『三菱電機』「感情を読む」エアコンとは

●この記事のポイント
・三菱電機のルームエアコン「霧ケ峰」が、AIとセンサーで人の感情を推定し、快・不快に応じて風や温度を自動調整する機能「エモコテック」を強化。
・宇宙衛星技術を応用した赤外線センサーとバイタルセンサーを組み合わせ、人の手足の温度や脈から快適さを数値化し、心地よい空間を実現。
・ 国内生産にこだわり、顧客の声を迅速に製品開発へ反映。AIとものづくりの融合で「空気を読む家電」時代を切り開いている。
かつてエアコンは、ただ部屋を冷やす、暖めるといった単機能の機器にすぎなかった。ところが近年、AIやセンサー技術の進歩により、エアコンは「人の快適さを追求するパートナー」へと進化している。
「人の快適さを追求するパートナー」へと進化している。
この進化の最前線に立つのが三菱電機のルームエアコン「霧ケ峰」だ。同社は上位モデルにおいて、使用者の感情まで推定して空調を最適化する「エモコテック」を搭載している。
三菱電機 広報担当者はこう語る。
「エモコテックは、当社独自の赤外線センサー『ムーブアイmirA.I.+』とバイタルセンサー『エモコアイ』の2つのセンサーによって、在室者にあった空調を行う機能です。温度だけでなく“キモチ”を見ながら気流・温度を自動で調節し、くつろぎやすい空気を提供できるのが特徴です」
いまやエアコンは「空気を読む家電」へ。三菱電機の挑戦は、日本の家電市場にどのような変化をもたらそうとしているのだろうか。
「エモコテック」とは何か
今回の進化の核を成すのが「エモコテック」だ。ここには、人間の快・不快を推察し、それに応じて空調を制御するという、従来のエアコンにはなかった視点が盛り込まれている。
三菱電機によれば、エモコテックは以下の2つのセンサーを基盤にしている。
ムーブアイmirA.I.+:約64,000エリア[徹山1] (Zシリーズ)の温度情報を検知し、360°の視野角を持つ高精度赤外線センサー。床や壁、住宅の断熱性・気密性まで検知し、人の手先・足先の温度を把握することも可能だ。
エモコアイ:微弱な電波を用い、人の脈を非接触で計測。その結果から快・不快を推定し、風の当て方や運転モードを調整する。
「エモコアイによって計測した脈から在室者の快・不快を推定し、不快と推定した場合には風を大きくよける運転を行うなど、くつろぎやすい空気環境に調整します」(三菱電機広報担当者)
単に「寒い」「暑い」に対応するのではなく、「居心地がいいかどうか」に寄り添う。この一歩踏み込んだ制御こそが、エモコテックの最大の価値だといえる。
注目すべきは、この技術の背景に宇宙開発がある点だ。ムーブアイmirA.I.+は、もともと人工衛星「だいち2号」に搭載された赤外線センサー技術を応用したものである。
「ムーブアイmirA.I.+は、当社がJAXAから受注・製造した地球観測衛星『だいち2号』に搭載された赤外線センサー技術を活用しています。人の手先・足先の体感温度まで検知できる精度を備えており、そのノウハウが家庭用エアコンに生かされています」(同)
宇宙観測のために開発された最先端のセンサー技術が、いま家庭のリビングで人々の快適な暮らしを支えている。異分野の技術転用によるイノベーションの好例といえるだろう。
こうしたAIの導入は、三菱電機だけの動きではない。エアコン市場全体が高度化・知能化へとシフトしている。
ダイキン工業はクラウドAI「うるるとさらら」により、外気データや気象予報をもとにした空調制御を推進。
パナソニックは「ナノイー」技術とAIを組み合わせ、空気質改善と快適性の両立を目指す。
シャープはプラズマクラスターを活用し、AIと連動させて空気清浄効果を最大化している。
しかし、多くのメーカーが「外部環境」や「空気質」に焦点を当てているのに対し、三菱電機は「人の感情」に踏み込んでいる。これは市場の中でも際立ったアプローチであり、「空気を読む」ことを真に実現する試みといえる。
もう一つの特徴は、生産体制へのこだわりだ。多くのメーカーが海外生産を進める中、三菱電機は霧ケ峰をすべて国内で生産している。
「静岡製作所内に営業・マーケティング・企画・開発・製造・サービスの各部門を集約しています。部門間の距離をなくすことで、社会トレンドやお客様のニーズを早期に把握し、製品開発に即反映できる体制を整えています」(同)
「国内生産」という選択は、コスト面で不利に映るかもしれない。しかし、その裏には「顧客の声を迅速に製品に反映する」という思想がある。スピードと品質の両立こそ、同社が掲げる競争力の源泉だ。
エアコン市場が進化を続ける背景には、社会全体の変化がある。
・人口減少・高齢化:操作の容易さや健康への配慮が求められる。
・省エネ要請:脱炭素社会を目指す中で、省エネ性能の高さは購買基準の中心になりつつある。
・ウェルビーイング志向:生活空間を「心地よく過ごす場」として設計する動きが強まっている。
エモコテックは、まさにこうした時代背景を反映する技術といえる。単なる冷暖房機器ではなく、人の心身の状態を踏まえた「ウェルビーイング家電」へ──その方向性を明確に示している。
未来の空気をつくる挑戦
三菱電機の取り組みは、家電業界に限らず、ビジネス全般に学びを与える。
・異分野の技術転用:衛星技術を家庭用に転用したように、自社の強みを他分野に展開できるかがイノベーションの鍵となる。
・顧客体験の深化:「温度」ではなく「感情」にまで踏み込む発想は、顧客中心主義の真髄である。
・体制の一体化:開発から製造まで一気通貫で行う体制は、スピード経営を志向する企業に大きな示唆を与える。
AIが生活に浸透し、人の感情を推定して快適さを提供する時代が到来した。「霧ケ峰」のエモコテックは、その象徴ともいえる存在だ。
単なる冷暖房機器から「感情に寄り添う家電」へ。エアコンが空気だけでなく人の心をも整えるようになったとき、暮らしはどのように変わるのか。その先駆けとして、三菱電機の挑戦は確実に市場をリードしていく。
と、ビジネスジャーナルが報じた。
編集者:いまトピ編集部