京都府福知山市夜久野町に残る「漆かき」の技術を保存していくために、ウルシの木と人との共存を図る。そんな構想に京都工芸繊維大大学院の菰田伶菜(こもだれな)さん(22)が大学の卒業制作として取り組んだ。名づけて「丹波漆伝承物語」。夜久野町の「やくの木と漆の館」で今月上旬、詳細を披露した。

 菰田さんは工芸科学部デザイン・建築学課程建築コースに在籍した。学習やインターンシップを通じ、府北部や北近畿の課題を研究するプログラム「地域創生Tech Program」を履修した。

 卒業制作では伝統産業の再生をテーマに選んだ。丹波漆の存続に危機感を抱き、「次世代に引き継がないといけない」と思ったからだ。

 工芸品などに使われる漆は、幹を傷つけ、しみ出る樹液を利用する。植樹から採取できるようになるまで約10年かかる。採取後は伐採する。

 菰田さんの構想では、約1ヘクタールの土地に1年に100本ずつ、10年で計1千本を植え、ウルシの林をつくる。樹液を採って伐採したあと、切り株から新しい芽が出てくるので、それをまた10年かけて育てる。基本的に林の形は変わらない。

 この林の中に建物を増やしていき、喫茶店や体験工房として利用する。建材は地元の間伐材。釘は使わず、建材同士をくさびで固定するため、組み立てや解体が簡単にできる。漆を採取する際のやぐらのほか、シカよけの柵やベンチ、ジャングルジムとしても使う想定だ。

 植樹した木から漆が採れるようになれば、こうした建物の床をその漆で塗装する。建物の建材は、伐採したウルシに替える。そうすることで、水をはじいて腐りにくくなり、50年後まで建物が使えるようになるという。

 菰田さんは、ここを訪れた子どもが林で遊び、大きくなったら、その子ども、さらに孫を連れてくるといった人生のサイクルにあわせて活用でき、漆と人が長い期間共存できると説明した。

 菰田さんの発表を聞いたNPO法人丹波漆の高橋治子理事長は「わたしたちでは絶対に思いつかない。4分の1や6分の1のスペースでモデルを作ってみればよいのでは」と話していた。

 菰田さんは「夜久野の自然を生かしていけたらという思いで取り組んだ。10年というウルシのスパンと建築と人の成長を一緒に示せた点が自分では一番納得がいった」と語った。

 やくの木と漆の館では、この研究の模型などを5月上旬まで展示している。(滝川直広)