日本の『大人気アニメ映画』948億円を突破「世界市場を席巻」

・『鬼滅の刃』が全世界で948億円を突破し、東宝とソニーGの連携による“日本発グローバルヒット”モデルが確立。
・ソニーG傘下アニプレックスが映画・ゲーム・音楽を一貫展開し、多チャンネル戦略で世界市場を席巻。
・ソニーGは映像・音響技術とクロスオーバー戦略を軸に、半導体売却後の新たな成長領域としてエンタメ事業を強化へ。
ソニーグループ(ソニーG)と東宝が手を組んだ映画『鬼滅の刃』は、2025年に公開された映画の中で世界トップ5にランクインし、全世界興行収入は948億円に達する大ヒットを記録した。この成功は偶然の産物ではなく、ソニーGのアニプレックスを中心とした戦略的なメディア展開と、東宝の映画配給における長年の経験が生み出した奇跡的なシナジーによるものだ。
『鬼滅の刃』の背後には、ソニーGが進めるマルチメディア戦略や、映画、ゲーム、音楽を一体化させたクロスオーバービジネスモデルが存在する。本稿では、その成功の背景に迫り、今後の展開についても深掘りしていく。
ソニーGと東宝は、それぞれ異なる強みを持ちながらも、その協力によって業界に革命をもたらした。ソニーGは、アニメや映画、ゲーム、音楽など複数のメディアをまたいだ事業展開を得意とし、特にアニプレックスというアニメ制作・配信の巨頭を所有している。アニプレックスは、過去に『鬼滅の刃』のアニメ版を制作した実績があり、その後、映画化に向けた戦略を推進した。
一方、東宝は映画制作と配給の老舗企業であり、国内外での映画ヒット作を数多く生み出してきた。『鬼滅の刃』の劇場版もその一つで、映画業界における強力なネットワークとプロモーション力が、この作品の成功に貢献した。ソニーGと東宝の連携は、単に映画を制作するだけでなく、ゲームや音楽といった異なるメディアで展開することで、総合的なビジネスモデルを形成している。
『鬼滅の刃』とアニプレックスの役割
『鬼滅の刃』は、ただのアニメ映画にとどまらず、ソニーGが推進する多メディア戦略の象徴となる作品だ。アニプレックスが手掛けたこの映画は、ソニーGの映画事業の一環として、アニメの制作から映画公開、さらにその後のゲーム展開までを一貫して推進してきた。
アニプレックスは、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)の子会社であり、アニメ制作だけでなく、音楽や映画、さらにはゲームの開発に至るまで幅広く展開している。そのため、アニプレックスは『鬼滅の刃』において、アニメ放送から映画化、さらにはゲームの発売に至るまで、一貫したメディアミックス戦略を実施。これにより、映画公開前後のメディア展開を最大化し、ファンを獲得することに成功した。
アニメから映画、ゲーム、音楽、グッズに至るまで、ソニーGは多チャンネル展開を行い、映画『鬼滅の刃』の世界的な成功に大きく貢献した。
ソニーGの多チャンネル戦略とグローバル展開
ソニーGの戦略は、単一のメディアに依存することなく、映画、ゲーム、音楽など複数のメディアをつなげるクロスオーバービジネスモデルにある。この戦略の中心に位置するのは、ソニーGが所有するアニプレックスや、ゲーム分野での大手プレイヤーであるソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)だ。
『鬼滅の刃』は、その映画化に留まらず、PS5向けゲームとしてもリリースされ、ゲームの売上が映画の成功をさらに後押しした。映画のストーリーやキャラクターをゲームに反映させることで、ファンは映画の世界観を新たな体験として楽しむことができ、逆にゲームの売上が映画の認知度を高めるという、まさに相乗効果が生まれた。
また、ソニーGは、映画やゲームだけでなく音楽にも注力しており、『鬼滅の刃』の映画音楽や関連楽曲も大ヒット。これにより、映画の世界観が音楽とともに広がり、ファンの間でさらに浸透した。
これらの戦略を通じて、ソニーGは日本国内だけでなく、アジア、北米、さらにはヨーロッパなど、世界中で『鬼滅の刃』のブランド力を高め、グローバルな展開を加速させている。
戦略コンサルタントの高野輝氏はソニーの多チャンネル戦略とグローバル展開について、以下のように分析する。
「ソニーグループの多チャンネル戦略とグローバル展開は、主にそのエンタテインメント事業とエレクトロニクス事業の両面で重要視されています。多チャンネル戦略については、エンタテインメント分野で特に顕著です。
音楽、映画、ゲーム、アニメといった多様なコンテンツを、パッケージ販売、デジタル配信(ストリーミング、ダウンロード)、放送など、様々なチャネルを通じて世界中の消費者に届ける戦略です。
音楽では、海外のSMEと連携し、新しいリリース情報やプロモーション素材を共有することで、アーティストの海外展開(イベント出演やプロモーション施策)を確保しています。
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (SPE) やゲーム事業 (SIE)は、映画やゲームでも、プラットフォームや地域ごとに最適な販売・配信戦略を構築し、多角的な収益源の確保を目指しています。
また、全社横断プロジェクトでデータやシステムの一元化を進め、最新のDX(デジタルトランスフォーメーション)やAI技術を活用して、オペレーションの標準化や効率化を図り、多様なチャネルでの展開を支えています。
一方、グローバル展開については、ソニーの長年の成長の鍵であり続けています。
エレクトロニクス製品からエンタテインメントコンテンツまで、創業期から積極的に国際市場へ進出し、そこで得た成功体験を事業戦略に活かしてきました。特にアメリカ企業との合弁会社設立などを通じて、海外市場への参入や多角化をいち早く進め、グローバル化に対応してきました。
さらに、各地域の市場特性を理解し、現地のパートナーを選定し、適切なマーケティング戦略と販売チャネルを構築することで、事業の海外進出と持続的な成長を促進しています。
ライブエンターテイメントやスポーツ分野においても、トラッキング技術などのソニーの技術力を米国フットボールリーグ(NFL)や北米アイスホッケーリーグ(NHL)などで活用するなど、グローバルに展開しています。
これらの戦略により、ソニーグループは世界規模で多様な製品やサービスを提供し、各地域のニーズに応じた事業展開を図っています」
技術協力とプロダクト開発
『鬼滅の刃』の成功は、技術面でも革新的な要素が含まれている。ソニーGは、映画制作においても最先端の映像技術や音響技術を駆使しており、特に映像美やCG技術において高い評価を得ている。『鬼滅の刃』では、アニメのクオリティを維持しつつ、映画という大スクリーンで表現される迫力ある映像がファンを魅了した。
また、ソニーGは、映画制作だけでなくゲーム開発においてもその技術力を発揮しており、PS5向けのゲームは高品質なグラフィックとインタラクティブな体験を提供することで、映画の魅力をさらに深めている。このように、ソニーGの技術力は映画、ゲーム、音楽といった異なるメディアで融合し、ファンに新たな体験を提供している。
ソニーGは、映画制作においても次のステップを見据えた戦略を描いており、その中で新たなプロジェクトやテクノロジーの導入が期待されている。特に、現在は主力事業であるCMOSセンサーやスマホ向けカメラ、半導体事業の売却を検討しているとの観測が強い。これにより、ソニーGはよりメディア事業に集中し、次世代の映画制作やゲーム、音楽などの分野でさらなる成長を目指すと予測されている。
映画事業においても、アニプレックスや東宝との連携を通じて、新たなコンテンツの開発が進められ、さらに大規模なメディア展開が期待される。映画、ゲーム、音楽の融合によるクロスオーバー戦略は、今後も重要な成長の軸となるだろう。
ソニーGと東宝の戦略的な連携は、映画業界における新たな成功モデルを築いた。『鬼滅の刃』に見られるように、映画、ゲーム、音楽を一貫して展開するクロスオーバービジネスモデルは、今後のメディア展開において欠かせない要素となるだろう。技術協力やグローバル展開を駆使した戦略は、ソニーGが次に挑戦するべき課題とともに、新たな市場を切り開く原動力となり続けるに違いない、とビジネスジャーナルが報じている。
編集者:いまトピ編集部