高齢者の住まいをめぐる問題が深刻化している。賃貸住宅の“貸し渋り”が後を絶たず、ある調査では65歳以上の4人に1人が年齢を理由に断られ、さらに家主の約7割が高齢者入居に拒否感を持っている。貸し渋りの高齢者支援を行う不動産会社・プライムの石塚惠氏は「ひとりで亡くなり、ご遺体が傷むと、部屋に臭いなども付き次に貸すことができない」と説明する。

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 背景には、孤独死による部屋の汚れや、事故物件扱いになるリスク、そして年金暮らしによる「家賃滞納への不安」がある。また、生活保護受給者の半数以上が高齢者という老後の貧困、認知症のリスクが頻出していることで、頭を悩ませる家主も多いという。『ABEMA Prime』では、高齢者の住宅事情について考えた。

■孤独死のリフォームに数百万円も…貸す側の切実な事情

 R65不動産の調査で、65歳以上の26.8%が入居を断られたという。3000件以上の高齢者の賃貸トラブルに取り組んできた司法書士の太田垣章子氏は、「体感ではもっと多い。50件電話をして、対応してくれるのは1、2件。やはり家主はかなり渋る」と語る。

 病気による孤独死では事故物件にならないが、「腐敗して臭いが付き、特殊清掃が入ると事故物件扱いになり、原状回復費用が負担になる」。加えて認知症の問題もある。「家族が世話をするなら問題は起こらないが、関係が希薄していたり、人数が少ないこともある。制度は三世帯同居を基準にして成り立っていて、福祉がレスキューするところまでつながらない」。

 もうひとつの課題として、死後の相続がある。「賃貸借契約も相続されるのがネック。相続人が相続放棄すると、相続財産清算人を専任しなければならないなど、なかなか家主は次の人に貸せない」とした。

 貸し渋り問題の解決策としては、家主が安心して貸せる環境の整備や、見守り活動の普及・促進などに加え、老後の資金設計や見守り体制の確保、認知症などに備えて「任意後見人」を立てたり、死亡後の様々な手続きを委任する「死後事務委任契約」を行ったりなど、高齢者自身が「自立」した備えを行うことも考えられる。

 太田垣氏自身が関わった例として、「93歳と89歳の夫婦が、福祉の手から漏れていた」ケースがあったそうだ。「介護サービスなどの制度を本人たちが知らなかった。昔は民生委員が訪問していたが、今は行政もシャドーワークで大変。これから高齢者の一人暮らしが増えたとき、とても行政だけでは手が回らない」と危惧する。

■賃貸or持ち家、都市部or地方 “終の住処”の選び方は

 フリーライターで編集者の元沢賀南子氏(58)は、「アラ還暦・シングル・子なし・フリーランス(低収入)」の属性で、老後に住宅難民にならないため、早めに“終の住処”を見つけようとしている。賃貸か購入、都市部か地方、シェアハウスかアドレスホッパーなど、様々な可能性を模索。物件チェックは、去年だけで1000件を超えた。

 住宅探しの経験から、元沢氏は「賃貸が得だ」と勧める。「買うと固定資産税がかかる。近隣のリスクもあったら手放すのは大変だが、賃貸だったら逃げられる。お金に余裕があるなら、賃貸に住んで蓄えておき、誰も貸してくれないとなった時に、ようやく買うくらいの気持ちがいいのでは」。

 かつては持ち家を持っていたこともあるという。「20代でマンションを買ったが、2回も泥棒に入られて、3年後に売った。侵入経路が共用部分だったため、管理組合全体で対策を考える必要があったが、話し合いにならなかった」。その経験から「一戸建てしかないと思ったが、東京では手が出ず、ずっと賃貸族だった経緯がある」と明かした。

 太田垣氏は「地方が借地借家法で、賃借人保護に偏っている」と語る。「家賃未払いでも、賃借人が高齢だと、裁判官は『家を奪うことは重い』として判決を出し渋る」。また、「高齢者は動くタイミングが遅すぎる。現役の時には家賃を払えていたが、年金暮らしでは払えないとわかっても、収入に合った安いところに引っ越さない」と触れる。

 高齢者が選ぶのは「安い家賃帯が多く、そういう物件は古い」傾向にある。「建て替えとなると、退去しなければならない。50代から収入と築年数を比べて、自分が死ぬか、建物が古くなるか、どちらが先かを考えて、60代で引っ越す。70、80代になって、『東京は高いから地方へ』と行っても馴染めない。高齢者に住みやすい物件を探すこと、金銭面や築年数も考慮して、『最後まで住もうと思ったら住める物件』に引っ越すのがいい」との見方を示した。

 経済学者で慶應義塾大学名誉教授の竹中平蔵氏は、「住宅だけでなく、介護全体の中で議論しないと、問題は解決しない」と指摘。「要介護者が間違いなく増える中で、介護施設を徹底して地方に作ること。財政負担は中央政府が補助する。私のところにも、大手老人ホームから『介護まで全部みとる』というダイレクトメールが届くが、豪華マンションを買うくらいの高額だ。お金で解決できる人にはいいが、そうでない場合には、地方に介護システムを作るしかない」と提案した。(『ABEMA Prime』より)