人気競技の「駅伝」。実業団、大学など様々な大会があるが、ルール改正で議論となっているのが全国高校駅伝。対象となったのは「外国人留学生」だ。

【映像】高校駅伝で活躍する外国人留学生

 長い区間で大逆転を演じるなど、時に日本の高校生たちとの力の差を見せつける留学生ランナーの起用をめぐっては、これまでもたびたび議論になってきた。出場できるのは各校1人(エントリーは2人)まで、2008年には最長区間での起用を禁じるなど、徐々に制限が設けられてきた。

 そんな中、2024年大会から改正されたルールが、「男女とも留学生の起用は最短区間に限る」というものだ。全国高校駅伝の最短区間は男女とも3キロ。この変更にSNSでは、「こんなに制限されたら日本に来る意味がなくなる」「ハイレベルな留学生に挑むことにも意味があると思う」といった声があがっている。

 スポーツにおける留学生の存在について、『ABEMA Prime』で議論した。

■箱根駅伝で2度の優勝・真也加ステファン氏「制限するならなぜ呼ぶのか」

 全国高校体育連盟専門部の陸上競技事務局は改正の理由について、番組の取材に次のように答えている。「2008年度から『1区除く区間で1人』としたものの、その後も留学生の圧倒的な走り、全体の勝敗を決めてしまうほどの状況が続いた」。関係者に2回アンケートを実施し、ともに過半数が留学生の区間変更に賛成。「留学生で勝負が決まってしまい不公平感がある」という声も聞かれたということだ。

 元駅伝ランナーでスポーツライターの酒井政人氏は「まだ規則がなかった時、仙台育英高校が2人の留学生を使い大活躍した。そのパワーが強すぎたことから規制が加わったが、まだまだ差がある。特に近年は、女子のアンカー区間で留学生の活躍が目立ち、最終的に日本人が抜かれてしまうシーンが話題になっていた。そういうのはあまり見たくないという人もいる中で、新しい方法に取り組もうとしているところではないか」と話す。

 高校の体育大会の意義について、同事務局は「高校生の教育活動の発表の場」との認識を示している。あくまでも「教育の場」が前提で、「各校が勝負にこだわりすぎて留学生に頼り、全体の底上げを軽視することはよくない」「その上で、日本人の生徒も留学生に挑みスピード力を向上させてほしい」としている。

 桜美林大学駅伝部総監督の真也加ステファン氏は、高校生で留学来日した後、山梨学院大学時代に箱根で2度の総合優勝を果たしている。「学校のPRもあるが、高校は自校のレベルを上げるために留学生をとっている。留学生と一緒に練習して強くなる、“ケニア人に勝った”というモチベーションにもつながる。高校生も5000mで13分30秒台になってきているが、そういう交流でレベルアップしている」と話す。

 真也加氏は「ルールの中でベストを尽くす」という思いの一方で、「後輩の活躍の場が狭まる」「ケニア人留学生は高校で活躍して良い大学や実業団に入ることが目標。長距離が走れないとアピールの場がなくなる」と、改正に疑問を呈している。

「こういう話が出ると“留学生はいらない”となってくると思うが、そもそも駅伝というのは日本の文化で、世界のリレーとは異なる。もちろんケニアにもない。高校が留学生を入れるのは自校のアピールのため、学校の力をつけるためのはずだ」

■「3キロ」のために呼び、その後は?

 NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は「留学生に対しては、何らかのインセンティブを学校側は用意すると思うが、ケニアの子たちにとって日本は未知の国。結果的には大学に行けるかもしれないし、事業団に入れるかもしれないが、どうなるかはわからない。ある種、強制的に連れてくる面があるのであれば、今回の規制はそれを正すことに向かうのでは」との持論を述べる。

 これに真也加氏は「無理やり連れてくることはない。強くなったらお金になる、言語を勉強すれば日本の企業で働けるといったことをもちろん説明する。それで日本に行きたくなければ、ヨーロッパでもいい。ただ、日本に行ったものの、入りたい企業に入れず返されるケースもあって、そういう子が『日本行っても返されるよ』とマイナスイメージを伝えることもある」と説明。

 一方、酒井氏は「実際、ケニアではキャンプで練習して、優秀な選手しか日本に来られない。一部の地域では駅伝も浸透しているので、日本の強い大学に行きたいという選手もけっこういる」と伝えた。

 とはいえ、「3キロ」のために呼ぶ必要はあるのか、留学生側はメリットを感じるのか。真也加氏によると、あくまで呼ぶのは駅伝のためで、1500m、5000mなどは“オプション”になるそうだ。

 酒井氏は「今は強い留学生が日本人を抜くシーンがフィーチャーされている。しかし、今後留学生が増えていき、ケニア人以外の留学生が駅伝に興味を持って出場する時代になっていくと、またルールは変わっていくだろう。なので現状、3キロに押し込むのは、日本のレベルを上げるという意味でも考え直していいと思う」と訴える。

 お笑いコンビ・EXITの兼近大樹は「教育機関においてはお金がそんなに関わるものではないはずで、規制は少ないほうがいいと思う。ケニアの子に日本へ行くかを聞くのは、『あなたの可能性はここにもあるけど、日本という国に行って駅伝で走ればもっと広がるかもしれない』という進路相談の話だと思う。本人にとっても今後の人生を考えるタイミングだが、そこで日本の利権が関わって、『やっぱり3キロしか走れないんです』となってしまうのは切なすぎる。正直、日本の都合で呼んじゃいけないという気持ちが大きい」との考えを示した。(『ABEMA Prime』より)