格を低く抑えている。
・価格訴求力・環境配慮・商品バリエーションの拡充という複数の目的を兼ね備えたシリーズ
・量目・価格・満足感の全体設計を通じて、「実質的なお得感」を高める商品づくり
セブン-イレブンが値下げ路線を強めていると注目されている。5月にはフィルム包材を用いた割安な価格帯の惣菜シリーズ「パックデリ」を投入。フタが付いたプラスチック容器を使用するより30~50円ほど価格を低く抑えている。「カップデリ」シリーズなどのフタが付いたプラスチック容器の総菜類の一部をフィルム包材に置き換えたという見方も出ているが、セブンは「置き換えではない」と否定する。ローソンも4月、総菜類の一部商品を11~21円値下げして具材を約2割増量すると発表し、ファミリーマートも話題の「涙目シール」で消費期限の迫った総菜類を値下げして販売する取り組みを入れるなど、これまで値上げが進行していたコンビニエンスストア業界では一転して「値下げ競争」ともいえる状況が生まれつつある。そうしたなかでセブン-イレブンは、なぜこのような方法をとったのか。狙いや背景、そして今後さらに「値下げ」を深掘りしていくのかについて、同社に取材した。
セブンは5月からフィルム包材を使用した総菜類として「パックデリ」シリーズを本格的に展開。現在、「セブンプレミアム 風味を楽しむ紅生姜天」(税込267.84円)、「セブンプレミアム 食感を楽しむ玉ねぎ天」(267.84円)、「丸かじりチキボン」(321.84円)、「アンチョビガーリックポテト」(278.64円)、「枝豆 沖縄の塩シママース使用」(213.84円)などを販売しており、前述のとおりフタが付いたプラスチック容器を使用する商品と比較して価格を抑えている。
セブンは昨年頃から徐々に値下げ路線を示し始めていた。昨年7月、従来からある「味付海苔 炭火焼熟成紅しゃけ」(税込189円)の販売を継続する一方、「手巻おにぎり しゃけ」(138.24円/現在は149.04円)を発売。税抜価格は128円で120円台に抑えた。このほか、「手巻おにぎり ツナマヨネーズ」を138.24円(現在は149.04円)で発売したが、従来151.20円で販売していた同名商品からの切り替えとなるため、事実上の値下げを行った。9月には、手頃な価格の「うれしい値!」商品を200アイテム以上に拡充。牛乳やポテトサラダなどPB「セブンプレミアム」の一部商品も「うれしい値!」商品として扱いを始めた。もっとも、今年1月には「うれしい値!」の対象商品も含めて一部商品を平均で約10%値上げしており、試行錯誤を続けている様子がうかがえる。
値下げの動きは競合他社もみせている。ローソンは4月、「たまごサンド」を21円値下げして279円に、「ハムたまごBOX」を11円値下げして354円にした。加えて、具材の「たまごサラダ」の使用量を従来品と比較して約2割増やした。さらに品質も改良。「たまごサラダ」の酸味をやわらげ、たまごの風味をより感じられるものに変更し、口当たりがソフトになるようにパン生地の配合も見直した。5月にはパン生地を大きくした「大きなサンドイッチ」を発売。具材も増量し、従来の類似品と比較して約100g重量が大きく、1gあたりの価格も下げた。さらにローソンストア100も、おにぎり類の約4割に当たる商品を最大10%値下げするとも発表した。
「国内のセブン事業は、売上は横ばいが続いており悪くはないものの、前年度(2025年2月期)は既存店の客数が前年同月比マイナスとなった月が4カ月、売上高が同様の月は5カ月となった点は本部としては見逃せない動きでしょう。また、全店の平均日販の伸び率をみてみると、ローソンが前期比3.2%増、ファミマが0.7%増で、セブンが0.1%増にとどまっている点も気がかりでしょう。実質賃金の低下で消費者の懐が厳しくなるなか、特に首都圏では低価格がウリの小型スーパー『まいばすけっと』が出店攻勢をかけて増えているという動きもあり、コンビニはこれまで以上に『顧客に足を運んでもらう』ための努力が求められていますが、逆にいうと顧客が来てくれさえすれば一定の売上は維持できるものです。
今回のセブンの新シリーズ投入も、“最近、セブンの総菜って安くなったよね”と顧客に認知してもらい来店のきっかけを増やすのが目的だと考えられます。顧客側に食べる際に食器を用意しなければならないという手間が増えるものの、量も含めて中身が変わらないまま価格が安くなるのは純粋に嬉しいことでしょうから、非常に良い取り組みだと感じます」
「パックデリ」シリーズ投入の背景について、セブンは次のように説明する。
「まず、前提としてご説明させていただきます。今回の取り組みは『フタ付きのプラスチック容器の商品をフィルム包材に置き換える』ものではなく、既存のカップ型容器を用いた商品(いわゆる「カップデリ」シリーズ)を継続販売しつつ、新たにフィルム包材を用いたより手ごろな惣菜シリーズ『パックデリ』を展開するものです。この新シリーズ導入の背景には、昨今の原材料や包装資材価格の高騰もございます。そうしたなかでも、お客様にとって『手に取りやすく、日常的にご利用いただける価格帯の惣菜』を提供し続けるための一つの選択肢として、よりシンプルな包装形態の商品を拡大することといたしました。
フィルム包材の採用により、フィルムの状態で工場に納品され、工場でパック型に成型するため物流効率に優れております。また、カップタイプと比較してプラスチック使用量の削減にもつながる点は、環境負荷軽減の観点からも意義があると考えております。今回の『パックデリ』は、価格訴求力・環境配慮・商品バリエーションの拡充という複数の目的を兼ね備えたシリーズであり、既存の『カップデリ』とあわせて、より幅広いお客様ニーズに応えてまいりたいと考えております」
「パックデリ」の拡充の主な目的は「値下げ」なのか。
「『価格の抑制』は一つの目的ではありますが、あくまでお客様にとっての手に取りやすさ(=値ごろ感)を維持することが主眼です。同時に、環境負荷の軽減や、この包材だからこそできる商品設計の工夫といった複数の視点を持って検討・導入しており、単なる値下げ戦略ではございません」(セブン)
フタ付きのプラスチック容器と比較し、どれくらいの価格低下効果があるのか。
「容器の資材コストとしては、カップタイプとの比較で約2割のコスト削減につながっております。包材の見直しだけでなく、調理工程や商品設計の工夫も含めた総合的な取り組みの結果、シリーズ全体としては30~50円程度、価格を抑えて提供することが可能となっております」(セブン)
では、競合他社が容量据え置きのままでの値下げや、容量増加による事実上の値下げなどの動きを強めるなか、セブンは事実上の値下げを進めていく方針なのか。
「当社では、5月13日より『お値段そのまま!人気商品増量祭』を開催しております。こちらは、対象となる人気商品について価格は据え置いたまま内容量を増量することで、お客様に実質的な値下げ実感と満足感を提供する期間限定のキャンペーンです。日々のご利用の中で、少しでも『お得さ』を実感いただけるよう、価格以外の価値で還元する取り組みとなっております。
このような販売促進企画に加え、当社では日頃よりお客様の日々の食卓を支える存在であり続けることを目指し、価格だけに依存しない、総合的な価値提供を重視しております。量目・価格・満足感の全体設計を通じて、『実質的なお得感』を高める商品づくりに努めており、容量増加や仕様変更などによる価値の見直しも、今後の商品特性やお客様のニーズを踏まえて柔軟に検討してまいります」(セブン)
と、ビジネスジャーナルが報じた。
編集者:いまトピ編集部