Googleが14日、テキストを入力するだけでリアルな動画を自動で生み出す生成AI「Veo(ベオ)」を発表した。「生成AI元年」とも言われる今年は、ChatGPTだけでなく、画像やイラストを作れるサービスが続々と登場している。

【映像】生成AIを活用した漫画『裏AI太郎』の制作過程

 漫画家の野火城(のびしろ)さんは、昨年からAIを活用した漫画を作り始めた。絵コンテを作り、ストーリーを固めた後、イメージを英語に翻訳して入力すると、十数秒でイラストが完成する。狙い通りにいかず、生成し直すこともあるが、手書きで30分ほどかかる作業が約10分で終わるという。絵が苦手でも、AIによって創作できる時代だ。

 名古屋市の「K&Kデザイン」では、AIを活用して、実写映像を加工している。企業CMなど数十秒のビデオ素材を作るときなど、予算や納期の制約があるなかで、表現の幅を広げつつ、クオリティーを高められるという。

 一方で、既存の作品をAIが勝手に学習することで、似た作品を生成してしまう“著作権の問題”も存在する。AI時代におけるクリエイターの存在意義について、『ABEMA Prime』で考えた。

■生成AIは仕事奪う?「使えば使うほど大丈夫だと思う」

 生成AIを使った映像制作もしている、映像監督の曽根隼人氏は「『こういう画像を作りたい』というビジョンがあると、なかなかたどり着くのが難しい」と、現状の限界を語る。「ビジョンがフワッとしていないと、永久にゴールへたどり着けない。漫画家の場合は、メインのキャラクターを自分で描いて、背景など時間がかかるが労力を割きたくない部分に使うのがいいのでは」。

 フォトグラファーの小田駿一氏も「実は手間がかかっていて、意外と便利にはなってないのでは」と指摘する。「フォトグラファーは、アートディレクターやクライアントと絵作りを決めた上でスタートし、そこへゴールしないといけない。作れない人が作れることはすごいが、プロの品質で常用するのは難しいと感じる」。

 とはいえ、生成AIには「人間の創造性を超えるのでは」との期待があるのも事実だ。2023年には、世界的な写真コンテストの最優秀賞作品が、生成AIを使用した画像だったと話題に。ドイツ人クリエイターによるもので、AIによる作品であると公表し賞を辞退した。また2022年には、アメリカの美術コンテストで、生成AIを使用した絵画がデジタルアーツ部門で1位に。生成AI使用作品での表彰はコンテスト史上初で、「これは芸術の死だ」と報道されるほどの騒動になった。

 このように生成AI活用には批判もあるが、曽根氏は「AIで将棋大会のカンニングをするようなもので、単純なルール違反だ」との見方を示す。「写真コンテストの作品を見たが、2人の女性のうち片方が絶妙な表情をしていた。そこに『なにか思いがあるのでは』とグランプリを取ったのだろう。審査員も『思いのないAIでした』とわかればグランプリにならない」。

 AIと人間によるアート作品の最大の違いは「所有できないこと」にあると、小田氏は説く。「作家の文脈とプロセスがセットになって、アートに価値が生まれる。ピカソの作品と同じものをAIが作っても、それは“贋作”でしかない。コンテストのような出たとこ勝負の場ならまだしも、購買行動として同一評価するかといえば別の話だ」。

■100億円かかる作品が10億円で?生成AIの可能性

 どのような可能性をAIに見い出すのか。曽根氏は「100億円の作品が10億円になる」と予測する。「『スターウォーズ』を作りたくて業界に入っても、いまは企画書にすら書けない。予算の問題から『作れるわけない』と言われるからだが、AI技術を使えば、もしかしたら日本の映画市場でもギリギリ作れるかもしれない。そこに夢がある」。

 生成AIの情報発信を行っているAIディレクターのKEITO氏は、「生成AIがスーパーアシスタントになる」と期待を示す。「先日発表されたGPT-4oでは、画面上の映像を読み取って内容を解説したり、リアルタイムで音声会話ができたりする。デザインやシステム開発中の映像をAIに見せれば、アシスタントとしてリアルタイムでフォローしてくれるようになるのでは」。

 OpenAIによるChatGPTの新モデル「GPT-4o」では、AIと音声によるリアルタイムの対話が可能になっている。また、テキスト・音声・画像などの認識能力が大幅に向上したことも大きな特徴だ。

 いずれ生成AIは、人間の仕事を奪うのか。曽根氏は「ワークする部分はワークするが、やれない部分は全然やれない」と語る。「クリエイターがいなくなると言われるが、使うほどに『大丈夫だ』と感じる。毛嫌いしがちだが、触ってみると全然できないとわかる」。その反面、メリットもある。「漫画家が映像制作できるなど、1人のクリエイターでやれる領域が増える」。

■「先に作品を出しまくる」著作権合戦に?

 生成AIをめぐっては、著作権の課題もある。KEITO氏は、2つの段階で問題が考えられると解説する。まずは開発段階の機械学習だ。「思想や感情の享受を目的にしない場合は、自由に使っていいと言われている。一方で特定のIP(知的財産)キャラクターを生成するためのモデルづくりはダメ」。その次には、生成・利用段階がある。「ユーザーが使う場合は、既存の著作権法と同じ考え方で、『類似して依拠性があれば著作権侵害』という考えが一般的だ」。

 曽根氏は「著作権合戦」が起こる懸念を示す。「みんな『自分の作品だ』と、先に発表しまくるビジネスが出てきそうで、法整備しないと危ない。『作りたいわけじゃない作品』に価値はあるのか。『自分の作品に似ている』と訴訟するために、大量生産する危険性がある」。

 既存の作品に似ていると判断する方法はあるか。KEITO氏は「Googleの画像検索に入れると、一応の確認はできるが、100パーセント正しいわけではない。大手企業が電子透かしの『C2PA』規格を標準化しようとしている」と説明した。(『ABEMA Prime』より