『金曜ロードショー』代表作に含まれない作品「社会問題」
Amazon 話題の劇場アニメ『果てしなきスカーレット』が、11月21日(金)より公開される細田守監督。今月の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は、ケモナーかつショタ好きな細田監督のヒット作を連続オンエアする「細田祭り」を絶賛開催中です。21日の放映作品は『竜とそばかすの姫』(2021年)。放送時間を35分延長しての本編ノーカット放映です。
コロナ禍で制作、そして劇場公開された『竜とそばかすの姫』(以下『竜そば』)は、King Gnuの常田大希が主宰する音楽プロジェクト「MILLENNIUM PARADE」とBelle(中村佳穂)によるテーマ曲「U」が話題となり、ロックダウンにうんざりしていた若い世代がシネコンに殺到することになりました。興収は66億円と、細田監督最大のヒット作となっています。
日テレは4週にわたって『金ロー』で細田監督の代表作を放映しているわけですが、今回の4作品の中には『未来のミライ』は含まれていません。このことも気になります。
細田監督は、自身の結婚体験をベースに『サマーウォーズ』(2009年)を制作し、ブレイクを果たしました。続く『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)では亡くなった母親の思い出、さらに『バケモノの子』(2015年)では父親/師匠の存在の重要性を描いています。自分自身の感じる切実なテーマや体験をアニメーション化してきたわけです。
日テレからハブられた『未来のミライ』は、ふたりの子どもを持つことになった細田監督の子育て体験をアニメ化したものです。家族のアイデンティティーを掘り下げたテーマ性は、カンヌ映画祭やアカデミー賞会員ら欧米の上流階級層には非常にウケがいいものでした。
しかし、上白石萌歌が声優を務めた主人公である男の子・くんちゃんのわがままぶりは、日本の観客にはウザく感じられてしまったようです。高級住宅街で暮らす主人公一家の裕福な生活ぶりが、出産も結婚も諦めている若者たちの反感を買った部分もあるように思います。興収は28.8億円と伸び悩みました。
日本のファンに『未来のミライ』が受け入れられなかったことは、日本社会の貧しさ、余裕のなさが反映されているようにも感じられます。
ネット社会をたびたび題材にしてきた細田監督は、そうしたファンの声もキャッチしているはずです。自分自身を語ることはいったんやめ、華やかなミュージカルパートでファンを呼び戻し、さらにキラキラ系青春映画を思わせるコメディ要素をトッピングし、若い世代にとっての社会問題を盛り込んだのが『竜そば』なのではないでしょうか。
ただし、社会の底辺であえぐ人たちに、仮想現実やアニメーションがどれだけの救いになるのかは疑問です。『竜そば』では、主人公のすずは「竜」が現実世界で苦境に立たされていることを知り、ひとりで助けに向います。地方で暮らす女子高生ひとりの力で、「竜」が日常的に置かれている環境から救い出すことは可能なのでしょうか。
クライマックスですずの下した決断は、決して「適切」とは言えないものです。でも、すずは行動せずにはいられませんでした。大人たちや社会に頼っていては、間に合わないと考えたのです。若者たちにとっては、未来よりも今こそが大事なわけです。
自分がすずの立場だったら、すずの仲間だったら、すずの保護者だったら……。家族間やSNS上でそんなやりとりが交わされることを、実は細田監督がいちばん望んでいるのかもしれません。
生活と心にもう少し余裕ができるようになれば、日テレがハブした『未来のミライ』も「けっこう面白いじゃん」と思えるようになるのではないでしょうか。とサイゾーオンラインは報じた。
編集者:いまトピ編集部
