2025/8/27 16:53

AI医療機器「1200件の検査を一人」「医師不足解消に貢献」

びっくり

・AI医療機器は専門医不足の地方医療でニーズが高まっている。画像診断AIの進化により医療技術の均てん化が期待される一方、保険収載や診断責任が課題。
・和歌山県の竹村医院では、医師一人が年間1200件の胃カメラ検査を行うなかで、誤診防止のためAI内視鏡を導入。AIを医師の「補助線」として活用し、見落としリスク軽減に役立てている。
・地方医療におけるAI医療機器の導入は、医師不足や経営難の中で誤診を減らし、医療を持続させるための選択。将来的には問診から診療ナビゲーションまでAIが担うことで、医師不足解消に貢献する可能性もある。

 AIによる画像診断技術が進化するなかで、医療の現場ではその社会実装が徐々に進んでいる。特に、専門医の不足や高齢化が深刻な地方医療の現場では、AI医療機器が静かに必要とされ始めている。

 今回は、AI医療機器協議会の金井宏樹氏と、AI内視鏡を導入した和歌山県・田辺市にある竹村医院の高原伸明医師に話を聞いた。技術と現場の距離感を浮かび上がらせる。

AI医療機器というと、最先端の大病院が導入する高度な技術というイメージを持つ人も多いかもしれない。だが、実際には日本全国での活用が始まりつつある。AI医療機器協議会(2019年設立、加盟社数は当初3社から現在は38社に拡大)で理事を務める金井氏は、医療現場でのAI活用の進展を次のように説明する。

「画像診断におけるAIの活用は、まず放射線分野から始まりました。X線やCT、MRIは静止画で構成され、AIとの相性が良い。続いて、医師の手技(カメラや器具を扱う際の技術)の影響を受けやすい内視鏡や手術支援といった動画ベースの分野でも導入が進んできています」

 たとえば金井氏の所属するAIメディカルサービスが開発したのは、内視鏡画像診断用ソフトウェア「gastroAI model-G2」。これはAIを利用して画像上で早期胃がんの診断補助を行う内視鏡診断支援ソフトウェアで、内視鏡検査中に、医師の診断のダブルチェックをリアルタイムで行うことができる。一般的に、内視鏡による胃がんの発見率は医師の経験や技術力によって大きく左右されるとされる。AIによるダブルチェックを導入することで、熟練医師が少ない地域においても検査水準の底上げが期待できる。

「医療技術の“均てん化”(全国どこでも、誰でも標準的な専門医療を受けられるように、医療技術や医療資源の格差を是正を図ること)という考え方があります。上位の医師の診断をデータ化することで、経験の浅い医師でも精度を底上げできる。AI医療機器は、そのためのツールでもあります」

社会実装が進んでいるとはいえ、現場での導入はまだ限定的だ。当初は薬事承認が下りないということもあったが、そこはクリアできつつある。しかし、保険収載(公的医療保険として認められ、診療報酬で点数がつくこと)がまだであるため、導入には病院側の自費負担が求められる。

「導入が進んでいるのは一部の医療機関に限られていて、医療機器が本当の意味で全国に普及するには、保険加算に関する働きかけが必要です。それが見込めるのは、早くても2030年ごろではないかとみています」(金井氏)

 加えて、診断における責任の所在や規制との兼ね合いから、現状ではAIは「診断支援」に留まり、最終的な判断は医師が行う必要がある。効率的に活用するためのファーストリード(AIが最初に医療画像をスクリーニングし、異常の可能性がある画像を選別する役割を担うこと)も制度上は難しい。

「特に自治体での導入は予算を取るのに時間がかかるため、2年は必要だと思います」(同上)

こうした状況のなかで、AI内視鏡の導入に踏み切ったのが、和歌山県田辺市にある竹村医院の高原伸明医師だ。年間約1200件の胃カメラ検査を1人で担う高原医師は、導入の理由をこう語る。

「専門医が少ないこの地域では、二重読影や指導体制を整えることは現実的に不可能です。私自身も69歳になり、体力の低下は避けられません。万一のことがあってはいけないと、見落としを防ぐためにAIの力を借りようと考えました」

 AIが示す疑わしい箇所に対して、人間がもう一度丁寧に観察を行う──高原医師が導入した使い方は、まさにAIを“補助線”として活用するモデルだ。現時点ではAIだけに任せるのは困難だが、医師がAIの指摘に応じて観察することで、見逃しリスクを減らすことができる。

「進行がん・早期がんを1例ずつ見つけられています。すべてAIのおかげとは言いませんが、少なくとも“見逃さずに済んだ”という安心感はあります」

 竹村医院がある田辺市では、専門医はごくわずか。南に下るほど医師は激減し、「ガイドライン通りに診療すれば、診療自体が成立しない」状況だという。地方の病院は経営が厳しく、若手医師はどんどん都市部へ出て行ってしまう。親の代から続く医療機関であっても、子どもを医師として育て上げたにもかかわらず、後継者にはならない——、そんな話も珍しくないという。

 医師不足の現実に直面する地方の医療現場。高原医師は、自らが引退すれば「後がいない」状況になると語る。医師会も含めて、開業医と勤務医の意識差があるため、制度改革への動きも鈍いという。

実際のところ、どのような医療現場ならAIの価値が見いだせるだろうか。率直に高原医師に尋ねたところ、「見落としを防ぎたいという医師には向いているが、研修医のようなレベルでは使いこなせないだろう」とAIの可能性を肯定しつつも、活用は限定的だという見方をした。現状のAIは画像診断での支援が主だが、将来的には問診や一次診断、さらには診療ナビゲーションまで担えるようになることを期待している。

「たとえば問診支援AIがもっと発展して、一次問診をAIが行い、訓練を受けた看護師が診察をして、医師の指示を仰ぐことができるようになれば、医師の数が足りなくてもカバーする体制が作れるかもしれませんね」

 地方医療におけるAI医療機器の導入は、単なるテクノロジーの進化ではない。限られた人材・資源の中で「誤診を減らし、医療を持続させる」ための、必要に迫られた選択なのだ、とビジネスジャーナルが報じている。

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編集者:いまトピ編集部