海上自衛隊の護衛艦「いずも」に後方から接近、甲板の上を進むドローンが映した18秒の映像が、物議を醸している。3月26日に中国の「BiliBili動画」に公開され、29日にXに転載されているのを確認。防衛省は当初フェイクの可能性を指摘していたが、5月9日、本物の可能性が高いと明らかにした。

【映像】投稿された「いずも」ドローン動画

 「いずも」は海上自衛隊最大の護衛艦。事実上の空母に改修され、最新鋭のF35B戦闘機の運用が可能になる、日本の防衛上重要な艦船だ。そもそも基地など防衛施設の上空はドローンの飛行が原則禁止されているのだが、なぜこの動画が撮影できたのか。さらに、武器が搭載されていたら基地や艦船に被害が及ぶ危険があった。

 ドローンをめぐる日本の防衛と危機管理について、『ABEMA Prime』で考えた。

■専門家「愉快犯だと思う」 撮影者の主張は

 安全保障アナリストで慶應大学SFC研究所上席所員の部谷直亮氏は、早い段階から映像を本物だとみていたという。歪みやちらつきがないこと、窓に反射した車などが自然、艦番号が「8」だけなのは別の画像とも一致、旗と波の向きが違うのは横須賀港の特性上自然、「飛行音で隊員が気づくはず」というが高度や波の音があることから聞こえない、フェイク元となる動画入手経路が不明であることをあげる。

 真偽の判断に時間がかかった理由については、「1つは、日本国内は電波法によってドローンの性能を制限していて、その本質を知らないこと。もう1つは、信じたくなかったというのはあると思う。『捏造の可能性』と最初に言ってしまったのもそうだし、フェイクの証拠を探すようなことをしていたという情報も聞く」と指摘する。

 自称・撮影者は番組取材に対し、「私が撮影しました」「私が本物のスパイならネットに投稿しないで中国当局に送ったよ」と英語で回答。投稿は中国語がメインだが、日本語やフランス語のものもある。また、共同通信の取材には「楽しむために危険を冒した」「違法行為だった。もう二度としない」などと答えている。

 部谷氏は「データや証拠が残っていてわかりやすかった。本当のプロだったら残さない。ハッカーと話していたのは、中国の仕様のまま持ち込んで、最長4キロ以内の高台か建物から飛ばしたのではないかと。愉快犯だと思うが、他の狙撃銃などとは違って素人でもできるところが怖い」と懸念を示した。

■佐藤議員「基地警備に穴があること、自衛隊の動画解析能力が低いことが露呈」 必要な対策は

 ドローン規制法では、総理官邸や国会、皇居など国の重要施設、外国公館等、防衛関係施設、空港、原子力事業所の300メートル以内の上空の飛行を禁止。必要に応じて破壊をすることもできる。

 元自衛官で自民党国防議連事務局長の佐藤正久参議院議員は「法律的には、ドローン規制法と自衛隊法の2つで対応はできる。前者は警察が捕まえたり、機能を停止するというレベルまで。自衛隊法の95条を使えば撃ち落とすこともできる。ただ今回のことで、基地警備に穴があること、自衛隊の動画解析能力が低いことが露呈してしまった」と危機感を示す。

 撮影を防ぐためにできたこととして、部谷氏は電波妨害による強制着陸、捕獲網の投射による捕獲、低空域の航空管制システム、高性能な探知装置の配備、スクランブルで対応可能なカウンタードローンの配備をあげる一方で、「日本の対策は絶望的」と語る。

「電波法の制限によって、対処機材とレーダーの性能が極めて低くなっているので、狭い範囲しか届かない。国内に持ち込まれた瞬間に駄目だ。陸上自衛隊の問題点として、低空域に敵やメディアのドローンがどう飛んでくるのかを把握するシステムがない。これは各国が苦しんでいて、イスラエルも同士討ちが4割、ウクライナなんかは結構うまくやっている。また、市民団体やメディアのドローンを落としたら大問題なのだが、自衛隊にはそういう能力を与えるべきだ」

 イギリスで2017年、空母クイーン・エリザベスにアマチュア写真家のドローンが着陸、韓国で2022年、北朝鮮からとみられるドローンがソウルなどの都市付近に飛来した。こうした事例から佐藤氏は「日本だけの問題ではなく、どこも頭の痛いいたちごっこをしている。また、軍と民の境目もなくなってきているが、日本はドローン産業が育っていない。軍や防衛に関わるところには壁があり、自衛隊もみんな海外から輸入せざるを得ない。中国は自律型で目標に飛んでいくAIドローンを作っているが、どんどん小型化し、四方八方から群れで来られたら対応は難しい」と述べる。

 部谷氏も「規制が強いと商業利用ができず、日本のドローン産業はどんどん終わっていく」と賛同した上で、「規制を緩和させて社会需要を高めつつ、自衛隊基地などに入ったドローンは落とす。今の問題点は試していないことだ。妨害電波の影響も、例えば同じ周波数帯のETCが使えなくなると言う専門家もいるが、試せばいい。また、日本が遅れているのが制空ドローン、つまりドローンを落とすドローンだ。これを常時基地に飛ばしておいて、怪しいものが来たら捕まえに行く。電線につけて飛ぶものや、電源が減ると自動で帰ってくるものもあるので、そういうのを自衛隊に配備し、電波法も緩和して、非殺傷のドローンを落とすべきだ」と指摘した。

 こうした議論を踏まえ、佐藤氏は「探知機材は今よりレベルの高いもの、また監視機材もそれぞれの基地に配置する。法律についても、抑止のための罰則を引き上げることも必要だ。そういったドローン自体以外の部分でも防衛予算を上げていく必要がある」と今後の展望を示した。(『ABEMA Prime』より)