新卒採用ならぬ“老卒採用”と名付けて65歳以上を積極採用する企業にメリットと課題を聞いた。

【映像】「シニア人材、欲しいですか?」に対する厳しい現実(アンケート結果)

 日本が向き合うべき課題の一つである「超高齢社会」。内閣府が去年発表した「高齢社会白書」によると2037年にはおよそ3人に1人が高齢者になると見込まれているという。そんな時代背景の中、不動産情報サービスを手掛けるLIFULLが“老卒採用”を打ち出した。

 LIFULL執行役員 CCO川嵜鋼平氏は「“老卒採用”は『年をとったら引退しなきゃ、なんてない。』をキャッチフレーズに老いの既成概念からの卒業を目指す。65歳で定年退職する・年をとったら年相応の働き方をしないといけないという既成概念はシニアの当事者側にもあるが、多様性あふれる組織作りを推進していくことが結果的に自社の持続的な成長にもつながっていくと考えている。“老卒採用”にはいろんなメリットがある」と述べた。

 老卒採用で募集するのは「営業」「クリエイティブ」「法務」の3部門で、原則リモートワーク。豊富な経験と専門性を持つ65歳以上を採用したいという。

 この部門を選んだ理由を川嵜氏は「やはりコピーライターは知識・経験がものをいう職種。営業においても、シニアだからこそ持っている知識・経験・人脈を多角的に発揮してもらうことで我々の営業チームに新たな視点が取り入れられる」と説明した。

 LIFULLは今回、65歳以上の労働者300人と、企業の採用担当者300人を対象に「シニアの就業に関する意識調査」を実施。その結果、自分の経験やスキルを活かしたいと考えるシニアは83%にものぼった。

 しかし、高齢者を取り巻く採用状況は安定しているとは言えない。企業に行ったアンケートによると年齢を理由に採用を断ったケースが63%もあるという。実際、シニアの採用に積極的な企業はわずか21.0%。

 LIFULLが試算したところ、将来、労働力不足になるなかで、就業を希望するシニアが職を得られない場合の経済損失はおよそ1兆400億にものぼるという。LIFULLではこうしたシニア層の経験を「超経験」と高く評価して組織の多様性を高めたいとしている。

 川嵜氏は「国民の3人に1人が老齢人口になって労働力不足の時代に入ってくる。調査の中で企業側とシニア側で認識ギャップがあるとわかったが、シニアの超経験が生かせていないのは企業にとっても日本社会にとっても大きな損失だ」と実情を語った。

 企業がシニアを採用する1番の理由は人手不足。シニア層の知識や経験が重要だととらえている企業は2割程度しかない。多くの企業が人手不足になる中、シニアの「超経験」に価値を置く老卒採用は主流となるのか?

 「生きること=働くこと、という価値観の人が増えてくると感じている。これから少子高齢化・人口減少が進んでいくためシニアが活躍する場は広がっていく。今回の老卒採用をきっかけに1人でも多くのシニアが自分の超経験を活かしたい、企業の採用担当者の人が自社でも採用してみたいと思っていただけるとありがたい」(川嵜氏)

 日本では少子高齢化が進み、労働力不足がより深刻となるが、日本大学危機管理学部教授/東京工業大学特任教授の西田亮介氏は「労働力不足の解決方法は大別すると4つのアプローチが主流」と説明した。

 「1つは移民による国外からの労働力の補充、2つ目は機械で置き換えていく自動化、3つ目が女性の活用、4つ目が高齢者の活用だ。とはいえ、3つ目の女性の活用については条件面での男女格差はまだ残っているものの相当に進んできた。そのため、残りの3つが重要になる。ただし円安が続くなかでは海外からみた労働市場としての日本の魅力は乏しく、機械化は道半ば」

 その上で西田氏は「健康寿命も伸びているため、高齢者の労働力に対する期待は今後も高まっていくだろう。年金支給年齢を引き上げる動きもあり、連動して定年年齢の引き上げや撤廃などという考え方もあり得るはずだ」と述べた。
(『ABEMAヒルズ』より)